にっぽん紀行「語り出す“人生”のノート〜新潟 南魚沼〜」 2014.05.08

(小西)うわ〜何だか懐かしい雰囲気ですね。
子どもの頃におじいちゃんとかおばあちゃんのおうちに行った事を思い出しますね。
案内人の小西真奈美です。
ここは日本有数の米どころ新潟県南魚沼市。
今一冊のノートが話題を呼んでいるんです。
お年寄りたちが自分の人生について書き記し家族に残すノートです。
うわ〜いろんな事が質問事項にあるんですね。
皆さんいろんな思いで書かれてるんだな。
ちょっと読んでみますね。
「プロポーズの言葉は俺の所に来てくれ。
思い出のプレゼント夫が初めてくれたカーディガン」。
何だかすてきな事が書かれてますね。
でもこのノート一人で書くには思い出せない人も多くて家族の助けが必要になってくるんです。
今日は一冊のノート作りを通じてつながっていく家族の物語です。
プロポーズの言葉は何だったでしょう?大変だなこれ思い出すのはな…。
険しい山々に囲まれた新潟県南魚沼市。
冬の積雪が3mを超える豪雪地帯です。
え〜っと1ページ目めくって頂きますと第0章という事で…。
雪に閉ざされるこの季節。
集会所に集まるお年寄りたちに一冊のノートが配られていました。
自分の人生を振り返り家族に伝えたい事を記すノートです。
その内容は3つ。
まずは自分史のページ。
50の項目が並びます。
その次は家族へのメッセージのページ。
最後に介護や葬儀の希望を記します。
このノートが生まれたのは3年前。
作ったのは市の社会福祉協議会の本多博樹さんです。
祖母を亡くして初めて気付いた思いがきっかけでした。
おばあちゃんってどういう人生歩んできたのかなとかどういう事を経験してきたのかなというのは全然教えてもらってないなというふうに思ったので。
まあこのノートっていうのは非常に僕の…。
自分について知ってもらう事で家族の時間を豊かにしてほしいと訴えます。
愛するお子さんであるとかお孫さんに自分の生きてきたこう証しでもないんですが自分の経験をですね是非後世に残して頂きたい。
ちょっと何書いていいかなんて言われてもな…。
ミニスカートはやってた。
テレビは白黒だった。
白黒だったな…。
白黒だったよ。
そりゃそうだよ。
この冬初めてノートを書き始めた人がいました。
夫と息子さんの家族の5人で暮らしています。
結婚したのは昭和…昭和…。
この日マツイさんが書いていたのは自分史のページです。
う〜んと…昭和29年。
昭和10年生まれだからね。
私たちの頃なんか新婚旅行なんてやる人はほとんどないんですよ。
マツイさんは60年前重機メーカーに勤める石生さんとお見合いで知り合い結婚しました。
しかし夫は単身赴任が12年間続きます。
マツイさんはその間2人の子どもたちの面倒を一人で見ました。
手が止まった項目がありました。
夫のプロポーズの言葉です。
プロポーズなんて言葉は聞いてないような気がするんだけど…。
夫の石生さんです。
家族の前で無口だった石生さん。
退職して2人の時間が増えても変わりませんでした。
マツイさん思い切って聞いてみる事にしました。
あの…プロポーズの言葉は何だったでしょう?プロポーズか…。
した覚えなくねえ?う〜んとどう…?大変だなこれ思い出すのはな…。
(マツイ)言った事ないんじゃないかと私は思うんだけど。
いや言った事はあるな。
プロポーズっていうよりも何か結婚しようって言って…。
言ったような気だな。
結婚しようとか?じゃあ結婚しようならそう言ってみてよもう一回。
おい冗談じゃねえわ。
そりゃ〜たくさんだって。
(マツイ)いいじゃない。
いいよ。
なに改まって…。
長い間埋もれていた大切な言葉。
マツイさんの自分史に加わりました。
家族のために残す人生ノート。
何を書いたらいいのか思いつかない人がいました。
農協を15年前に退職しました。
市の職員をしている長男夫婦。
そして市内の会社に勤める孫の真海さんと一緒に暮らしています。
28年前妻を亡くした満幸さん。
家族が仕事に出たあとは一人で家にいます。
孫の真海さんを職場に送る事を日課にしてきました。
五日町郵便局経由で。
経由でな。
お願いするでござる。
郵便局へ?うん。
郵便局は時間かかんないから。
(ウインカーの音)ノートの自分史や家族へのメッセージを書けないでいた満幸さん。
既に記していたページがありました。
介護や葬儀の希望を示すページです。
満幸さんは家族に迷惑がかからないように最期の在り方は自分で決めていました。
この日満幸さんは思いがけない知らせを受けました。
仲の良かった友人が認知症になって話す事ができなくなってしまったと聞いたのです。
それから1週間。
満幸さんが自分史のページに向き合っていました。
その中に妻について書く項目がありました。
満幸さんの仕事を全力で支えてくれた妻のヨシさん。
突然病に倒れ52歳の若さで亡くなりました。
「人柄も頭もよく農作業もできた。
ヨシは私の家庭にとって最高の人」。
ノートを書くうちによみがえったのはヨシさんに感謝の言葉を伝えられなかった後悔の思いでした。
もっとこうもすればよかった。
ああいう言葉も掛けてやればよかったっていうのはやっぱり反省として残るけども。
思ってるばっかりじゃ駄目だからこれはやっぱり書いておかなきゃ駄目だなと。
妻の記憶と向き合った満幸さん。
家族に人生ノートを残す意味を感じ始めていました。
でもどんな言葉をつづればいいのかまだ分からずにいました。
いつものように真海さんを会社に送っていた満幸さん。
この日ある事を尋ねました。
自分が元気なうちに聞いておきたい事がないかという問いかけです。
(満幸)じいちゃんだってさじいちゃんだって…でお前はあれか?例えばさじいちゃんに…じいちゃんの若え時の事を聞いておけばよかったとかそういうような今聞かんけば駄目だなと思うような事ない?すると真海さんから返ってきたのは強い反発の言葉でした。
私思うんだけどそういうのは結局さおじいちゃんの死期が近いだとかやっぱりおじいちゃんの元気がなくなったりだとか私はそういうのが一切嫌なの。
(満幸)なるほど。
(真海)何かおじいちゃんの具合が悪くなった事を想定してしゃべるのなんて一切嫌だね!嫌だ…。
だって悲しくなるじゃん。
亡くなる事など考えたくもない。
満幸さんが初めて聞いた真海さんの思いでした。
幼い頃から両親が共働きだった真海さん。
満幸さんは当たり前のように親代わりを務めてきました。
そんな真海さんが自分を必要としてくれていた事を満幸さんは知りました。
真海がじいちゃんのおかげで送ってもらうとかじいちゃんがいたからあれだとかという言葉を聞けば私はそれが生きがいだ。
あんたがいたからという言葉を受ければもうこれほどあ〜生きててよかったと。
大げさに言えばそういう事だ。
春のこの芽吹く時期…もう待ち遠しい。
春を早く感じさせてやろうと思って。
ここだ…。
これだ。
これが楽しみなのよ。
思い出して書いてみて下さい。
考えてねえな。
(笑い声)名前の由来こんな子こうなってほしいっていう思いがあって多分名前付けたと思います。

(鉛筆削りの音)よいしょ。
家族に残す言葉が見つからなかった満幸さん。
この日向き合っていたのは家族へのメッセージのページ。
真海さんへの思いをつづりました。
「お前との暮らしは本当に生きがいを感じた楽しい人生だったよ。
ありがとう」。
「真海信ずる人と幸せな結婚をして下さい。
お前の愛する人を見られなくて残念だけどネ」。
書いたのはやはり自分の最期を意識した言葉でした。
おい真海。

(真海)はい。
真海!
(真海)はいはい。
(満幸)ちょっと2階…。
はいはい。
満幸さんは真海さんに目の前でノートを読んでもらいます。
「亡くなる事を考えたくもない」と言った真海さんに今の気持ちを分かってほしかったのです。
俺が死んでからだって何にもならんからこういう事書いてあるっていうものを教えておこうかなと思った訳。
満幸さんの心の声を感じ取った真海さん。
でも一つだけ受け入れたくない箇所がありました。
最後に記された「愛する人を見られなくて残念だ」という言葉です。
おじいちゃんが鉛筆で書いてくれたのでこれが消せるようにここをちょっと早く連れてきて。
フフフ。
(満幸)そっか。
そうだね。
そうだな。
この最後の2行が顔が見れて幸せだったと…。
(満幸)ああそうか。
そうだね。
残念じゃなくてよかったと書いてもらえるように。
プロポーズの言葉を思い出した…ノートはまだ書き終えていません。
我が家の5大ニュース。
うれしい出来事を書きましたがあと一つだけ決められていないのです。
そのヒントをくれたのが夫の石生さんでした。
「私の知ってる事であなた思いつく事ない?」って言ったらそしたら「お前2人でこの年まで生きられるって事だって5大のニュースに入らないか」なんて。
マツイさんの5つ目のニュース。
「夫と2人でこの年まで生きられた事」。
この日マツイさんは娘の裕子さんに夫からの言葉を見てもらいました。
へえ〜いいじゃないの。
何だかんだこれだけ言われててもおばあちゃんの事やっぱり愛してるんだなって思ったかな。
下手くそなんだねおじいちゃんもね。
自分の気持ちを言い表す事がね。
だからホントにあの人しんは優しい人なんだと思うよ。
ノートを書き始めてから1か月。
マツイさんは最後に夫に残しておきたい言葉を書きました。
ちょっと恥ずかしいです。
フフフ。
あの人が見て何と言うかな…。
「19歳で農家から嫁ぎ農業は何もできなかったですが有難うございました」。
「もうしばらくよろしくお願いいたします」。
真海さんにメッセージを伝えた満幸さん。
手に取ったのは消しゴムです。
「愛する人が見られなくて残念だ」。
あの1行を消していきます。
真海さんの将来を見届けるという決意でした。
書き上げたノートは家族の目に留まる場所に置きます。
自分の歴史家族へのメッセージそして最期の在り方。
ちょうどいいかな?こうしておけばみんな誰からも見えるから。
家族に知ってほしい今の自分です。
うわ〜すごいほら!すご〜い!南魚沼市に少し遅い春が巡ってきました。
ノート作りを通じて向き合う家族の記憶。
当たり前の日常が輝きだす春です。
2014/05/08(木) 19:30〜19:55
NHK総合1・神戸
にっぽん紀行「語り出す“人生”のノート〜新潟 南魚沼〜」[字]

新潟県南魚沼市で今、高齢者の間に広まっているノートがある。自分の人生を記し、家族に見せるというもの。記憶をたどるお年寄りと、初めて家族の過去を知る子や孫の物語。

詳細情報
番組内容
米どころとして知られる新潟県南魚沼市。この町のお年寄りの間で今、あるノートが配られ話題を集めている。それは自分たちの人生を記録し家族に伝えようというものだ。今は亡き最愛の妻との思い出、嫁いできたころの気持ち。お年寄りたちは地域社会の中で生き抜いてた記憶をたどり始める。見つめる子や孫たちは、初めて聞かされる記憶をどう受けとめるのか。ノートをきっかけに新たなつながりを築き始める家族の物語をみつめる。
出演者
【語り】小西真奈美

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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