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[アベノミクス第二の矢]ついに暴かれた公共事業の効果〔2〕

 

2006年にも相関関係は見られる

 以上の説明では、私は物価と財政金融政策の関係は重視していない。その理由は、1つは与えられた紙幅の制約だが、財政金融政策が重要なのは、それによって物価が上がることではなくて、実質GDPが上昇することであるからだ。財政金融政策が物価を上げるだけなら、そんな政策を発動する必要はない。

 1990年代以降の政策論争で物価を上げることが課題となったのは、デフレがGDPを押し下げていることで、その克服が重要目標となったからである。その結果、財政金融政策で物価を上げ、それによって実質GDPが上がるかどうかが問題となった。しかし、金融政策の効果は、物価だけでなく、為替レートや資産価格等、多くの経路を辿って実質GDPに影響を与えるものである。そのような因果の連鎖を縷々書き連ねることには、本誌はふさわしい媒体ではないだろう(これに関心のある方は前述の原田などの論文を読んでいただきたい)。要するに、物価は中間目標で、実質GDPと雇用の拡大が最終目標である。財政金融政策に効果があるかは、実質GDPを引き上げるかどうかで判断すべきである。

 しかし、1つだけ指摘しておきたい。図3は市場関係者の予想インフレ率(ブレーク・イーブン・インフレ率と呼ばれるもの)とマネタリーベースを示したものである。予想インフレ率とマネタリーベースのグラフだけを見て、「予想インフレ率とマネタリーベースは2009年以降では関係があっても、それ以前では関係がないではないか」という議論がある。しかし、2006年のマネタリーベースの縮小とともに、予想物価上昇率も低下している。それを示すのが、マネタリーベースと予想インフレ率の関係を示す関係式を推計して、それから得られる予想インフレ率をプロットした線である。これによれば、マネタリーベースの縮小が予想インフレ率を引き下げたことは明らかである。

 

 ちなみに、予想インフレ率とマネタリーベースの相関係数は、2004年から08年8月(リーマン・ショック直前まで)では、0.627となる。図から3カ月のラグがあるようなので、そのラグを付けると0.801と高くなる。

 ただし、リーマン・ショックのときのインフレ率の低下はマネタリーベースでは説明できない。要するに、予想インフレ率とマネタリーベースは関係があるが、その関係式はリーマン・ショックの前と後とでは変わってしまったということである。しかし、日本の実質輸出が月次で見て4割も激減するなど、あれだけの大きな出来事があれば変わってしまうのは仕方がないではないか。

 

ゴーストタウンより社会保障と防衛費を

 財政政策が実質GDPを引き上げない、またはその効果は小さいと考えられる5つの理由を挙げた。たしかに、高度成長期には公共事業の効果は大きかっただろう。道路や鉄道をつくれば、工場が来て、仕事ができる。人びとはそこで働くのだから、所得が増える。ところが、その後、公共事業をしても人が来ないようになってしまった。典型的なのは、震災対応の公共事業である。阪神・淡路大震災で壊滅的な被害を受けた長田区に過大な商業施設をつくったが、テナントが入らずゴーストタウンになっている。神戸でもゴーストタウンになるなら、被害を受けた東北の町々もそうなるだろう。本当に効果的な震災復興策を考えなければならない(詳しくは、原田泰『震災復興 欺瞞の構図』新潮社、2012年を参照されたい)。

 1980年代以降のデータを虚心に見ても、財政政策の効果が小さくなっているのは明らかであり、金融政策だけでも、景気は刺激されるとわかった。であるなら、景気対策は金融政策を中心に考え、財政政策は税収の制約を考慮して、長期的に必要な支出に振り向けることが肝心である。日本は、社会保障支出の拡大だけでなく、防衛費の増大も必要になる可能性が高い。ゴーストタウンをつくる余裕はない。

<掲載誌紹介>

2014年6月号

<読みどころ>今月号の総力特集は、「しのびよる中国・台湾、韓国の運命」と題し、中国の脅威を論じた。武貞秀士氏は、中韓による「反日・歴史共闘路線」で中国が朝鮮半島を呑み込もうとしていると警鐘を鳴らす。一方、宮崎正弘氏は、台湾の学生運動の意義を説き、中国経済の悪化でサービス貿易協定の妙味は薄れたという。また、上念司氏と倉山満氏は、中国の地方都市で不動産の値崩れが始まっており、経済崩壊が目前で、日本は干渉しないことが最善の策だと進言する。李登輝元台湾総統の特別寄稿『日台の絆は永遠に』も掲載。ぜひご一読いただきたい。
第二特集は、日清戦争から120年、日露戦争から110年という節目の今年に、「甦る戦争の記憶」との企画を組んだ。また、硫黄島での日米合同の戦没者慰霊式に弊誌が招待され、取材を許された。遺骨収集の現状を含め、報告したい。
さらに、世界的に著名なフランスの経済学者ジャック・アタリ氏とベストセラー『帝国以後』の作者エマニュエル・トッド氏へのインタビューが実現。単なる「右」「左」の思想分類ではおさまらない両者のオピニオンに、世界情勢を読む鋭い視点を感じる。一読をお薦めしたいインタビューである。

Voice

 

BN

 

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