米国立衛生研究所(NIH)の科学者は、ある女性のがんを、その腫瘍に特有な遺伝子変異に狙いを定める細胞を増強した免疫系を使って攻撃した。
米科学誌サイエンスが8日掲載したこの所見は、モンタナ州在住の女性患者(45)1人の事例にすぎない。それでも研究者は、腫瘍を標的とする目的で培養した免疫細胞を患者に数億個投与したこの症例は、現在は免疫系で標的とするのが困難とされる多くの一般的ながんの治療について、これが治療手段になる証拠に値すると述べた。
これまで、いわゆる免疫療法は比較的希少な黒色腫や腎臓がんについて最も有望性を示してきた。
ただその手法は、患者の免疫系をがんを認識する免疫系に置き換える前に患者の免疫系を破壊する積極治療や高度な遺伝子配列、解析が絡む複雑なもの。
ジョンズホプキンス大学医学部の外科・腫瘍学の教授、スザーヌ・トパリアン氏は、この発表は「免疫基盤科学の偉業だ」と述べた。同氏はこの研究に関与していない。ただその一般化がどれほど可能かは「見極めるべき」で、その手法の複雑さを踏まえると、「決して万人向けの治療にはなり得ない」ことを意味すると付け加えた。
腫瘍学は2つの側面で大きな変貌を遂げている。1つは腫瘍の成長に役割を果たす遺伝子変異を標的する治療薬と、もう1つが免疫療法だ。
今回の新手法はこの2つを組み合わせたもの。T細胞と呼ばれる免疫系細胞は腫瘍・F識し、体内の腫瘍がある部位に移動するが、がん細胞を殺傷するほどの数や強力さに欠ける。こうした長期的な観察の下、研究者は、攻撃力を高めるため十分な数の有用なT細胞を構築する方法を見つけたとサイエンスに掲載された論文で発表した。
モンタナ州在住のメリンダ・バキーニさんは救急医療士で6人の子供の母親だ。2009年に胆管がんと診断されたバキーニさんは、手術や化学療法を受けたが効果がなかったため12年に国立がん研究所(NCI)の外科責任者スティーブン・ローゼンバーグ氏の臨床試験(治験)に参加した。
バキーニさんの腫瘍は珍しいが、ローゼンバーグ氏はがんによる死因の80%以上を占める結腸、乳房、その他の固形がんに分類されるものだと述べた。
研究者はバキーニさんの腫瘍の1つの生検を行い、数週間かけて腫瘍のDNAを配列化し、その突然変異と、変異に反応した彼女の体内のT細胞の一部との一致を突き止めた。
研究者はバキーニさんの治療用に大量のT細胞を培養した。バキーニさんは免疫系を不活性化する化学療法を受けた後、420億個のT細胞を含む点滴を受けた。そのうち100億個前後が突然変異を標的とするものだった。
治験によると、6カ月でバキーニさんの腫瘍が縮小し、その後6カ月で安定化したが、その後は再び成長し始めた。昨年10月には、バキーニさんは異なる腫瘍で行った生検に基づき2回目の治療を行い、1260億個のT細胞を受け取ったが、そのうち95%は突然変異に適合する細胞だった。研究者によると、彼女のがんはこの治療に対してほぼ即時に反応した。
バキーニさんは治癒したとは考えられていないが、6カ月後の健診で腫瘍はかなり縮小していたという。
バキーニさんはインタビューで、「(最初の治療後)1年半の時点よりも、この6カ月で腫瘍ははるかに縮小した」とし、「われわれの知る限りでは、細胞はまだそこにとどまり腫瘍と闘っている」と述べた。
ローゼンバーグ氏は、初回の治療でバキーニさんは十分な標的細胞を受けていなかったと指摘した。2回目には、「突然変異を標的とする細胞の純粋集団を彼女に与えたところ、その時初めてがんが消失し始めた」と述べた。
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