ダルビッシュの何がどう凄かったのか
9回二死。あと一人。異様な雰囲気の中で打席に入ったレッドソックスの主砲、オルティスの強烈なゴロがセカンドを襲う。「ノーヒットノーラン達成!」と、誰もが思った次の瞬間、オルティス用のシフトディフェンスが敷かれていたことに気づかされる。内野への逆方向のゴロなど、ほとんどないオルティスの打球方向のデータに従って、ショートをベースよりも右に配置。一、二塁間に3人の内野手を置くシフトを敷き、セカンドの守備位置は、通常よりもかなり深かったのだ。レンジャースの新人セカンドベースマンは打球に飛びついた。だが、快挙を止める、この試合、初めてのヒットが、グラブの下を打球がスリ抜けていく。
ダルビッシュは、できるだけ無表情を装おうとしたが、悔しさは隠せなかった。球数は、すでに126球に達していた。8点差。記録がかかっていなければ、とうの昔にマウンドを降りているところだった。すぐさまベンチからワシントン監督が出てきて交代を告げた。ベンチに下がるダルビッシュに本拠地のファンからYUUU!と地響きのような声とともにスタンディングオベーション。悲運のヒーローは帽子だけを取って祝福に応えた。
「悔しいですが、チームが勝ててよかった。9回二死まで、投げれることは、めったにないし、これからも、こういういいピッチングを続けていきたい。こういう経験は2回目ですが、このようなピッチングを維持すれば、いつかまたチャンスがくると思う」。こういう経験とは、昨年4月のアストロズ戦で9回二死までパーフェクトゲームを続行しながら、同じくあと一人で泣いた試合のことだ。またしても、悲運のヒーローとなったダルビッシュに対して、全米のメディアは、様々な角度から議論を起こしている。
一つ目の議論が、「最後のセカンドゴロはアウトにできたのではないか」というもの。「ダルビッシュが、アウトひとつ足りずにノーヒッターを逃した!」と報じたESPNの電子版は、その記事の中で「オルティス用のシフトではなく、通常のシフトならば、普通のセカンドゴロだった」と、快挙達成を残念がった。実際、オルティスも、「普通のシフトなら試合は終わっていただろう」と語っている。MLB解説をしている元中日の与田剛氏も「ショートが、すぐにあきらめましたよね。あそこは、ショートが追うべきでした。捕れる可能性のある打球でしたね」という。