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法人税減税とTPPで復活する日本〔2〕

 

女性の力で90兆円増大

 産業政策の効果が不確かであることに比べ、女性の力を最大限発揮させるという女性の労働参加の促進は、労働力が増えるのだから、必ずGDPを増大させる効果がある。私の試算によれば、日本の女性の労働参加率と女性と男性の賃金格差が英米独仏の平均になれば、GDPは18.5%、金額でいえば90兆円増大する(原田泰「女性雇用拡大のためのコストはいくらか」WEB RONZA、2013年5月9日)。労働力を活用することの効果はきわめて大きいのである。

 ついでながら、これはアベノミクスの第一の矢、大胆な金融緩和の効果が大きい理由でもある。バブル以前、日本の失業率は2.5%であった(バブル期の終わりには2%にまで低下した)。これが日本の正常な失業率である。

 ところが、バブル崩壊後、5.5%にまで上昇した。アベノミクスが始まる前は4%余りであったが、雇用調整助成金で無理やり下げている分があるので、実質的には5%であろう。大胆な金融緩和とは、デフレによって5%になってしまった失業率を元の2.5%にまで下げるという政策である。失業率が2.5ポイントも下がれば、それだけでGDPは大きく増えるだろう。これは雇用拡大を伴う政策が大きな効果をもつということである。

 ただし、現在のままの制度で保育所の定員を増やすには巨額の補助金が必要になる。規制緩和で保育所のコストを下げるとともに、保育所の料金を上げて需要を減らすべきである。民主党政権時代の児童手当の増額に応じて保育所の料金を引き上げればよかったが、いまからでは難しいだろう。

 また、女性の活用という言葉は無駄に反発を買うのではないか。政府もそれがわかって、「女性の力を最大限発揮」という言葉を使っているのだろうが、成長のために女性を使うというので反発を感じる人はいるだろう。むしろ、家計が豊かになるために女性が働くのが当然だと考えるのが普通ではないか。日本では、600万円以上の所得のある夫は612万人いるが、600万円以上の所得のある妻は60万人しかいない。夫婦で働けば1000万円以上の所得になる家計が増えるわけだから、国に活用されなくても、自ら働くことはおかしくない。

 アメリカで、1960年代以降、経済が悪化したときに家計が行なったことは妻が働くことだった。最初は、日本のようにパートで働くことだったが、やがてフルタイムで働き、その地位と収入を引き上げていった。結果としてアメリカ経済は、90年代からの日本の凋落を尻目に、先進国で最高の実質経済成長率を維持してきたのである。

 

成長戦略という言葉をやめる

 安倍総理がダボスで強調された法人税減税とTPPは効果がある。政府が成功しそうと考えるものに補助するより、実際に成功したときの民間の取り分を増やすことが望ましいからだ。それは法人税減税、所得減税になる。もちろん、巨額の財政赤字のなかで減税は難しいが、法人税減税は進めるべきである。法人はどこにでも動けるものだから、成功したときの取り分の多い国に行って立地する。そのような立地競争に負けないように減税する必要がある。

 TPPは市場を開放し、国内の産業を競争にさらすことだ。もちろん、競争力の強い産業はさらに世界で発展することができる。TPPの経済効果を政府は3.2兆円としているが、貿易だけでなく、投資の増大をも含めたダイナミックな効果を含めれば10兆円の効果があるという分析もある(内閣官房、ブランダイス大学のピータ・ペトリ教授による「PECC試算の概要」2013年3月15日)。

 また、民営化も重要である。郵政民営化で懲りてしまったのかもしれないが、非効率な官業を市場の圧力にさらせば効率が上がる。特区のなかではコンセッションを拡大するという議論もある。コンセッションとは、インフラの運営を民間に任すことである。道路、空港、港湾、上下水道の運営を行なう世界的大企業――デンマークの港湾管理会社A・P・モラー・マースク、水道を運営するフランスのヴェオリア・ウォーターなど――があるが、日本にはない。民営化は間違いのない効率化だ。

 特定産業への肩入れではなくて、規制緩和に尽力するのが成長戦略になる。成長戦略は、産業政策ではなくて、規制緩和、市場開放、民営化、減税でなければならない。私は、成長戦略という言葉を使うから、特定産業への肩入れとなって成長戦略がうまくいかないのだと思う。成長戦略という言葉を使うのをやめて、規制緩和、市場開放、民営化、減税のパッケージというべきだ(長くていいにくいのは認める)。規制緩和を1丁目1番地とする4本の槍といってはどうだろうか。

 

<掲載誌紹介>

2014年3月号

総力特集「靖国批判に反撃せよ」では、小川榮太郎氏が「靖国参拝は純粋に精神的価値であって、外交的な駆引きが本来存在しようのない事案」と喝破する。岡崎久彦氏は靖国参拝問題も従軍慰安婦問題も、実は日本(のメディア)から提起され、戦後の歴史問題が歪められたと説く。在米特派員の古森義久氏は「日本側としては米国や国際社会に対して靖国参拝の真実を粘り強く知らせていくべきだ」という。長期戦を覚悟のうえで、世界の理解を得るしかない。
特集「日本経済に春は来るか」では、(米国の)金融緩和の出口戦略の難しさをどう解釈するか、(日本の)4月からの消費税増税の影響と成長戦略について考えた。

 

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BN

 

著者紹介

原田 泰(はらだ・やすし)

早稲田大学政治経済学部教授

1950年、東京都生まれ。1974年、東京大学農学部卒。経済企画庁、財務省、大和総研などを経て、現在早稲田大学政治経済学部教授。東京財団上席研究員を兼務。
著書に、『日本国の原則』(日本経済新聞社/第29回石橋湛山賞受賞)、『TPPでさらに強くなる日本』(PHP研究所/東京財団との共著)ほか多数。

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