May 9, 2014
最新の研究によると、アメリカケンサキイカにとって痛みは生死を分ける意味を持つという。痛みの刺激によって、傷ついたイカが捕食者の魚と遭遇した際に何とか生き残れるような行動をとるためだそうだ。
◆感覚を失うと
研究の共著者でテキサス大学医学部ヒューストン校の神経科学者ロビン・クルック(Robyn Crook)氏と共同研究者らは、傷ついたイカが捕食者に出会ったときどのように反応するかを知りたいと考えた。
研究チームは20匹のアメリカケンサキイカそれぞれに対し、1本の腕の先を切り落として、自然界のイカによく見られる軽傷を負わせた。その結果、イカは最初に傷つけられた後も長期間、感覚が鋭敏な状態になった。
傷ついたイカの行動に影響しているのが腕の先端を欠損したことによる機械的な効果ではなくこの鋭敏さであることを確認するた・・・
◆感覚を失うと
研究の共著者でテキサス大学医学部ヒューストン校の神経科学者ロビン・クルック(Robyn Crook)氏と共同研究者らは、傷ついたイカが捕食者に出会ったときどのように反応するかを知りたいと考えた。
研究チームは20匹のアメリカケンサキイカそれぞれに対し、1本の腕の先を切り落として、自然界のイカによく見られる軽傷を負わせた。その結果、イカは最初に傷つけられた後も長期間、感覚が鋭敏な状態になった。
傷ついたイカの行動に影響しているのが腕の先端を欠損したことによる機械的な効果ではなくこの鋭敏さであることを確認するため、さらに16匹のイカを第2グループとして用意した。このグループのイカも最初のグループと同様の傷を負わせたが、腕の先端を切り取る際には、あらかじめ局所麻酔をかけておいた。そのためこの16匹のイカは、約6時間自らの怪我を自覚していなかった。
クルック氏らは対照群として、20匹の無傷のイカと16匹の無傷で局所麻酔を施したイカを比較に用いた。
実験の結果明らかになったのは、ブラックシーバスは傷ついたイカを選択的に狙うこと、また攻撃された場合、傷ついたグループの生存率はどちらも無傷のグループに比べ低いということだった。しかし、傷ついた2グループのうち、怪我を自覚しているイカでは約45%がブラックシーバスに遭遇しても生き残った。一方、局所麻酔を受けて怪我の痛みを感じることができなかったイカでは、生き残ったのは25%を下回った。
動物が一度傷を負うと「死の危険が高まるため、危険に対処するための何かが必要になる」とクルック氏は語る。負傷後に感覚が鋭敏になるのは、この対処反応であるようだ。
アメフラシのようなより単純な無脊椎動物でも、傷を負うと敏感な状態になるのだとクルック氏は述べている。この現象は他の動物でも数知れないほど起きていて、動物界で広く見られる、あるいは普遍的と言っても良い反応であることが示唆されるという。
人間では、長く続く痛みは一般に悪いことだと考えられていると、テキサス大学医学部ヒューストン校の神経生物学社エドガー・T・ウォルターズ(Edgar T. Walters)氏は語る。今回のイカの研究は、慢性疼痛のようなよくあることもそれが祖先にとっては重要な機能を果たしていて、そのため進化の過程で長い時代を経て存続してきたのだということに気付かせてくれると、ウォルターズ氏は述べている。
今回の研究結果は「Current Biology」誌に5月8日付けで公表された。
PHOTOGRAPH BY BRIAN J. SKERRY / NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE