イギリスの看板料理、フィッシュ&チップス。人びとに愛される国民食だが、使う油が重かったり、付け合わせがフライドポテトに豆だけ、と偏っていたりするため、筆者は年に一度、食するかどうかというところだ。
しかし、頻繁に通いたいと思わせてくれる店が、ロンドン南東部のニュークロス・ゲートにオープンした。その名も「マディーズ・フィッシュバー」。ここのフィッシュ&チップスは「天ぷら風」に揚げられていて、あっさりとしているのだ。
店名は、シェフのマディーにちなんでいる。イギリスの名門レストラン「スコッツ」「ヒックス」などで経験を積んだ彼女は、海に近いエセックス地方の出身。ケータリング業を営む父親の影響で、幼いころから料理に興味を持って育った。
この店では、乱獲によって減ってしまった魚は使わないようにしているのだという。
「魚は私の故郷エセックスから仕入れています。1日1回出る小型船で穫れた魚だけを使っていて、季節ごとに違うんです。旬の魚は味もベスト。季節が過ぎたら、そっとしておく。そうすれば魚もまた戻ってきます。人気のある魚だからといって季節はずれでも獲ると、絶滅に瀕する種が増えてしまうんです」とマディー。ちなみに、フィッシュ&チップスを天ぷら風にしようというのは、彼女の夫が日本人だからとのこと。
マディーの店のとなりには、「ザ・ロンドン・パティキュラー(The London Particular)」という人気カフェがある。3年前、シェフのベッキーがオープンした。伝統的なイギリス料理をモダナイズし、こだわりのコーヒーを出すというコンセプトが評判を呼び、地元の感度の高い人たちでにぎわっている。
そのベッキーが、となりの物件が空いたタイミングで友人のマディーに声をかけたのが、店をオープンしたきっかけだった。フィッシュ&チップスはイギリスのいたるところにありながら、モダナイズしたものは見つからないため、マディーはこの物件で挑戦してみようと決心したのだった。
並びには、「ザ・ロンドン・パティキュラー」主催のLPバーもオープンした。店のテーマは「飛行機」。機体の解体場に出向き、不要となった部品を集めて内装を完成させた。カクテルのメニューも「マイル・ハイ・クラブ」や「アビエーション・リダイレクテッド」など飛行機にちなんだ名前で、味とともに秀逸だ。
ニュークロス・ゲートには、デザインやアートを学ぶ場として名高いゴールドスミス・カレッジがあり、昔からデザイン系の学生街だ。最近は都心とをつなぐ地上電車が開通し、移住する人も増えている。観光地ではないだけに、ロンドン通にとって発見のある場所だ。
スタイリスト/コンサルタント。英国王立芸術院卒業。雑誌『モノクル』に創刊から約7年、ファッションディレクターとしてかかわり、2014年春、ロンドンで独立、Také Sato Ltd.を立ち上げた。日本、アジア、アメリカ、ヨーロッパ、中東、オーストラリアにクライアントを持つ。www.takeharusato.com