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[アベノミクス第二の矢]ついに暴かれた公共事業の効果〔1〕

 

他の不況要因を除外して考えるべき

 以上述べた、公共事業の景気刺激効果を削減する理由は、いずれも理論的な可能性である。ただし、最後の理由は、価格上昇によって、すでにそれが事実であることが実証されている。他の理論的な可能性が事実であるか否かは、実証的な方法によって決着をつけなければならない。

 しかし、そうすることはかなり複雑な仕事になる。景気が良くなったのが、公共事業をしたことによってかどうかを判断しなければならないのだが、海外の景気が良くなって輸出が増えて景気が良くなることもあるし、なぜか技術革新によって画期的な新製品が多数登場し、景気が良くなることもありうる。そのような公共事業と関係のない要因を取り除いて、公共事業を増やすとどれだけGDPが増えるのかを検証しなければならない。

 また、金利が上がって民間の投資を押しのけるとか、金利が上がれば円高になって輸出が減少するとかいう因果の連鎖が必ずしも現実に見えるわけではない。円高で輸出が減れば所得が減って、金利は上昇しない。だから、金利が上がらないことはマンデル=フレミング・モデルが間違っていることの証明にはならない。

 さらに難しい問題がある。財政金融政策が発動されるのは不況だからである。すると不況期に公共事業を増加させ、中央銀行が直接コントロールできるお金、マネタリーベースを増大させることになる。ただ単純にデータだけを見ると、公共事業やマネタリーベースが増えているのにGDPが低下している、ということになりかねない。ここでも他の不況要因を除外して、純粋に財政金融政策の効果を見ないといけない。

 こういう複雑な事情を考慮しなければならないときには、マクロ計量モデル、時系列モデルという2つの方法がよく使われる。動学的確率一般均衡モデルという方法もあるのだが、それによる財政金融政策の効果を簡単に日本語で紹介した論文はないようである。

 マクロ計量モデルによる近年の結果では、1兆円の公共事業をするとほぼ1兆円のGDPが増えるという結果になる。GDPとは民間と政府のすべての支出を足したものだから、政府支出を増やせばそのぶんだけGDPが増えるという結果である。公共事業の額の何倍GDPが増えるかという数字を乗数というが、これは乗数が1ということである。乗数というほどの効果はないことになる。

 さらに、これは公共事業を拡大するとともに金融政策も発動した結果であり、金融政策を発動しない場合には乗数は1以下になってしまう。

 時系列モデルでも、最近の分析では、金融政策の効果はあるが、財政政策の効果はない、または小さいという結果になる(以上の判断は、原田泰・増島稔「第8章 金融の量的緩和はどの経路で経済を改善したのか」吉川洋編集『デフレ経済と金融政策』所収、慶應義塾大学出版会、2009年、飯田泰之「第6章 財政政策は有効か」岩田規久男・浜田宏一・原田泰編著『リフレが日本経済を復活させる』所収、中央経済社、2013年、中里透「デフレ脱却と財政健全化」原田泰・齊藤誠編著『検証:アベノミクス(仮題)』所収、中央経済社、2014年近刊によるさまざまな論文の紹介に基づく)。

〔2〕につづく

<掲載誌紹介>

2014年6月号

<読みどころ>今月号の総力特集は、「しのびよる中国・台湾、韓国の運命」と題し、中国の脅威を論じた。武貞秀士氏は、中韓による「反日・歴史共闘路線」で中国が朝鮮半島を呑み込もうとしていると警鐘を鳴らす。一方、宮崎正弘氏は、台湾の学生運動の意義を説き、中国経済の悪化でサービス貿易協定の妙味は薄れたという。また、上念司氏と倉山満氏は、中国の地方都市で不動産の値崩れが始まっており、経済崩壊が目前で、日本は干渉しないことが最善の策だと進言する。李登輝元台湾総統の特別寄稿『日台の絆は永遠に』も掲載。ぜひご一読いただきたい。
第二特集は、日清戦争から120年、日露戦争から110年という節目の今年に、「甦る戦争の記憶」との企画を組んだ。また、硫黄島での日米合同の戦没者慰霊式に弊誌が招待され、取材を許された。遺骨収集の現状を含め、報告したい。
さらに、世界的に著名なフランスの経済学者ジャック・アタリ氏とベストセラー『帝国以後』の作者エマニュエル・トッド氏へのインタビューが実現。単なる「右」「左」の思想分類ではおさまらない両者のオピニオンに、世界情勢を読む鋭い視点を感じる。一読をお薦めしたいインタビューである。

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BN

著者紹介

原田 泰(はらだ・やすし)

早稲田大学政治経済学部教授

1950年、東京都生まれ。1974年、東京大学農学部卒。経済企画庁、財務省、大和総研などを経て、現在早稲田大学政治経済学部教授。東京財団上席研究員を兼務。
著書に、『日本国の原則』(日本経済新聞社/第29回石橋湛山賞受賞)、『TPPでさらに強くなる日本』(PHP研究所/東京財団との共著)ほか多数。

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