国民投票法:改憲機運、下火に 解釈変更で
毎日新聞 2014年05月10日 00時14分(最終更新 05月10日 00時25分)
国民投票法改正案が9日に衆院を通過し、今国会中に成立する見通しになった。安倍晋三首相は就任当初、憲法改正手続きを定めた96条の先行見直しを目指したが、目下の関心は憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認に移り、よりハードルが高い改憲の機運はむしろしぼみつつある。自民党の改憲推進派からは「集団的自衛権で解釈改憲が実現すれば、『改憲の必要はない』という意識が広まるのではないか」と懸念する声も出ている。【高本耕太】
憲法96条は、衆参各院の3分の2以上の賛成で改憲原案を発議し、国民投票で過半数の賛成で承認すると定めている。第1次安倍政権は2007年、改憲原案の国会提出に衆院100人以上、参院50人以上の議員の賛成が必要▽衆参両院に原案を審査する憲法審査会を設置−−などを盛り込んだ現行の国民投票法を成立させ、改憲の具体的な手続きの整備を図った。
ただ、現行法は、国民投票年齢について、民法の成人年齢や公職選挙法の選挙権年齢を18歳に引き下げるまで「20歳以上」にとどめている。改憲の賛否表明や勧誘(国民投票運動)を公務員に認めるか、国民投票の対象を拡大するかについても結論を出さなかった。
改正案はこうした現行法の「穴」を埋めるものだ。特に国民投票年齢が確定していないことへの批判は根強く、与野党7党は今回の改正案で18歳への引き下げを最優先した。公務員の組織的な運動の是非など一部に課題を残したが、改憲手続きはほぼ整ったといえる。
「(改正案に)九十数%の賛成は成果だ。改憲を議論する土俵として(7党の)枠組みは大事にしたい」。自民党の船田元・憲法改正推進本部長は9日の衆院本会議後、記者団に胸を張った。改正案を共同提出した7党が足並みをそろえれば、改憲原案の発議にも道が開けるというわけだ。
しかし、最大の論点である9条改正をはじめ、実際にどの条文を改正するかを巡っては、7党の間でも認識は異なる。環境権などの加憲を唱える公明党の井上義久幹事長は9日の記者会見で、大規模災害や武力攻撃に備えて自民党が求める緊急事態条項について「今すぐ加憲の対象だという意見集約は(公明党内で)されていない」と述べ、立場の違いをにじませた。