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4歳児が母のためにヌードモデルを務めた問題作『ヴィオレッタ』!「ロリータ・スター」と呼ばれた少女の叫び

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『ヴィオレッタ』公式HPより

『ヴィオレッタ』公式HPより

 『ヴィオレッタ』(2011年・フランス)は、監督であるエヴァ・イオネスコの自伝的作品です。

 エヴァ・イオネスコ監督は、1965年パリ生まれ。監督は、4歳から13歳の間に、母親である写真家のイリナ・イオネスコのヌードモデルを務めた経歴の持ち主です。幼いイオネスコ監督が被写体を務めた写真集『エヴァ』は、1977年に発売され、少女のヌードを撮影することに対して、芸術上の表現の自由と倫理をめぐって、フランスをはじめとしたヨーロッパ、日本でも大きな波紋を呼んだそうです。

 本作は、写真集の発売から34年経ち、大人になったエヴァ・イオネスコが脚本を書き監督した作品です。主役は監督の本名である「エヴァ」から「ヴィオレッタ」に改名され、年齢も12歳に変更されています。

 幼いイオネスコ監督は、当時のヨーロッパでは「ロリータ・スター」と呼ばれ、アメリカでは「史上最年少でPLAYBOYに載った少女」というキャッチコピーまで付けられたそうです。

 それらの出来事は、母親で写真家であるイリナ・イオネスコにとっては「成功」の証だったでしょう。けれど、体を張って母の成功に貢献した幼いエヴァにとって、それはどういう経験だったのでしょうか?

 2012年にイオネスコ監督が母親を相手に裁判を起こしたことから、母のためにヌードモデルを務めたことは、決して幸せな思い出ではないのだろうと伺えます。裁判は、子供の頃のヌード写真撮影およびその出版について、「子供時代を奪われた」とするイオネスコ監督が母親を相手取り、損害賠償と写真のネガフィルムの返却を求めて勝訴しました。

 『ヴィオレッタ』を見ると、「ロリータ・スター」や「史上最年少でPLAYBOYに載った」などの陳腐な評価は、大人側の勝手なレッテルにすぎず、母親の被写体を務めることや、一人歩きする評判が、いかにイオネスコ監督を傷つけてきたかわかります。『ヴィオレッタ』を見て、この作品は、大人に利用される子供や、今も支配に苦しむ全ての人に向けた、イオネスコ監督からの力強いメッセージだと感じました。

 実は『ヴィオレッタ』を見る前、私は少し気が重かったのです。私自身のバックグラウンドから、「母親」「憎しみ」「復讐」などをテーマにした創作物に触れると体調を崩してしまうので、「母親への復讐のために作られた、憎しみを全面に押し出した映画だったら嫌だな……」と、思っていました。

 けれど、『ヴィオレッタ』を見て私は体調を崩すことはありませんでした。それは、この作品が母親を傷つけるために作られた作品ではないからだと思います。この作品からは、「支配に苦しむ人たちが自力で立ち上がって自分の人生を切り開けますように」という、イオネスコ監督からの一貫した祈りのようなメッセージが読み取れます。

 映画のパンフレットには、イオネスコ監督のインタビューが載っています。「自分の経歴を描くにあたって、何らかの制限はもうけたのですか?」という質問に対し、監督はこう答えています。

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エヴァ―イリナ・イオネスコ写真集