年金制度への不信は根強い。ただ、多くの場合、「少子高齢化だからもらえなくなる」といった漠然とした理由によるものではなかろうか。

 働けなくなった高齢者を支える制度は、いつの時代でも不可欠だ。不信や不安の「形」を見定め、それに合った解決策を見つける必要がある。

 何をすれば、どのくらい年金の足腰を強くできるのか。シリーズ最終回では、あと1カ月ほどで結果が発表される「財政検証」の枠組みを踏まえ、検討してみたい。

■選択肢で考える

 年金の財政検証は5年に1度だが、今回は新しいやり方を試みている。

 前回は、現行制度がそのまま存続する前提だった。今回は、いくつかの制度改革(オプション)を実施した場合、将来の年金水準にどのような影響を及ぼすかを計算する。

 オプション1では、少子高齢化に対応して、賃金や物価の上昇率より年金の引き上げ幅を圧縮する仕組み(マクロ経済スライド)を、賃金や物価が下がっている時でも適用する。

 結果的に、賃金や物価の下落幅より年金の減少幅は大きくなる。物価や賃金が少し上昇する程度なら、年金額は逆に減る事態も起こりうる。受給者は怒るに違いない。

 しかし、マクロ経済スライドをフルに適用しないと、今の年金水準が高止まりして、将来世代の年金が減る。

 シリーズの(上、4月21日付)や(中、30日付)で主張したとおり、経済変動に耐えうる年金にするためにフル適用は避けて通れない道だ。今の高齢者の反発に正面から向き合い、将来世代を守る覚悟が問われる。

■裾野を広げていく

 年金をめぐる大きな不安は「少子高齢化に加え、年金にメリットがないと考える若い人が保険料を払わず、よけい先細りになる」という点にあろう。

 現在、未納者は約300万人で、公的年金全体からみれば5%程度だ。保険料を払わないと将来、年金も受け取れないので年金財政上は「ほぼ中立」だ。

 ただし、収入が不安定な非正社員の増加を背景に未納が増え続ければ、いずれ生活保護費の膨張につながり、国の財政全体を圧迫する。

 この課題に対応するのがオプション2だ。勤め人が入る厚生年金にパートやアルバイトをもっと加入させる。保険料は給料天引きになるため、基本的に未納は防げる。将来受け取る年金額も増える。

 問題は、パート従業員に依存する企業側が労使折半で保険料を負担することに強く反発することだ。パート労働者自身も、当座の負担が増えるので反対しがちだ。

 しかし、年金が国民全体の仕送りシステムである以上、オプション2を実行して、裾野を広げていく必要がある。

■社会の体質改善を

 あらゆる年金制度の変更は煎じ詰めれば、「誰がどれだけ負担するのか」「誰の年金が減るのか」というリアルな「痛み」に帰着する。

 これまで民主党の「最低保障年金の創設」や「年金の税方式化」など、数多くの案が「抜本改革」として提唱されてきた。

 それらが尻すぼみになったのは、いざ改革の影響が誰にどんな形で及ぶのかを試算すると、消費税の大幅引き上げや中堅層の年金引き下げといった痛みが明らかになったからだ。

 今回のオプションも現行制度の延長線上にあるとはいえ、大きな改革であり痛みを伴うことにかわりはない。それを乗り越えないことには、どんな年金制度もうまく機能しない。

 大切なことは、年金改革を負担増や給付減という「憂鬱(ゆううつ)な問題」としてのみとらえるのでなく、前向きな課題に変換していく回路もつくっていくことではないだろうか。

 年金は「カネを集めて配る」という単純な仕組みだ。年金改革の痛みは、そもそも少子化に手を打てず、働く人の数が減ってしまう「体質の悪化」に源がある。

 であれば、より多くの人がより長く、元気に働ける社会をつくることが重要だ。

 30年前と比べて、男女とも平均寿命は5年前後伸びている。65歳まで働ける社会の実現にもめどがたってきた。その期間分ぐらいは働いて保険料を払うとしたら年金はどうなるか。今回の検証では、そんなオプションも用意される。

 加えて、労働者一人あたりの生産性を上げるために、教育・研修を充実させる。こうした働き手の暮らしを良くする「社会の体質改善」ができれば、年金の目減りが抑えられ、高齢者の痛みは少なくてすむ。

 現実を直視した年金の改革と同時に、「こんな社会をつくろう」という議論にもバランスよくエネルギーを向けていくのが建設的だろう。