2014-05-10
■[歴史]『旧約聖書の謎』を読む
長谷川修一『旧約聖書の謎』(中公新書)を読む。旧約聖書の書かれた物語の史実を検証している。どこまでが事実に即しているのか。
取り上げられた物語は、「ノアの方舟と洪水伝説」「出エジプト」「エリコの征服」「ダビデとゴリアテの一騎打ち」「シシャクの遠征」「アフェクの戦い」「ヨナ書と大魚」の6話。
洪水伝説は各地にあった。シュメル神話にも洪水と方舟の伝説があった。シュメル人の活躍は紀元前3000年から2000年だ。ギルガメシュ叙事詩にも洪水説話がある。またアトラ・ハシースと呼ばれる作品にも大洪水のエピソードが語られている。この3つ、いずれもメソポタミアの神話であり、メソポタミアはチグリス−ユーフラテス川の氾濫によって文明を発展させてきた。だが古代イスラエル人が住んだパレスチナ地方には大河がなく大洪水が起きることはなかった。するとノアの洪水伝説はメソポタミアの伝聞が考えられる。科学的探求による確実な史実は得られなかった。
出エジプトについて、
唯一言えるのは、出エジプトは聖書の描写そのままの事件ではなかっただろう、ということである。ただしそのどこまでが事実でどこからがフィクションなのか、あるいはまったくのフィクションなのか、私たちにはそれを検証するための十分な道具も資料もない。
「ダビデとゴリアトの一騎打ち」について、
結局、この二人の一騎打ちの物語の歴史性を実証することはできない。
ヨナに関しては史実性のない物語だと断定する。
詳細な分析を通し、この物語がはっきりと史実を語るものではないことを確認した。また、この物語は神話でもない。純粋な創作文学なのである。
残りの物語についても史実性は明らかにならなかった。私にとって、エリコもシシャクもアフェクも全く知らない話だった。いずれもユダヤ、イスラエル人よりももっと古い文明の伝聞が採り入れられているようだ。標題の「旧訳聖書の謎」はほとんど解かれないままに終わる。よく分からないことが分かった、という感じだ。読んでいて少々虚しい気持ちになったのだった。
なお本書は同じ著者の『聖書考古学』の姉妹編とのこと。長谷川は立教大学に学んだあと筑波大学大学院で歴史・人類学を学び、さらにドイツのハイデルベルク大学で神学を、イスラエルのテル・アビブ大学でユダヤ史学を学んでいる。専門はオリエント史、旧約学、西アジア考古学。絢爛たる教養だ。
- 作者: 長谷川修一
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2014/03/24
- メディア: 新書
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