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世界が注目!日本の技術&アイデアで「宇宙のゴミ」を網で大気圏へ落とす
2014年5月4日(日) 07:00
日本のアイデアと技術が世界の宇宙開発を救うかもしれない。日東製網株式会社という漁網製造のトップメーカーが、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の依頼を受けて、宇宙で使う特殊な「道具」を開発しました。それで宇宙のゴミ(スペースデブリ)を落とすというのです。世界が注目するこの取り組みを取材しました。
宇宙ゴミが宇宙船や衛星にぶつかる
宇宙ゴミを放置しておくことは非常に危険です。秒速3km(静止軌道上)から秒速7~8km(低軌道上)という高速で周回しているので、これに宇宙船や人工衛星が当たると致命的なダメージを受ける可能性があります。
また、宇宙ゴミが人工衛星などにぶつかって大破させ、それが新たな宇宙ゴミを生み、それがまたぶつかって……というふうに幾何級数的に自己増殖し、地球の衛星軌道上が宇宙ゴミで覆われてしまうという事態も危惧されています。こうした状況を指す「ケスラーシンドローム」という言葉さえあるほどです。
衛星軌道上が宇宙ゴミで覆われてしまうと、危ないので地上からロケットを打ち上げることもできなくなってしまいます。そうならないよう除去しなくてはなりません。
しかし、宇宙ゴミの数は年々増える一方です。
2013年8月現在でカタログ化された人工物体(地上から観測・追跡可能な物体=約10cm以上)は1万6800個もあるのです。
実は網というよりも「紐」でした
そこで、JAXAは宇宙ゴミ除去のための「実験」を予定しています。それは、日東製網が製作した特殊な網テザー(ここではあえて網を付けています)を用いて、宇宙ゴミを大気圏に落とし、燃やしてしまうというものです。
日東製網は、漁業で使う網を製造販売している会社で、JAXAから実験用のテザー網の製作を依頼されました。
このニュースが「網で宇宙ゴミを捕まえる!」といったニュースになったりしましたが、実は「網」ではなく、むしろその名のとおり「紐」(テザー:tether)なのです。
網で宇宙ゴミを捕まえるというと、あたかも魚を捕まえるみたいに「小さな宇宙ゴミを一網打尽」といったイメージがわくかもしれませんが、そうではないのです。バカな筆者も取材するまでは「網で捕るのか」などと誤解しておりました。
漁網を作る技術を応用、除去機を打ち上げ
JAXAでは以下のような方法を研究しています。
(1)「宇宙ゴミ除去機」をロケットで打ち上げる
(2)「宇宙ゴミ除去機」を軌道投入
(3)「宇宙ゴミ除去機」を除去するデブリに接近させる
(4)「宇宙ゴミ除去機」が宇宙ゴミに「テザー」を取り付ける
(5)「宇宙ゴミ」はテザーを取り付けられたことで軌道を下げる
(6)「宇宙ゴミ除去機」は次の宇宙ゴミへ移動
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テザー網は「導電性テザー」と呼ばれるもので、その名の通り電気を通すようにできています。JAXAによれば「導電性テザー(電気を通す紐)を宇宙ゴミに取り付けて電流を流し、地球磁場との干渉によって発生するローレンツ力(電気をもつ粒子が受ける力)により軌道を下げていくものである」とのこと。
この「導電性テザーは一本の細い線にすると、1mm以下などの小さい宇宙ゴミがかすっただけでも切れてしまうため、漁網を作る技術を応用して、アルミワイヤ12本+ステンレスワイヤ6本を網状にし、簡単に切断されないような構成としている」そうです。ここに日東製網の技術が生かされているのです。
開発元の日東製網「10年かかった」
――JAXAから依頼が来たときはどのように思われましたか?
尾崎さん 正直に言えば、最初は何のことかよく分かりませんでした(笑)。弊社は漁網メーカーですので。「電気を通す網を作ることができますか」というお話でした。弊社では、金属繊維や化学繊維を使っていたりしますので、「たぶんできると思います」とお答えして、ではやってみましょうとなったのですが。
――ネットなどでは「網」といわれているのですが
尾崎さん いえ、皆さんが一般に考える網とは違います。「めがね網」という似たようなものがありますが、これはロープと網を組み合わせる部分に用いられるものです。普通「網」というと、ひし形のものがずーっと連なっているところを想像されるでしょう。
今回開発したものは、一辺が15cmの“ひし形”の部分が縦に2個積み上がったようなもので、左右に引っ張ると、そのひし形の部分は潰れますので、一見ひものようになります。
――長さはどのくらいなのでしょうか
尾崎さん 700~1,000mです。
写真提供:(C)宇宙航空研究開発機構(JAXA)
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尾崎さん ご存じのとおり漁網というのはとても頑丈な繊維を使って作ります。これに対してテザーは、アルミとステンレスの金属繊維で作ります。これが0.1mm径とかで、とても切れやすいのです。このような切れやすい素材を寄り合わせ、網状に作るのに四苦八苦しました。
――開発にかかってからどのくらいの時間がかかったのですか
尾崎さん つきっきりではありませんが10年かかっています。完成したのはつい3年前のことです。JAXAさんの期待通りできないことが苦しくてですね。この期日までに100mできますかといった相談をいただいても、それがなかなかできなかったのです。
例えば5mしかできていない、10mしかできていないというように。それがとても申し訳なくて……。今はもう完成していますけれどもね。
――御社の独自技術になっているわけですね。
尾崎さん そうですね。でも、本番はこのくらいの長さでは足りないそうです(笑)。例えば10kmの長さのテザーが必要だったりするそうですから、オーダーがきても慌てないように頑張らないといけません。■
JAXA「非常に難易度の高い技術」
――実験はどのように行われますか
JAXAデブリ担当者 現在、まず最初のステップとして、HTV(H-II Transfer Vehicleの略で「宇宙ステーション補給機」のこと)を利用したデブリ除去システムの実現に向けた導電性テザーの要素技術の軌道上実証実験を計画しています。
――この実験の意義を教えてください
JAXAデブリ担当者 軌道上でテザーを数㎞も伸ばすのは非常に難易度の高い技術です。世界でもまだ被覆のない導電性テザーを伸展した実績はありません。この実験では700mのテザーを伸展させ、伸展抵抗による減速と重力傾斜力による増速を計測します。これを実施することにより、実用化に向けて必要となるデータを獲得することを目指しています。
また、伸展特性だけでなく、電流駆動特性(誘導起電力により周辺のプラズマに対してどのくらいの電位が発生し、どのくらいの電流が流れるか)についても、データ取得を目指している。これらにより、将来デブリを除去するための導電性テザーを設計することができるようになると考えています。■
いかがったでしょうか。製網技術を用いて作られた特殊なテザーが宇宙ゴミ除去実験に挑もうとしています。今から楽しみではありませんか!