2014年02月10日 公開
たとえば、ヘルスケア産業である。ヘルスケア産業とは、医療産業のことである。しかし、医療は税金の投入で成立している産業であるから、その需要が増えることは税金を増やすことになる。成長戦略で提案されている医療情報の電子化は、標準的治療法を確立し、検診や投薬の重複を防いで、医療の効率化に資するだろうが、それ以外のものは税金を投入して医療産業を拡大するものが多いようだ。また、医療情報の電子化は何十年も前からいわれていることだが、これまで実現が遅れていたものでもある。
農業を成長産業にする手段はこの報告書には書かれていないが、農林水産省は農地の集約が大事で、そのために農地中間管理機構を設置して、土地を大規模化していくとしている。そのために農水省は2014年度で1000億円以上の予算を要求している。
しかし、規模を拡大したい農家は、自分の土地の周りで土地を求めている。もちろん、広い土地を安く売ってくれれば、そこに引っ越しをして大規模農業をしたい人もいるかもしれない。しかし、農地中間管理機構はそんなことはしてくれないようだ。それに対して、自分の村のことなら、村に住んでいる人がいちばん知っている。もう歳を取って耕せないから、機械が壊れてしまったから農地を貸したいという人がどこにいるのか、いちばん知っているのはその村で農業を拡大したい人だ。農地中間管理機構は、そんなことを知らない。
これまでも、農地保有合理化事業という、似たようなものはあったが、大したことはしていない。なぜいままでも成果を挙げていないのに、これからはうまくいくと考えるのだろうか。TPP参加で農業予算が拡大されるとの期待に乗じての予算要求なのだろう。
そもそもなぜ、農地の集積が進まないのか。べつに情報が不足しているからではない。中山間地では耕しにくい田圃を借りても効率が上げにくい。平らな所では市街化する可能性があり、市街化されれば高く売れるのに、それを農地として安く売るのはまっぴらだからだ。また、中山間地でも、国土強靭化で公共事業用地として高く売れる可能性が出てきた。それでは誰も売りたくない。貸すのなら構わないではないかと思うが、貸した土地が高く売れそうになったら土地を取り戻さなければならない。借り主にごねられたら面倒だから貸さないとなる。
多くの専門家が、農地の転用を禁止すれば高い値段で売れる可能性が消え、農地が賃貸売買されるようになると議論しているが、私は無理な話だと思う。それに、農地が市街地になるのは、土地の生産性が高まることだから成長を促すわけで、それを禁止するのは不合理である。また、すべての公共事業が無駄とは思わない。農地の転用を禁止して、必要な公共事業ができなくなれば、経済の効率を低下させる。東日本大震災の復興を早めるためにも、津波の危険の低い農地を宅地に転用すべきと私は思う。
つまり、転用を禁止するのがいい政策とは思えないのだ。それよりもむしろ、農地を借りる人の権利を弱めれば転用期待をもつ地主も貸すようになるだろう。地主のみを優遇すべきでないというのであれば、農地の固定資産税を引き上げるべきである。あるいは、水路の管理など農地としてきちんと保全していない地主の固定資産税を引き上げるべきだ。
<掲載誌紹介>
総力特集「靖国批判に反撃せよ」では、小川榮太郎氏が「靖国参拝は純粋に精神的価値であって、外交的な駆引きが本来存在しようのない事案」と喝破する。岡崎久彦氏は靖国参拝問題も従軍慰安婦問題も、実は日本(のメディア)から提起され、戦後の歴史問題が歪められたと説く。在米特派員の古森義久氏は「日本側としては米国や国際社会に対して靖国参拝の真実を粘り強く知らせていくべきだ」という。長期戦を覚悟のうえで、世界の理解を得るしかない。
特集「日本経済に春は来るか」では、(米国の)金融緩和の出口戦略の難しさをどう解釈するか、(日本の)4月からの消費税増税の影響と成長戦略について考えた。
慶應義塾大学法学部卒業。大阪府特別参与、行政刷新会議公共サービス改革分科会構成員(内閣府)、横浜市外部コンプライアンス評価委員、研究費不正対策...
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