2014-05-11
ブラック企業の温床である「サドマネタリズム」と「サドファイナンス」
|最近、労働者に長時間労働やサービス残業、薄給などを強いている、いわゆる「ブラック企業」の苦境を伝えるニュースが目立ちます。
牛丼チェーン大手「すき家」の店舗が次々と閉店している、などとネットで騒ぎになっている。ツイッターや掲示板には閉店情報と閉店した店舗の写真がアップされていて、店の入り口には「従業員不足に伴い、一時的に閉店させていただきます」などといった張り紙が出ている。
どうやら従業員が2014年2月下旬以降に大量に辞めたことが原因のようで、掲示板「2ちゃんねる」のすき家クルー(従業員)専用スレには従業員と思われる人たちの「みんな辞めるなら俺も辞めたい」「まじで同時退職しようぜ」といった呼びかけが出ていた。
「すき家の春の閉店祭り始まったぞw」「閉店理由がシュール」などとネットが騒がしくなったのは14年3月中旬から。ツイッターや掲示板で閉店店舗の写真が次々にアップされていった。この閉店はゼンショーの業績悪化のためとか不採算店舗、ということではないらしい。入口の張り紙には「機器のメンテナンスのため」「リニューアルのため」などと書かれていて「一時的な閉店」を強調している。特に目立っていたのが「従業員不足」という張り紙だった。
実は、14年2月下旬からネットの掲示板などに「忙しすぎてやってられない」「もう辞めたい」などといった従業員と思われる人たちの書き込みが増えていった。その理由は14年2月14日から始めた「牛すき鍋定食」といった鍋メニューの販売で、このメニューを提供するのに時間と手間がかかりすぎる、というもの。ただでさえ他の牛丼チェーンに比べメニューの多い「すき家」だから、厨房が回らなくなっているというものだ。
掲示板「2ちゃんねる」には従業員専用のスレが立っていて、一人でオペレーションする店が多すぎる、とか、深夜帯は仕事が多すぎて処理できないことがある、人手不足が深刻で当日欠勤はまず不可能、強盗が一番入りやすい店、などの問題点が書き込まれている。そうした厳しい環境なのに手間のかかる鍋メニューが加わったとして、経営者や商品開発担当に対する批判が噴出した。
牛丼「すき家」店舗が次々と『人手不足閉店』 新メニュー「鍋定食」に従業員が憤慨? ネットに「やってられん!」の声 : J-CASTニュース
牛丼チェーン大手「すき家」が人手不足で苦しんでいる。店舗リニューアルのために3月中旬から一時閉店させていた100店以上が、店舗従業員などが集まらず開店できずにいることが、28日までに分かった。
すき家を運営するゼンショー広報部によると、3月中旬から改装のため167店舗を随時閉店。4月下旬までにそれぞれ開店を目指していた。しかし、現在まで開店できたのは数店舗で、百数十店舗が閉店したままだ。担当者は、「5月中に開けられる店舗を調整しているところですが、5月末までに開けられない店舗も出てきそう」と話す。
リニューアルするにあたり、強盗などに狙われやすい深夜に1人で営業する「ワンオペレーション」を解消しようと人員を増やす方向で募集をかけているが、希望者が思うように集まっていないという。担当者は、「例年、4月は求人に対して希望者が増えるのですが、今年は想定を下回っています。新卒(採用)の応募者も減っていますし」と頭を抱える。
ワタミの桑原豊社長は8日、決算発表の記者会見で、ことし4月に入社した新卒社員は120人で目標の半分にとどまったことを明らかにした。桑原社長は「深刻な人手不足という外的環境の変化があった。われわれの成長戦略が曲がり角に来ている」と語った。
ワタミでは長時間労働の問題が指摘されており、採用が苦戦した一因になった可能性もある。
ワタミが設置した有識者による業務改革検討委員会は「所定労働時間を超える長時間労働が慢性化している」と指摘した報告書をまとめた。正社員やアルバイトの確保も難しくなっており、桑原社長は「労働環境の改善を最優先で進める」と述べた。
今後の改善策は、2014年度中に60店舗を閉鎖し、従業員を他の店に振り分けて、1店舗当たりの従業員数を増やす。営業前などに実施している会議の時間は、これまでの年間約250時間から80時間程度に減らし、拘束時間を短くするという。
また、人手不足を解消するため、転勤がない地域限定社員として6月以降、アルバイトからの登用などで100人を確保する計画も明らかにした。
このように「すき家」を運営するゼンショーや、ワタミなど、代表的なブラック企業と言われていたところが、相次いで人手不足に陥っており、店舗を維持できない状況に追い込まれています。
また、同じようにブラック企業との噂があったユニクロ(ファーストリテイリング)は、従業員の正社員化を進める方針を打ち出し、人材確保のための待遇改善を目指しているようです。
国内のユニクロ店舗に務めるパートタイマー、アルバイト約1万6000人を正社員として雇用する――。
カジュアル衣料チェーン「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングが現在、人事施策を大転換させていることが明らかになった。ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏が、本誌取材班のインタビューで打ち明けた。
国内約850のユニクロ店舗では現在、約3万人のパートタイマーやアルバイトが勤務している。このうち、学生アルバイトなどのごく短期に務める従業員を除く、約1万6000人を正社員に転換する計画だ。
これまでにも同社には、アルバイトやパートタイマーを正規社員として登用する仕組みはあった。かつて「パートタイマー5000人を正社員化」とぶち上げたこともある。だが従来の仕組みでは、正社員に転換した場合、フルタイムで勤務することが求められた。
しかし今回の取り組みでは、子育てや介護といった多様な事情で、不規則な勤務時間でしか働けないような従業員に対しても正社員化の門戸を開き、多様な働き方を認めたままで待遇を正社員化する。既に今年3月初旬から正社員化に向けてパートタイマーやアルバイトの面談を始めており、今後2〜3年の間に移行を進めていく。
これらの記事にはなぜこのような動きが起こっているかという解説がないですが、これは明らかに安倍政権誕生や黒田日銀執行部発足以降のリフレ政策によって景気が回復し、雇用状況を改善させた結果でしょう。
高橋洋一氏がこの状況をまとめた記事を書いています。
牛丼チェーンのすき家や居酒屋のワタミが人手不足のため一部閉店したり、ユニクロが従業員の正社員化を進めるなど、デフレ下で成長した企業で人手不足の影響が出たり、人材確保を急ぐケースが相次いでいる。
人手不足によって生じる時給の上昇や正社員化は多くの人に良いことのはずであるが、一部メディアでは「企業が悲鳴」という形で報道されている。それらの報道では、人手不足や時給上昇の原因といえる「金融政策による景気回復」についてはほとんど触れないのも奇妙である。
デフレ下では、モノの価格が低下していくので、名目賃金などのコストを低下させられる企業が相対的に強くなる。その場合、正規社員は賃下げをやりにくいので、非正規社員が多いほうが対応が容易だ。名目賃金のコスト低下を過度にやると、「ブラック企業」というありがたくない称号をもらうこともある。
一方、マイルド(ゆるやかな)インフレ下では、コストの調整はそれほど難しくない。名目賃金を低下させる必要はなく、上げ幅の調整が中心となる。そして動かしにくい固定賃金ではなく、ボーナスや残業代などで柔軟に対応できるからだ。
マイルドインフレ下で有利な企業は、正規社員が多く、社員のスキルを長期的に活用できるところだ。業績のアップは、ボーナスや残業代によって労働者にすぐ還元される。こうした現象は、かつての日本の高度成長期では当たり前の姿だった。それと全く同じことはありえないが、似たようなものだ。
インフレ率2%になるまで、日銀は金融緩和を続けるというのであるから、人手不足は多くの業界にまで広がるはずだ。ただ、雇用は、景気に対して遅行する指標であるので、幅広い業界で人手不足を実感できるまでには少なくともあと1年を要するだろう。
【日本の解き方】悲鳴上げるデフレの勝ち組企業 正社員多い企業が有利な状況に (1/2ページ) - 政治・社会 - ZAKZAK
ブラック企業と呼ばれる企業は、コストダウンを進めることでデフレに適応してきた企業です。特に外食や小売りといった業種では、人件費をカットすることでコストダウンを進める企業が、デフレ下で有利に競争を進めることができました。ゼンショー(すき家)、ワタミ、ファーストリテイリング(ユニクロ)などは、その代表と言って良いでしょう。
しかし、そのような企業はあまりにデフレに適応していたため、リフレ政策によってデフレ脱却が確実になると、生存の基盤を失います。今、すき家やワタミに起こっているのはまさにその状況でしょう。またブランド力のあるユニクロは、まだ余力のあるうちにいち早くインフレに適応しようとして、正社員化を進めているのでしょう。
このように、ブラック企業がはびこる温床となっていたのはデフレであり、そのデフレをもたらしていたのは、白川執行部までのかつての日銀でした。かつての日銀こそが「ブラック企業の元凶」だったと言っても良いでしょう。
さて、最近、ポール・クルーグマン氏が、デフレを招いたスウェーデン中銀の金融政策を「サドマネタリズム」と批判し、それに対してスウェーデン中銀は「日本とは違う」と反論しているそうです。
サドマネタリズム
スウェーデンがデフレにはまり込んだ件からは,よそ者のぼくらにも関連する教訓がいくつか得られる.
第一に,サドマネタリズムの力を実物で見せてくれてる.サドマネタリズムってのは,多くの金融当局が金利を上げたがってる欲求のことだ.上げる理由? なぜなら――エエからとにかく上げるんじゃい.2010年,スウェーデンの失業率はきわめて高くて,インフレ率は低かった〔参考〕.基本的なマクロ経済学でいけば,「いまは金利を上げるようなときじゃない」ってなったはずだ.ところが,スウェーデン国立銀行は先走って金利を上げた.なんで?
いま当局が言うには,金融の安定のためだったとか,高すぎる住宅価格と借り入れの恐れがあったためだったとかだそうだ.でも,当時言われてたのは,それとちがってたじゃんよ! スウェーデン国立銀行総裁ステファン・イングベスは,2010年12月に同銀行のウェブサイトでオンラインチャットをやった.そこで彼はこう発言してる――金利を上げるのは,インフレの問題なんだって:「金利をいま上げなかったら,この先,高すぎるインフレが生じるリスクを冒すことになります.それは,経済にとっていいことではありません.我々の最重要課題は,インフレ率2パーセント目標を達成することにあります」
奇妙な言い分だ.インフレ率が目標を下回りはじめたときにも,スウェーデン国立銀行は金利を上げ続けて,その後,正当化を金融の安定に切り替えた.
4月24日(ブルームバーグ):スウェーデン人はポール・クルーグマン氏にノーベル経済学賞を授与したことを悔やんでいるかもしれない。きっかけは、プリンストン大学教授(経済学)で、米紙ニューヨーク・タイムズのコラムニストでもあるクルーグマン氏の21日付のコラム記事。
クルーグマン氏はその中で、スウェーデン中央銀行による2010年と11年の利上げが、日本経済をまひさせたようなデフレ・スパイラルを招いたと批判。低インフレ、高失業率の中でも低金利や金融緩和を直感的に嫌悪するものだとして、同中銀の金融政策運営を「サドマネタリズム」と断じた。
これにかみついたのがスウェーデン中銀当局者だ。セシリア・スキングスレー副総裁は23日、同国南部ハルムスタッドでクルーグマン氏の指摘について、「日本との比較には驚いた」と述べるとともに、「日本とは類似点よりも相違点の方がずっと大きい」と反論した。
このように対立している両者ですが、かつての(白川執行部までの)日銀の金融政策が「サドマネタリズム」であるということについては、共通の了解が得られているようです。日本で言われている「シバキ主義」と同様の意味なのでしょう。
先に述べたブラック企業の行動は、従業員に対する嗜虐(サディズム)とも解釈できますから、その元凶であるかつての日銀を「サドマネタリズム」と呼ぶことも、間違いでないと思います。デフレの間は、従業員をシバく企業ほど、競争を優位に進めることができた訳ですから。
ただ、ここでブラック企業の隆盛が終わったと判断するのは、まだ甘いと思います。なぜなら「サドマネタリズム」であったかつての日銀には、増税で国民をシバく財務省という、いわば「サドファイナンス」とも呼ぶべき協力者がいたからです。その財務省は財政再建や社会保障を名目にしながら、自らの「歳出権」を確保するための消費税増税を強行しました。
ではなぜ、財務省は増税を指向するのか。それは、予算での「歳出権」の最大化を求めているからだ。予算上、増税は歳入を増やし結果として歳出を増やす。さらに、歳入は見積もりであるが、歳出権は国会の議決で決めるのが重要だ。実際の税収が予算を下回ったとしても、国債発行額が増えるだけで、歳出権が減ることはない。この歳出権は各省に配分されるが、それが大きければ大きいほど財務省の権益は大きくなる。このため、財務省が歳出権の最大化を求めるのは官僚機構として当然となる。
まだ消費税増税後の経済指標は出ていませんが、もし消費税増税で景気が悪化するようだと、最初に述べたような人手不足によるブラック企業の苦境も消えてしまうでしょう。そしてまたブラック企業がはびこり、若者や女性などの非正規労働者が苦しむ社会に逆戻りするでしょう。
また、日銀法を改正してインフレターゲットを義務づけない限り、今後の日銀執行部がまた「サドマネタリズム」に逆戻りしてしまう可能性も大きいでしょう。
このような「サドマネタリズム」や「サドファイナンス」を阻止して、ブラック企業がはびこらないようにするために、これからも日銀や財務省を監視し、警戒していく必要があるでしょう。そしてそのような状況に逆戻りするようならば、その元凶である日銀や財務省を批判していかなけばなりません。
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