2014年05月10日 公開
《『Vouce』2014年6月号より》
以上、ここまで本誌で26行かけてモデルの実証結果について書いたことは、専門家が面倒なことをして得た結果だから信用してくれ、といっているだけである。これでは本誌の読者には納得いただけないだろう。また、もし、財政政策や金融政策に本当に効果があるのなら、それほど面倒なことをしなくても効果のあることを示唆することはできるはずだという議論はありうる。
そこで、以上述べたことをグラフによって示したい。
図1は、1980年から95年までの実質GDP、実質公共投資(公的固定資本形成)、マネタリーベースを示したものである。図で明らかなことは、順調に伸びてきたGDPが90年代以降、停滞していることである。マネタリーベースはGDPの停滞に先立ち、伸びが鈍っている。ここから、マネタリーベースの停滞がGDP停滞の原因かもしれないと示唆される。一方、公共事業は1987年にはGDPを引き上げたと見えないこともないが、その後、伸びが停滞しているにもかかわらずGDPは伸びている。さらに、91年後半から公共事業が増加しているにもかかわらずGDPは増加していない。
図2は、1996年から2014年までのデータを示したものである。2001年から06年までマネタリーベースが増大するにしたがってGDPが増えている。ただし、2006年からマネタリーベースが減少しているにもかかわらず、GDPが減少するのはそれから2年たってからである。2年のラグは長すぎるから、マネタリーベースとGDPの関係はこの期間では強くないともいえる。しかし、アベノミクスが始まってからは、マネタリーベースの伸びがGDPの伸びをもたらしたように見える。
公共投資はグラフの期間中、ほぼ継続的に低下しているなかで、GDPは何とか伸びている。しかし、1998年のGDPの低下と公共事業の低下は連動している。また、アベノミクスが始まってからでは、公共事業の拡大と景気回復は連動している。
以上のように、グラフを見たところでは、マネタリーベースがGDPと連動している期間が、公共投資がGDPと連動している期間よりも長い。このことが、厳密な実証分析によって、金融政策は効果があるが、財政政策の効果は小さいという結論になる理由であろう。
ちなみに公共投資とGDPの関係を相関係数という統計的尺度(1であれば完全に連動し、ゼロであれば関係がなく、マイナス1であれば完全に逆に連動している)で見ると、1980~95年では0.849、1996~2013年ではマイナス0.886となる。相関係数がマイナスであるとは、公共投資を減少させるとGDPは増大する関係があるということである。これは図2を見れば当然の結果であろう。公共投資が減ってもGDPは増えているからである。
一方、マネタリーベースとGDPの相関係数は、1980~95年では0.991、1996~2013年では0.766となる。これは関係があるということである。
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慶應義塾大学法学部卒業。大阪府特別参与、行政刷新会議公共サービス改革分科会構成員(内閣府)、横浜市外部コンプライアンス評価委員、研究費不正対策...
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