社説:STAP調査 これで幕引きは早い

毎日新聞 2014年05月10日 02時35分

 このままでは、一般の人はもちろん、科学者たちの納得も得られないのではないだろうか。理化学研究所の調査委員会は、STAP細胞論文について再調査はしないと結論付けた。今後、小保方晴子氏らの処分を検討するという。

 問題は、理研が限られた項目の調査に終始し、これに法律的な解釈をあてはめ、幕を引こうとしているように映る点だ。残された疑問点は多く、それを解明しなければ理研への信頼は回復できない。科学者への信頼や期待が損なわれる恐れもある。

 理研が公表した小保方氏らの不服申し立てに対する審査結果は、具体性を増した。新たに追加された別の論文誌への投稿の情報などを考え合わせ、小保方氏が画像の切り張りと流用について問題を認識していたはず、との指摘はうなずける。小保方氏側に科学論文に対する誠実さが欠けていたことは確かだろう。

 しかし今もって、本当に起きたことは何なのか、なぜこういうことが起きたのか、真相は解明されていない。調査結果に納得感が得られないのは、このためだ。

 調査委が不正認定した項目以外にも論文への疑問はくすぶっている。理研は、不信感を払拭(ふっしょく)するためにも、すべての画像やグラフ、データについて調査し、公表する必要があるはずだ。論文に関係のある細胞やマウス、組織の切片など、既存試料をリストアップし分析する作業も早急に進めるべきだ。その際に第三者の独立した視点を入れるのは当然のことだ。

 疑問の徹底解明や公表に消極的な姿勢は、これ以上の問題が明らかになるのを恐れているからではないか、との臆測も招く。実験ノートに不備があり、試料などの由来をたどるのが難しいケースは当然予想されるが、そのことも含めて公表することが、信頼回復につながるはずだ。

 そもそも、理研には、小保方氏らの「発見」を組織のために利用したいとの思惑もあったはずだ。理研として実施した大々的な広報からも、その一端がうかがえる。背景には、科学と経済を短絡的に結びつける国の政策の問題もあるだろう。

 そうであればなおさら、小保方氏一人を断罪するようなやり方で幕を引いてはならない。腰を据えて実際に起きたことの解明を進め、問題点を明らかにするのが理研の責任ではないだろうか。外部有識者で作る改革委員会が対策を打ち出すためにもそれが重要だ。

 それにしても、調査委と小保方氏側のやりとりが法的争いの様相を呈し、科学論争と思えなくなっていることが残念だ。科学者集団である理研は、科学者らしい論理と誠実さで、この問題に対処してほしい。

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