logo
編集室:佐賀市若楠3-1-15
株式会社 西日本情報センター
電話:0952-33-3155
FAX:0952-33-3166


連載 第20回
執筆者座談会 前編




龍 信廣 Ryu Nobuhiro タウン情報さが・ピープル編集長


 今回は、平成25年10月4日にノーベル賞受賞の益川先生(以下敬称省略)に参加いただいた座談会をまとめたものです。各々には「この連載に取り組んで思ったこと」を発表してもらい、それについて論議を行いました  「原子力、あなたはどう向き合いますか?」の連載を始めて20回目になります。タウン誌はグルメ、コンサート、季節の特集など地元の楽しい情報が主ですが、中でも原子力の記事は硬派に当たります。毎月、全国のタウン誌が送ってきますが、この課題に取り組んでいるのはこの雑誌だけ。だから、どれくらいの人が読んでくれているのか? ちょっぴり不安でもあります。しかし、避けて通れない課題だと考えしっかり取り組んでいるところです。




【龍】3.11の地震津波によって起こった福島原発事故はもはや元にもどることはできない。

【鈴木】私自身、物理学徒を標榜しており、科学の『真理探究がもたらす光』と『人間の営みであるが故の闇』の二面性を頭では解っているつもりだったが、福島の余りにも残酷な現実に打ちのめされた。福島で起こっていることは、実は私達が既に抱えている、科学と技術の問題、地球、生活スタイル、生き方を含む人間の問題を鋭く提起している。

【植原】3・11の東日本大震災で、わずかな建物を残して何もかも無くなった映像を見ていて、私は広島・長崎の焼け野が原を思い起こした。不幸にも、この連想は福島第一原発の過酷事故の発生と放射能の放出によって更に強められてしまった。私は、今は明確に、原発は倫理的に許されず、早急に廃炉の決断をすべきだと考える。その理由は、原発は使用済み核燃料の最終処分方法がなく、未来世代に過酷な負の遺産を残すからだ。

【龍】ビジネスを行っている私達は、顧客の視点で物事を考えている。そうしないとビジネスはうまく進まない。提供者理論だけでは生きていけない。

【近藤】原発を『推進した専門家』の人たち、原子力ムラ(政府内の専門家、電力会社内の専門家、研究者、政治家、経営者も含む)の無責任さを感じた。国民から税金とか電気料金を貰っているのだから、国民の為になることや、国民の安全確保には責任がある筈だ。今までの経緯を見ると、自分たちの利益や思惑に重きを置いて事を判断しているように思える。『科学者の社会的責任』と言われてきたことであるが、責任というのは、国民に対して責任を持つことだ。

【半田】3.11よりずっと以前ですが、新聞社から、北陸の原発運転差し止め訴訟の結果についてのコメントを求められました。判決は原告敗訴でしたが、付近の活断層による差し迫った事故は考えられないとの理由が大きかったと思います。『そもそも、原発が事故を起こすと取り返しがきかなくなるため、稼働条件としては最も厳しい、つまり、日本で生じうる最大の地震が付近で生じても耐えうることを考えるべきで、当然、断層が重要施設の直下にないことが無条件の安全条件にはなり得ない』といったことをコメントとして送ったのですが、当時としては当然記事には採用されませんでした。個別の事案についての事象を“厳密”に判断する裁判では、一般論では問題にされないのはある意味理解できますが。

【龍】原子力発電に関して、マーケットは企業であり市民なのに視点がそこに向いていない。一体、原子力発電の顧客はだれ?

【樫澤】原子力の専門家から成る、いわゆる「原子力ムラ」が、日本の原子力政策を支配し、その一つの帰結として、「福島第一原発」事故が生じたと言われている。ところで、専門家に対抗できるのは、別の専門家しかいない。したがって、日本で、「原子力ムラ」の支配を脱し、「健全な」原子力政策が展開されるためには、対抗的な原子力の専門家が必要ということになる。しかし、そのような専門家の育成は可能であろうか。自らの知識や技能を、明るい未来を築くためではなく、暗い未来を防ぐために生かそうとする若者がどれほどいるであろうか。

【長谷川】福島第一原発の過酷事故による大気、土壌、海洋への放射能汚染の影響は、原状回復までに数十年の歳月を要するといわれています。広島、長崎の苦悩が重なり、戦災後の日本と同じように、この大震災が日本の社会に大きな変革をもたらすのではないかと予見します。政府は、復興ではなく新しい日本の社会を創ると言う。社会を創るとは、これからの日本がどうあるべきか、日本人の生き方を抜きには語れない。米国の歴史学者キャロル・グラッグは、半世紀以上も戦後を引きずっている国は日本だけだと言う。

【龍】原子力に関連する様々な話題についての議論を通じて、この会合で学んできたことと言えば

【米山】例えば、原子力政策がどのように決定され推進されてきたか、使用済み核燃料の処理の行方、福島第一原発における汚染水処理の実態、チェルノブイリの実情、原発のもつ社会的・倫理的側面などについてです。  特に、自然界や社会にたいして核エネルギーが持つ計り知れない影響力を鑑みて、ドイツの「安全なエネルギー供給のための倫理委員会」が示した「核エネルギーを利用すること、またそれを停止したりそれに代わるエネルギーへ転換することに関する決定は技術的や経済的な観点より優先される」という考え方は、奥深い価値あるものだと感じました。この考え方は、科学・技術の発展を否定するものではなく、その発展はむしろ、私たち人間や他の生き物が住むこの地球の持続性を探っていくために必要とされています。また、遠い先の世代のことを思えば、一部の人間ではなく、広い範囲の様々な価値観を持った人たちが国の安全なエネルギー供給について議論し関わっていくことができるようになることが重要だと思います。

【龍】原発と放射能汚染について、内部被爆やチェルノブイリ原発事故から25年目に福島原発事故が起きたことについて

【福井】福島県沖で試験操業をするある漁師が言ったそうだ。『放射能が少しでも検出されたら、取った魚を孫には食わせられねえ。』
 この漁師は、微量放射能を根拠もなく心配しているのではありません。次の二つのことで正しい判断をしています。
一つは、放射能の内部被曝の危険性です。政府や原発を推進する国際機関(IAEA)は、内部被曝を外部被曝の被害と同程度にしか扱っていません。同じ線量でも外部被曝に比べ、内部被曝の被害は数100倍にも及びます。もう一つは、乳幼児への放射能被曝のリスクは大人の80倍にもなることです。
 チェルノブイリ原発事故から25年目に福島原発事故が発生しました。事故から20年後の時点では、ロシア、ウクライナ、ベラルーシ三国の健康被害者は700百万人に達しています。事故後25年経ったいまも甲状腺癌が増加しています。放射性ヨウ素(半減期8日)は2か月で消えているのに、被害が増えているのは、事故当時被曝量が多くはなかった人が今になって発症しているのではないかと、ウクライナの医者は分析しています。
福島原発メルトダウンの後始末は、技術的な見通しもなく次々と難題が出ています。海水への放射能の漏えいもコントロールできていません。人口密度の高い日本でこれからどんな健康被害がでるか不気味です。

【龍】オリンピック招致での、安部首相の原発発信 「私が安全を保証します。健康に対する問題はない。今までも、現在も、これからもない」

【豊島】福島原発事故から2年半以上経つが、事故は一層深刻な様相を示している。その中で,これほど見事に「放射能・放射線安全神話」が原発安全神話に取って代わったのは信じ難い出来事だ。人々は「除染」という新しい竹ヤリで放射能と戦っている。このため多くの人々が、そして子どもたちがひどい放射能汚染地域に閉じ込められている。さらに、こともあろうに一国の首相が世界に向かって大嘘をついてオリンピック開催地を窃取するという信じ難い光景が出現した。しかも「裸の王様」よろしく「大人の」メディアはこれをウソだと言わない。
 知識人や技術者の責任は大きい。安倍首相の嘘の告発はもちろん、放射能安全神話からの脱洗脳など多くの課題がある。太平洋の放射能汚染を食い止めるための、それぞれの専門分野に応じた技術上の貢献も求められている。個人としての貢献だけでなく、グループでの、そしてなによりそれぞれの学会として組織的な取り組みが必要ではないか。遮水壁に関しては土木系の学会が、放射能やメルトスルーした核燃料の問題では物理学会の関与が求められる。事故直後には原子核研究者のグループが土壌汚染の調査を行ったが、また新たな貢献が求められているのではないか。自民党政府は東電からの独立性が十分とは見なせないので、これら専門集団の活動は政府から独立したものでなければならない。





[TOPへ]

特定商取引法に基づく表記プライバシーポリシー
Copyright (C) Nishinihon Information Center. All