インターネットで本を見つけようとすれば「読者レビュー」が目に入る。レストランを探せば「口コミ」がついてくる。

 誰もが気軽に評価や感想を発信できる。かつては専門家だけがやっていた、批評を書き、それを公表することが、広く行われる時代だ。

 例えば文学賞は、「権威」であるベテラン作家や評論家が選ぶものだった。いまも多くの賞はそうだが、近年、読者に近い書店員が投票する「本屋大賞」が最も注目される賞の一つになった。11回と歴史は浅いが、毎春発表の受賞作は、直木賞より売れるともいわれる。

 専門家の見方と身近な人の意見。参考にする物差しが増えるのは良いことだ。こうした多様な評価をうまく活用するためには、自分も批評性をもって本を読み、他の人の批評を読み解けるよう、若いうちに学ぶ機会があるといい。

 明治大学准教授の伊藤氏貴さんが、おもしろい教育実践をしている。高校生が直木賞を選ぶ試みだ。候補作をすべて読み、議論を重ねて受賞作を絞る。全国で4校が参加し、今月、合同の選考会も開かれた。

 伊藤さんは「生徒らは初め、自分の意見が否定されるのを怖がるが、次第に異論を受け入れ、一緒に新しい発見をしようとし始める。磨き合い、批評の水準が上がる」と語る。

 これにはモデルがある。フランスで最も伝統ある文学賞ゴンクール賞とともに発表される「高校生ゴンクール賞」だ。四半世紀以上続き、2千人もの生徒が参加する。誠実な選考が信頼され、受賞作が本家をしのぐ売れ行きになることもある。

 高校生のお小遣いでは、選考対象の本を全て手に入れるのは難しい。フランスでは大手企業が支援している。「高校生直木賞」は、今回は文芸春秋などが協力したが、活動を続け、広げるには、もっと幅広い手助けが必要だと伊藤さんはいう。

 演劇では、始まったばかりの「高校生劇評グランプリ」に、東京都内の多くの劇場が手を貸す。歌舞伎座や帝国劇場がある期間、批評を書きたい高校生に1万円以上の席を1千~2千円で提供した。未来の見巧者を育てることにもつながるだろう。

 批評することは、自分の見方が批評されることでもある。その厳しさと緊張を受け止めながら、議論や思考を深めるのは、若者にとってよい経験になるはずだ。異なる意見の人と冷静に討議し、考えを鍛える営みに大人が力を添えるのは、社会のためにも有意義なことだ。