前の記事ではデータからライトノベルの現状を探ろうとしてみましたが、業界の外から現状を調べるのは雲をつかむようなものです。地上から雲のかたちを見ることはできますが。
そこで、業界内部の作家・編集者・書店員が最近のライトノベルの現状について語っている記事・ツイートをまとめました。ここから仮説を導きたい。

ちなみに2012年末の状況。 詳しくは以下のまとめを御覧ください。
プロの作家たちが感じている最近のラノベ読者の特徴

ライトノベル市場全体のトレンド
参考:出版月報 2014年3月号「特集 2013年文庫本マーケットレポート」ライトノベル関連
——特定の作品じゃなくて、最近のライトノベル全般について、感じていること、考えていることでもかまいませんが。  

難しいこと、訊きますね。そうだな。ライトノベルも少し歴史が積み重なってきて、「ライトノベルを買って読んでくれる人たち」が以前に比べると可視化されるようになってきたような気がするんですよね。そうすると、その人たちに向かってどんどん特化していくことにどうしてもなりますから、僕みたいな「おまえの小説はライトノベルっぽくない」と言われがちな物書きは、うまく適応していくか、隅っこのほうに敷いた独自路線の上をなんとか走っていくか、とにかく上手に立ち回らないと、なかなか厳しいのかなあと。

十文字青ロングインタビュー

ジャンルについて
ライトノベルに精通する担当の田村恵子さんは「12年に放送された『ソードアート・オンライン』の人気を受けて、さまざまなファンタジーものが売れるようになりました。ファンタジーは90年代に人気だったので原点回帰といえるでしょう。逆にラブコメ要素が強いものは苦戦傾向です」と話す。

内容については「多くの異性が1人の平凡な主人公に好意を寄せるハーレム系より、(極端に)能力の高い『チート系』の主人公の作品が増えていると思います。読者の好みに変化が出ているのかも」と話している。  

またトップ10位のうち、半数以上がファンタジーもの。純粋なファンタジーだけでなく、魔法などの要素を取り込んだ変形型もあるのが特徴。田村さんは「ライトノベルは男性中心だが、『ソードアート・オンライン』は女性ファンにも受け入れられ、ファン層が拡大したのが大きい」と指摘。同店年間ランキング2位の「はたらく魔王さま!」も、女性ファンの支持で躍進したという。  

またウェブ小説からのデビューが目立つのも特徴だ。川原さんの「ソードアート・オンライン」、3位の佐島勤さんの「魔法科高校の劣等生」、6位の赤雪 トナさんの「竜殺しの過ごす日々」は、いずれもウェブから生まれた。ウェブでの人気作を出版する流れは現在、標準的になっており、この流れは今年も続くと見られる。  

課題は、ライトノベルの刊行点数が多すぎることで、田村さんは「数もそうだが、ファンタジー一辺倒の気配があり、全体の伸びが止まりつつあるのが気になる。『ソードアート』に続く新たなヒット作が必要」と話している。

ライトノベル展望 : 人気作「ソードアート・オンライン」効果でファンタジー復権 書泉ブックタワー

――この話を書いたきっかけをお聞きしてもいいですか?

ひねりも何もないのですが、担当編集様から「戦記ファンタジーを書いてみない?」と話を振っていただいたのがきっかけになります。 これまで学園モノや軽いタッチのラブコメの流れが強くて、そういうのじゃないと企画が通らないのかなーとぼんやり考えていたのですが、世間の流行の変化なのか、重ためのファンタジーものを書くチャンスが巡ってきまして。で、元々ライトノベルのファンタジーが好きだったこともあり、「是非やらせてください!」と。

『偽神戦記』三国陣先生インタビュー

――最後に読者のみなさんへメッセージをお願いいたします!

 この小説を書いている時、ファンタジー作品は古いとか、獣人が主人公なんて今どき受けないとか、ヒロインの一人称が“我輩”じゃダメだとか、周囲からいろいろ言われた私ですが、電撃小説大賞《大賞》をいただくことができました。「100パーセント自分の趣味で書いたら売り物にならない」という言葉をよく聞きますが、たぶんそうでもないのだと思います。

好きなものをとことん突き詰めたら電撃小説大賞《大賞》に! 『ゼロから始める魔法の書』の虎走かける先生インタビュー

 応募作についてですが、今回の傾向としては全体的に異世界ファンタジー with 異能バトル、な作品が多かったでしょうか。  

ライトノベルは10代向けのエンタテインメント小説である、という以外に確たる縛りの存在しないカテゴリーなので、募集された時点で読者となる皆さまにとって一番興味のあるジャンルが応募作にもそのまま傾向として現れるのかもしれません。最近の売れ線的傾向なのか、たまたまそうなったのかわかりませんが、興味深い結果でありました。  逆に現代ものについては、ストーリーや構成自体にひねりというか仕掛けのある作品が強く、普通のラブコメ的な作品は少なかった印象です。

第6回GA文庫大賞選評

――作品を書くうえで悩んだところは?  既存作品との差別化ですね。いわゆる“主人公最強モノの学園バトル作品”というのは、ここ1年以内で爆発的に数が増えていまして……バトルの工夫や世界観、主人公やヒロインの在り方などで作品独自のモノを出していきたいなと。

主人公最強モノの学園バトル作品を描く上で注意した点とは? 『祓魔学園の背教者』三河ごーすと先生を直撃【Spot the 電撃文庫】

吸血鬼というのは根強い人気のあるテーマで、過去に名作もたくさんあるんですが、その多くで吸血鬼という存在がネガティブなものとして描かれているんですね。自分が吸血鬼であることの苦悩や葛藤を抱えているキャラクターがとても多い。 でもそれは本当に読者が吸血鬼に求めているものなのかなと。今の読者が共感できるポイントは実はそこではないんじゃないか、というのが、この作品の出発点です。不老不死で特殊能力を持ってるって、普通にカッコイイじゃないですか。

(中略)

もうひとつ『ストライク・ザ・ブラッド』の目標として、読者に無用なストレスを与えないということは、すごく意識して執筆しています。たとえば過去のトラウマをいつまでも引きずらせたり、くだらない誤解で人間関係を悪化させたり、ストーリーを盛り上げるためだけに意味もなく登場人物を苦しめるようなことはやめようと。仮に物語のラストでそのトラウマやわだかまりが解けたとしても、読者にそれまでの間ずっと我慢を強いるのは、今どきの娯楽としてちょっとどうなの、という思いがありまして。 心に傷を負っているキャラクターがいたとしても、すでにそれを乗り越えた段階で登場させて、その上で新たな人間関係を構築していく、そういう作劇にしています。これは先ほどの「吸血鬼の苦悩」とも関連した話ですね。

「ストライク・ザ・ブラッド」原作者・三雲岳斗インタビュー “原点回帰、正統派で描く学園伝奇アクション”


ウェブ小説、ボカロ小説関連
- その後は順調に書籍化まで?

池本:いえいえ。WEB小説を文庫化して出すという試みは一度もやったことがなかったので戸惑いが正直ありましたね。特に、当時はライトノベルレーベルの間で、今ほどWEB小説の書籍化が一般的では無かったので。『魔法科高校の劣等生』(電撃文庫)、『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』(GA文庫)のようなヒットタイトルはもちろん知っていましたが、それくらいで。積極的にWEB小説を書籍化していたヒーロー文庫さんもまだ、3、4タイトルくらいしか刊行されていなかった状況で、編集部全体でもWEB小説の書籍化に対してのアンテナは強くなかった感じですね。なので、どういうタイプの作品で、どういうターゲットの人に売りたいのかの説明がなかなか難しかった記憶があります。

(中略)

-それでは最後の質問です。おそらく多くの方が気にしてらっしゃると思う「小説家になろう」のランキングの関連性と、今後のレーベルとしての動きはどうなるんでしょうか。

池本:『Re:ゼロから始める異世界生活』に関していえば、ランキングとかは関係なく『中高生が面白い』と感じるライトノベルになるなという未来が見えたからですね。『ラブコメ』『萌え』などのイメージが強いかもしれませんが、MF文庫Jというレーベルとしての意識は”そこ”にありますので。

【コラム・ネタ・お知らせ】 WEB小説書籍化の闇に斬り込む? 「Re:ゼロから始める異世界生活」2巻発売記念 長月達平先生・大塚真一郎先生インタビュー!

 「たとえば『異世界転生もの』が流行ったら、みんなで少しずつ差分を加えながら、有望な鉱脈を探るんですよ。『異世界転生で学園ものがおもしろそうだね』とかね。  そのくり返しの中でパターンが洗練されていく。だから仮に作家同士の交流が直接的になくても、ライバル心も、連帯感もあるんです」

【新文化】 - 衝撃ネット小説のいま - 連載 第11回 橙乃ままれ氏(下) 「現在」に対して誠実に

 ボカロ曲は10代女性の4割が「好きな音楽ジャンル」として挙げるデータ(13年、東京工芸大調べ)があるほど人気ジャンルとなっている。ボカロ小説も同じ層に支持されており、出版元によると、読者層は8割程度が女子中高生で、中には小学生の読者もいるという。ボカロ小説はライトノベルの一種だが、ファン層はライトノベルのメインターゲットである10~20代男性とは異なる。「悪ノ娘」の編集を担当したPHP研究所の伊丹祐喜さんが「企画当初はネット発の少しニッチで、ターゲットは男性だと考え、ラノベと同じような作り方をした」と話すように、女子中高生の人気は出版社も想定外だったという。

 ボカロ曲やボカロ小説が若い世代に支持を集めていることについて、伊丹さんは「思春期特有のもやもやした思いと、世界観がマッチしているからかもしれません。“闇の設定”や救われない内容も好まれる傾向があります」と分析する。

ボカロ小説 : 女子中高生に大人気 ヒットの理由は?

まとめ

記事の母数が少ないので全体的な傾向はなんとも言いにくいのですが、

・俺TUEEE系の作品が増えたのは 2013年後半。
・ファンタジーの復権は2013年から現在まで続いている。
・SAOに続く新たなヒット作がない。
・SAOやはたらく魔王さま、ボカロ小説のように女性ファンを獲得しないと大ヒットは生まれない。

という仮説は立てられそう。この辺りを検証できたら良いですね。
まずは明日発売の禁書を読んでからですが!
新約 とある魔術の禁書目録 (10) (電撃文庫)
鎌池和馬
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