無視された安倍首相
ゴールデンウイークの安倍首相のドイツ訪問については「日独首脳記者会見で福島の状況には一言も触れなかった安倍首相」で詳しく伝えたが、ドイツのテレビがその訪問をまったく伝えず、有力新聞も無視したことに驚かされた。
ベルリンの首相官邸前でドイツ連邦軍の儀仗兵による閲兵式にのぞんだメルケル首相と安倍首相、あるいは共同記者会見のあと日独の国旗の前でにこやかに並んだ両首相の映像は、ドイツのテレビについに登場しなかった。たいていの場合こうした首脳同士の会談は終わった直後からテレビのニュースで簡単に取り上げられるので、私は首脳会談の後の記者会見に参加して帰宅してからテレビのニュースを見続けた。しかし、なかなか取り上げられない。最初はまだ時間が早すぎるからだろうと思って公共放送のARD(ドイツ第1テレビ)とZDF(ドイツ第2テレビ)のニュースを交互に見続けたが、ついに夜遅くまで、まったく取り上げられなかった。先頃韓国の朴大統領や中国の習近平国家主席が訪問した時はドイツのメディアがこぞって大きく報道したのとは大違いだった。
さらに「南ドイツ新聞」などのドイツの主要新聞もまったく無視したことが気になった。日独の首脳会談が行われた翌日は5月1日のメーデーで新聞休刊日だったことも影響していたのかもしれないが、5月2日の紙面で伝えることもできたはずである。実際地方新聞の中には5月2日に取り上げているものもいくつかあったが、いずれもロイター通信などの通信社の記事を使っているだけで自社の記者の報告ではなかった。これは何を意味するのだろうかと少々考え込んでしまった。
「原発事故3年、変化するドイツ人の日本観」で取り上げたように、ドイツのメディアには、もともと福島の事故後の日本の対応について厳しい見方がある。さらに安倍首相の特定秘密保護法の強行採決や歴史認識でアジア諸国を挑発し続けていることなどについても詳しく伝えられている。「原子力ムラの村長は安倍首相であることが、ますますはっきりしてきた」「放射能汚染水を海に垂れ流しているのは国際的犯罪である。その責任を安倍首相は自覚していない」「安倍首相は被災者の人間的な苦しみや訴えに耳を貸さず、苛酷な事故を起こした日本の原発を世界一安全だというグロテスクな主張のもとに、外国に輸出する原発商人である」といったマイナスのイメージが存在する。そのことと今回の日本の首相のドイツ訪問がマスメディアに無視されたことと関係があるのだろうか。いずれにしてもドイツのメディアにとって興味のある政治家ではないと見なされたことは確かなようである。
安倍首相はイギリスやフランスでは“仮面を脱いで“ 原発再稼働を明言し、フランスとは原子力や軍事関係部門での協力協定を結んだと伝えられるが、そのイギリスやフランスのメディアはそれを大きく取り上げたのだろうか。