東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 特集・連載 > 東日本大震災 > 電力・節電 > すごい! エネルギー > 記事一覧 > 記事

ここから本文

【すごい! エネルギー】

マグネシウムで電池 「太陽光」を貯蔵素

巨大な「フレネルレンズ」で太陽光を集め、レーザーを発生させる装置=東京都目黒区の東京工業大で

写真

 昔、写真のフラッシュは、金属のマグネシウムを燃やして使っていた。瞬間的に明るい炎を出して燃える。強いパワーと、ちょっと危ない、という両面の印象。そんなマグネシウムを使って、エネルギーが循環する社会を構築することができると、矢部孝・東京工業大教授が提案している。その意図と可能性は。

     ◇

 マグネシウムは海水や鉱物の中に豊富に含まれる。地殻に存在する元素の量としては八番目に多い。矢部教授は、マグネシウムに太陽のエネルギーを蓄え、使いたい時間、場所でエネルギーを消費することを考えている。

 一番有望だと思われるのがマグネシウム電池だ。

 「再利用できる乾電池のようなもので、エネルギーを蓄えられる量が大きい。リチウム電池に比べて、同じ重さなら十倍の力になります。携帯電話に使えば、一カ月充電不要。電気自動車もこれでいけるはずです」

 リチウム電池は高価なのに、それを搭載した電気自動車の航続距離は短い。リチウムの資源量も少ない。水素燃料電池はさらに高価なうえ、爆発しやすい水素の保存場所の確保が難しい。

 優れた特性を持つマグネシウム電池がこれまで実用化されなかったのは、マグネシウムの電極に被膜ができてしまい、継続して電力を取り出すことが難しかったからだ。近年の研究で、課題が克服されてきた。

 矢部教授は、電子を生む負極にマグネシウムの薄膜を使うことで、被膜の問題を解決した。電解液は塩水でいいという。矢部教授の提案をもとに、マグネシウム電池の生産を一年以内に開始する計画がベトナムで進む。充電ができない「一次電池」だが、マグネシウムを取り換えることで再利用できる。

 「電池ではなく、単純に燃やして火力発電してもいい。こうしてエネルギーを消費すると、金属のマグネシウムは、酸化マグネシウムに変わります。これを太陽光によって、金属のマグネシウムにもどすんです」(矢部教授)

 太陽光のエネルギーをマグネシウムの形で貯蔵すれば、好きなときにエネルギーを取り出し、運ぶこともできる。劣化することもない。

写真

 ■ガソリン並み価格も

 一番の課題は、酸化マグネシウムを、太陽の光でマグネシウムにもどすことができるかどうかだ。酸化マグネシウムはとても安定した物質で、分解が難しい。現状は、石炭を大量に使ってマグネシウムを作っている。

 矢部教授は、もともとレーザー核融合の研究者だった。太陽光をレーザー光に変換し、一点に集中させることで、マグネシウムをとることができるという。

 「海外の太陽光の豊富なところなら、一億円か二億円の装置で、年間五十トンくらいのマグネシウムを得られる。規模を大きくすれば一キロ百五十円くらいで生産でき、ガソリンに匹敵する価格まで下げられる」と話している。

 ■充電可能な素材開発

 ここ数年、国内外の企業や研究機関が、マグネシウムに注目し始めた。動きは水面下で進み、発表されるのはごく一部だ。トヨタ自動車は「リチウムより優れた電池を求めている」と公言しており、その候補の一つがマグネシウムだ。埼玉県産業技術総合センターの栗原英紀さんらも、マグネシウムに秘密の物質を加えて、充電ができるマグネシウム電池の電極材料を開発した。実用化をめざし研究を進めている。

 米国エネルギー省は今月、ペリオンテクノロジーズに、二百五十万ドル(約二億円)を投資した。同社はマサチューセッツ工科大発祥のベンチャー企業で、充電可能なマグネシウム電池の負極材料の探索を進めている。

 大きなパワーを持つ新エネルギーの開発は容易ではない。従来の枠組みにとらわれない発想によって、新たな道が切り開かれていくことを期待したい。 =おわり

写真
 

この記事を印刷する





おすすめサイト

ads by adingo