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「美味しんぼ」騒動に見る“過剰反応社会”の怖さ(イッシン山口)

2014年05月09日

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 いったい騒ぎはどこまで続くのだろう。

 週刊ビックコミックスピリッツで連載中の漫画「美味しんぼ」(原作•雁屋哲)の描写が風評被害を生じさせているとして、福島県双葉町が発行元の小学館に抗議文を送り、送った抗議文を同町のHPに掲載し、そのことを報道各社がこれ見よがしに伝えている。

 なんだかなぁ、という感じである。

 そもそもの始まりは4月28日発売の同誌で、事故を起こした福島県第一原発に取材に訪れた主人公らが原因不明の鼻血を出したり、ひどい疲労感に襲われたりする場面が描かれたほか、原発の地元双葉町の前町長が実名で登場し、「福島では同じ症状の人が大勢いますよ。言わないだけです」と語るシーンを掲載したことだった。

 同号発売直後から同誌編集部に「風評被害を助長する内容ではないか」といった批判が相次いだといい、インターネットを中心に賛否両論(といっても圧倒的に「否」が多い)の物議を醸した。その騒ぎから10日経ってようやくひと段落したと思ったところに「双葉町の抗議文」で再び火がついたかっこうだ。

 確かに、漫画といえども本当にありもしないことを描かれ、地元のイメージダウンや風評被害につながっているとしたら抗議をしたくなる気持ちもわかる。だが、ネット上で連載の打ち切りや掲載誌の休刊(廃刊)にまで言及していたのはいき過ぎだろう。それで「福島の問題」が解決に向かうとはまったく思えない。

「美味しんぼ」の原作者、雁屋哲氏は抗議文が送付される前の5月4日にブログを書き、〈ある程度の反発は折り込み済みだったが、ここまで騒ぎになるとは思わなかった〉と驚いている。そりゃ、そうだろう。

http://kariyatetsu.com

 雁屋氏はまた、一連の「福島の真実篇」を書くにあたっての態度を事前に表明している。

http://kariyatetsu.com/blog/1568php

 要するに雁屋氏は、まず現地をしっかり見て回り、見て回ったことをありのままに漫画として記録しようと心がけていると主張している。

 そして、今回の騒動については〈私は自分が2年かけて取材をして、しっかりすくいとった真実をありのままに書くことがどうして批判されなければならないのか分からない〉〈真実には目をつぶり、誰かさんたちに都合の良い嘘を書けというのだろうか〉と書いている。その通りだ。表現者としてはこれ以上でも以下でもない。

 私は、一連の騒動の本質は「受け手」や周辺の過剰反応にあるのではないかと思っている。双葉町が小学館に送った抗議文を見ると、なおさらそれを強く感じる。

 抗議文によると、問題の「美味しんぼ」の描写によって〈町役場には、県外の方から、福島産の農産物は買えない、福島には住めない、福島方面への旅行は中止したいなどの電話が寄せられ〉ているという。町役場にとっては迷惑な話だろうが、あのスピリッツの漫画を読んだだけで「農産物は買えない」「福島には住めない」「旅行は中止したい」などと判断するのは過剰というか異常である。

 そして、そのことをわざわざ町役場に電話で宣言してくる「県外の方」とは、いったいどんな人なのか。それを町役場に伝えることに、どんな意図や意味があるのだろうか。町としては「声」が寄せられた以上、対応せざるを得なかったのだと理解するが、「県外の方」からどれくらいの数の電話が寄せられたのかは知りたいところだ。

 しかしこの騒動では、なぜか数字的根拠がほとんど示されていない。「双葉町の抗議文」を報じた新聞記事にも、それは書かれていない。いったいどれほどの電話が寄せられたのか。

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