アリババの魔法が解けつつあるソフトバンク

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[image] REUTERS

 これはソフトバンクにとって想定されなかった状況だ。

 中国の電子商取引大手、阿里巴巴集団(アリババ・グループ・ホールディング)の筆頭株主になる以上に良いことが他にあろうか。日本のソフトバンクは長い間、投資家たちにとって非上場のアリババと、その大規模な新規株式公開(IPO)に対するエクスポージャーを確保する手段の1つだとみられていた。そのため、アリババがIPO計画を今週公表して以降、わずか2日間でソフトバンク株が7%近く下落したことは、厄介なことに気づかされる形となっている。

 アリババのIPO申請書類は、透明性が高い内容とはとても言えず、ソフトバンクの投資家が必要としていた中国ビジネス(ソフトバンクのアリババ株式所有)に対する高いバリュエーションの正当性を立証できなかった。ソフトバンクが議決権の大半をアリババ内部関係者に譲渡していたことが開示されたが、それが足を引っ張った公算が大きい。

 サム・オブ・ザ・パーツ分析(SOTP=部門別のバリュエーションを行って企業の全体価値を推定する)によれば、今週の下落後でさえ、ソフトバンクの株式時価総額は875億ドルで、そこにはアリババへのバラ色の見方が織り込まれている。480億ドルの純負債を加えると、ソフトバンクの企業価値は1355億ドルになる。

 このうち、540億ドルはソフトバンクの日本での通信事業に帰属する。これはEBITDA(金利・税金・償却前利益)の4.7倍の価値があると想定され、日本のライバル2社の倍率の平均値だ。このほか、390億ドルはソフトバンクの保有する上場企業株の価値と説明できる。その上場企業とはスプリント、ヤフージャパン、それに日本のモバイルゲーム会社、ガンホー・オンライン・エンターテイメントだ。フィンランドのモバイルゲーム会社スーパーセルの持ち株は、買収費用で算出すると15億ドルになる。これらを合計すると945億ドルだ。

 残りの410億ドル、つまり企業価値1355億ドルからこの945億ドルを差し引いた額が、ソフトバンクの保有するアリババ株について投資家が考えるおおよその価値推定額だ。ソフトバンクはアリババ株の34%を保有している。このため、アリババ全体では1210億ドルの価値がある計算になる。これは、アナリストによるアリババの企業価値推定のおおむね中間値だ。ただし税金やコングロマリット・ディスカウント(多角的事業を行う企業を投資家がリスク分散のため低く評価する傾向)が一切考慮されていない。これを考慮すると、アリババの内在価値はかなり膨らむだろう。

 ソフトバンクの投資家はアリババの価値以外にも気に留めるべきことがある。ソフトバンクの1-3月期の純利益は前年同期比28%減少した。一連の買収による費用や日本の通信市場での価格戦争が影響した。ソフトバンクはまた、子会社のスプリントによるTモバイルの買収に依然として熱心なように見える。規制当局の懐疑論があるにもかかわらず、である。このディールが実現すれば、スプリントの米国での立場を強固にする一助になるわけで、戦略的なロジックがあるだろう。だが、それは同時にソフトバンクの純負債をさらに増やす。同社の純負債は既にEBITDAの6倍と、同業他社をはるかに大きく上回る。

 ソフトバンク株は今年、20%下落している。これが投資家を再び呼び戻す誘因になるかもしれない。しかし、流動的な部分があまりに多いため、投資家の再参入を価値あるものにするには、アリババのIPOが非常にすばらしい結果となることが必要だろう。

[訂正]第4段落の「690億ドル」を「480億ドル」、同「1565億ドル」を「1355億ドル」、第6段落の「620億ドル」を「410億ドル」、同「1820億ドル」を「1210億ドル」に訂正します。

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