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ファンタジー村の釣り師さん 作者:九朗

ドジョウ釣り 前編

 初投稿です。

 文庫の短編小説の形式で書いているため一話辺りが長いです。
前編のみで原稿用紙56枚分

 プロットに変更予定はありませんが、キャラクターの口調の統一や辻褄合わせのために、細かい点で訂正の可能性が大いにあります。
(2013/07/26 読み難いほどの誤字脱字は修正されたと思います)

 ちょっとした妄想を形にしてみましたという作品です。ノリで書いてます。前後編で完結させています。

 筆不精なので感想返しはしません。作品をもって返事とさせていただきたいと思います。
「俺はイペンサ、流しの釣り師だ。漁師とは一緒にしてくれるなよ、短い旅だがよろしく」

 そう自己紹介した俺を見つめる冒険者3人組、立ち居振る舞いからしてかなり腕が立つのだろう。3人というのは数が少ないが、全員の顔立ちが似ているから家族だろう。俺はよほど胡散臭いらしい。目がやたらに物を言っている。

「俺達はイドラ三兄弟、冒険者だ。俺が長男のイヴァーツ、こっちが弟のイアン、そして妹のリオカだ」

 そう挨拶を返したイヴァーツは、立ち居振る舞いが貴族の礼にかなっており、顔も眉目秀麗で貴族といわれても違和感がない。イアンと紹介された男は「おう」とだけ挨拶し、いかにも冒険者らしい荒くれ者だった。そして最後に挨拶をしたリオカさんは、母性あふれ出ている感じである。垂れ目に泣きボクロおまけに巨乳と包容力の塊のような人である。この旅の間の癒しをもたらしてくれるだろう。回復魔法ではないものを。

「ところで、失礼を承知で聞きたいのだが、釣り師とはどういう職業なんだ?」

「俺の仕事は常に釣竿で獲物を釣り上げることだ。それが魚でも魔物でも何でも釣る。今回の俺の仕事は沼の魔物ヌマヌッシーを陸上まで釣り上げることだ。絞めるのはあんた達の仕事だよろしく頼むぜ」

「つまり水中の魔物を陸上まで誘い出してくれるのか、ありがたい存在だ。こちらこそ、よろしく頼む」

 簡単な自己紹介を終えた俺達一行は挨拶もそこそこに、その場で俺達を引き合わせた商人に、冒険の旅に送り出されることとなった。

 ここは水運の国ガシ、国の北には海と見間違えるほどのワビ湖とそれに付随する湖沼地帯を備え、国の南は外洋へと繋がる海である。そして国の彼方此方あちこちをワビ湖から木の枝のように、いくつもの支流に分かれる川が流れており、河川湖沼に海と釣る獲物に困ることはない。

「なんなんだよこの国は、移動が面倒すぎるだろう」

 湖岸の町シハヤを出て半日でイアンが愚痴を言い出した。今現在雨季が終わった直後のガシ国は四季がある国では、大体時期的には秋であり若干涼しくなってきたのであるが、雨季の影響が残っており道が水没して所々寸断されている。

「他国から来た方はそうおっしゃいますね。乾季になればなれば道が水没してるなんてことは無いですし、雨季であれば全面沼地で運河になってますんで移動の苦労は無いんですが、この時期が一番厄介ですね。この時期は大抵の人は運河以外を使いません」

「報酬が良い理由がわかった。こりゃ苦労しそうだな」

 道を飲み込んだ沼をカヌーで渡り切り、それぞれカヌーを車輪に乗せて陸地に引き上げながらの話である。この辺の移動手段は基本的にカヌーである。コカヌーと呼ばれるカヌーは車輪を備え付けたカヌーの総称であり、この辺りでよく利用される。喫水が浅いのが特徴で、軽く頑丈と評判である。今回は二人あたり1隻のコカヌーを借りている。

 当然この辺りでは馬は使えず、代わりに犬を使うのが一般的だ。コカヌ犬と呼ばれる大型犬で、大の男ほどの体重がある筋肉質な犬種である。コカヌ犬は馬に比べて持久力も無く速度も遅いが、馬に比べて圧倒的に小さいその体格の割には牽引力が強く泳ぐのもうまい。何よりの特徴はコカヌーに載せて移動できることである。通常コカヌ犬は陸上でコカヌーを引いて、水上ではコカヌーに乗せて休ませる。持久力が無いため水上では人力で移動するのが普通なのである。しかし必要とあればコカヌ犬がコカヌーを引いて泳ぐこともでき、意識の無い主人をコカヌ犬がコカヌーに乗せて町まで引いてきた、なんて逸話のある、頼りがいのある相棒である。

 コカヌーの折りたたみ式のギミックを使い、船が水上にあるうちに船上にあった車輪、1対2輪合計4輪を船底の前部と後部にそれぞれ固定して、コカヌ犬を使って引き上げる。一隻を引くのは俺の相棒のコカヌ犬ロタである。もう一隻は貸しコカヌーと一緒に借りた貸し犬で引き上げる。

「それにしても、よく働く犬ですね。一匹家族に欲しいくらいです」

 そう言ったのは今回の依頼のオアシスたる。リオカさんである。話を聞いてみると23歳の独身女性だと言う、これは口説かない手はない。

「そりゃ、この辺りの労働力ですから、でもこいつら馬並みの食欲なので、愛玩犬に飼うのはちょっと難しいですよ」

「あらあら、それは大変ね。でも、よく働きよく食べる、人もそうありたいものですね。お兄様方」

 そこでリオカさんがコカヌーに乗りっぱなしの二人の兄に声をかける。貸し犬が一生懸命引き上げようとしているが、まったく動いておらず時折後ろを確認して、まるでため息をつくかのごとく息を吐いている。

「兄さん方、馬ではなく犬で、しかも一匹で2人乗りのコカヌーに男二人と荷物を載せて引くのは無理です。降りてください」

 仕方なく俺が注意して、ようやく降りる男二人組み、ちなみに組み分けは俺とリオカさん組と残りの二人組みである。

「おお、動いた。船と荷物で70キロ以上あるのに、よく自分より重いものを引くものだよ」

 チームリーダーのイヴァーツが感心している。ガシ国以外では餌代が高くてあまり見かけない犬種だから無理も無い。

「私たちを導いてくれる大事な相棒ですよ無理させないでください」

「ああ、わかっている。コカヌ犬が珍しくてついな」

「それにしてもイペンサさんよ、もっと犬を連れてきても良かったんじゃないか?」

 イアンのもっともな疑問に俺は答えた。

「第一に餌がそれほど積めない事、第二に扱うほうが素人であること、第三に魔物と戦った場合貸し犬のほうはパニックになること、これらの条件から今回犬はコカヌーと荷物を運ぶだけとしました。これ以上犬を増やすなら一人一隻につき犬2匹ですけど、トラブルで離れ離れになったらどうするんです?」

 俺の回答にイヴァーツが頷く。

「もっともな話だ、楽するのは諦めろイアン」

「中々楽ができないようになってるな、まあ仕事はどれもそんなものかな」

 本当に俺も楽な仕事がしたかった。





「よう、じじいとうとう引退か?」

 数日前に俺がシハヤの町の川沿いにある小さな家に入ったとき、その老人はベッドの上だった。

「ああ、それも遠くない。俺も犬も魔物に襲われてな見ての通りの様だ。毎年やってるヌマヌッシー狩りは今年は無理だということになったんだが、領主も商人連中も聞かなくてな、ヌマヌッシー専門の漁師も俺一人になるくらい冷遇しておいて、その恩恵にはあやかりたいんだと」

 そういった老人の体のあちこちに添え木がついている。魔法を使えば怪我を一時的に治すことは可能だが、その分体力を消耗する。これだけの怪我だと魔法で一時的にでも治すのは無理がある。魔法治療は主に裂傷や内臓破裂等に対応するもので、骨折の類の治療は回復促進魔法で自然治癒の速度を上げるのが精々である。

「ヌマヌッシーの素材はどれもいい薬になるからな、その薬がなくなれば大損だろうよ。それ以上に食ったら美味いんだが」

「この馬鹿野郎、まだ食おうとしやがるか」

「いやいや、ここ何年も一年に一匹しか食ってませんよ」

「結局は食ってるだろう!」

 俺は以前ヌマヌッシーを釣って食っていたところ、この爺に思いっきりドツかれ説教されまくった経験がある。当然俺のほうにも言い分は有ったのだが聞く耳持たず、問答無用で追い出された。この老人はこの一帯の自然信仰の祈祷師にして薬師である。結構権威のある人物だったがお互い譲ろうとせず平行線だったため、配慮の結果、1年1回50匹の生存が確認できた時1匹だけ勝手に食うことにした。法で禁じられているわけではなく、釣りを禁じるのが事実上不可能なため黙認されてきたようなものである。

「話を戻すと、困った連中がどうしたかというと、腕利きの冒険者を雇った。まず間違いなく失敗が確定していると言ったんだが、連中は納得しない」

「それで、俺を呼んだわけか」

「ああ、案内人として着いて行って、手伝いがあっても無理だってことをわからせてやった上で、生きて返すのがお前の仕事だ。このままでは雇われ冒険者は間違いなく死ぬ、死ぬのがわかっていて放置するわけにも行くまい。漁場を荒らされても困る」

「もの凄く面倒なんだけども? 冒険者なんて死ぬのも仕事の内じゃないですか」

「楽な仕事があるか馬鹿野郎! 漁場荒らされちゃ困ると言ってるだろ! 俺の職場で死なれちゃ気になるだろうが! アンデット化した日には目も当てられねぇ、万が一連中が上手くやってくれるなら、後は任せてもいいさ伝統漁法なんざ手段の一つに過ぎん」

「そもそも、腕利き冒険者なんかに頼んだら、人件費が最低でも3倍以上は上がるでしょうに、下手すると300倍以上上がるんじゃねえか?」

「連中原価にそのまんま乗せるつもりだそうだ、将来的には漁獲量を増やす心算かも知れん」

「馬鹿な話しだねえ、それだけの価値があるなら漁師にも、それだけ払っておけばすたれなかったでしょうに、冒険者の命が万が一の場合どうするの?」

「お前には奥の手があるだろう? 俺が許可する。その辺はお前で判断しろ」

「わかった、受けよう」

 こうして俺は爺の紹介の下で、釣り師としてくだんの冒険者に引き合わされることになったのだ。





 冒険1日目の日が暮れ本日の移動はここまでと言うことになった。野営の準備をするが、この辺に薪に使えるような木材はなく夜は泥炭で明かりと暖を取る。

「もっと吹っ掛けて置けば良かった、割にあわねえ」

 全身濡れ鼠となったイアンが、またまた愚痴を言い始めた。彼は呼吸するかのように愚痴を言わなければ死んでしまう生物のようだ。

 この辺りは町に近く安全だったため、魔物には遭遇していない。移動で上半身は汗だく、下半身は水浸しになっただけである。犬を使ってもコカヌーといえども、曲がりなりにも船一隻の陸揚げは面倒だ。その上街道が水没していたために、流木などが街道上の彼方此方あちこちに落ちている。当然退けなければコカヌーも荷物も通せないので、道を空ける作業もあり汗だくになるのである。

「やっぱり地元の方は慣れてますね。イペンサさんは汗ひとつかいてらっしゃいませんし」

 ようやく野営地を決めて濡れた体を温めるために火を起こした時点で、リオカさんが話しかけてきた。

「いえいえ、俺はこの辺に住んだことはないですよ、流れ者だといったでしょ?」

「なに? ずいぶん手馴れたようだったが?」

 リオカさんに答えた俺に食いついたのはイヴァーツだった。せっかくの美人との会話を邪魔するとは、気の利かない奴である。

「この辺りは道も整備されていて随分ましですよ、未開地の渓流釣りなんて、そもそも道がないですし」

「今だって道がないようなもんじゃねえか」

「冒険者だって道を切り開く位するでしょう? 未開地の魔物狩りなんて、釣り師と大してやること変わらないと思いますけど?」

「いや、我々は町の近くの魔物を退治する専門家だ。未開地のトレジャーハントは未経験だ」

 イヴァーツの答えに俺は思わず叫んでしまった。

「はぁぁぁぁ! 聞いてませんよ。じゃあ、そもそもこの仕事どう聞いて引き受けたんですか?」

 素人を生かして返すなんて、もっと面倒臭いよ。

「街道から一日入ったところに生息する、魔物の素材集めと聞いている」

 確かに現在街道上を歩いている。大量の流木が道をふさいでいて、乾季以外は道扱いされないとしても街道は街道である。

「それは嘘ではないですが、真実でもないですね。どういう契約で仕事請けたんですか?」

「失敗しても違約金なし、必要経費は成功の有無にかかわらず支払われる。コネにねじ込まれたのでそれだけは認めさせた」

「どこかの貴族様のお抱え冒険者というところですか? よほどお強いんでしょうね?」

「普段はゾエ国で仕事を請けている、半お抱え冒険者というところだな。高原ミノタウロスを1対1でしとめられるぞ」

 ゾエ国は全体に高地が多い山岳地帯である。国の大半は空気が薄く自然恵みも多くはない冬の厳しい地域である。そんな環境に生息するミノタウロスは高原の二文字を頭につけるだけはあり、草原に住むミノタウロスよりもよほど強い。どこの国の近衛騎士でも上位に位置するだろう、なぜ冒険者をしているのか謎なくらいだ。

「確かにお強いですが、湿地帯の経験はないのでは?」

「その通りだ、我々も受けたくはなかったんだがな」

 イヴァーツが苦い顔でそう答える。もしかしてと考え付いた事を聞いてみる。

「俺のことはなんだと思っているんですかね?」

「現地の案内人だろう?」

「いえ、自己紹介時も言いましたが、流しの釣り師です。今回の俺の仕事は釣り上げて陸地に誘い出すまでで、ヌマヌッシーを仕留めるのもあなた方の仕事ですし、ヌマヌッシーの餌を手に入れてくるのもあなた方の仕事です。立場的には俺のほうがあなた方より上かもしれませんね」

「聞いてない」

 イヴァーツの苦い顔がいっそう歪んでいく。

「契約内容は確認しました?」

「いや、どうあっても断れない仕事だから基本事項を確認しただけだ」

「確かに失敗時に違約金なしで、成功の有無にかかわらず必要経費は支払われるわけですから、そんなにひどい契約ではないんでしょうけど」

 はっきり言って破格である。性質たちの悪い冒険者であれば人気のない地域で野営して、帰るときに適当に泥だらけになって帰ってくれば、あとは必要経費を水増し請求できる美味しい仕事である。ともかく俺は考えつつ言葉を続ける。

「これはあれですね。前任者がいたんでしょうね、それも大量に。それで全員失敗して腕利き冒険者雇った感じですかね」

 爺に内緒で密漁する気だったんだろう、爺の怪我ももしかしたら人為的なものかもしれない。それで全て失敗したので初めて爺に密漁のことは黙ったままで、相談に行ったのだろう。

「なんてえクソ仕事だ。適当に野営して帰るか?」

 それまで黙っていたイアンが、悪態をつき始めた。それに対してイヴァーツは苦りきった顔ながらも次のように答えた。

「そうも行くまい、どんな裏があるとしても領主様の紹介だ。一戦交えなければ義理を欠いてしまう」

 さすが腕利き冒険者信用第一という感じである。俺だったらサボって水増し請求しちゃうね。

「イペンサさんは何か聞いていらっしゃらないのですか?」

 ここで初めてリオカさんが口を挟んだ。そこで俺は今まで爺一人でやっている伝統漁法があるらしいこと、俺自身は伝統漁法を知らないこと、そしてヌマヌッシーの生態については知っていること、爺に依頼されたことを話した。ただし生かして返すという依頼内容については伏せる。緊張感なく戦われては厄介だ。

「ひでえ、ひでえよ、兄貴。こんなクソ仕事は新人の時以来の酷さだぜ。慣れない地域で、未知の魔物相手に、時間制限付で戦うなんて負け戦確定、下手したら死ぬぜ」

 天幕もまだ張っていないのに、イアンが荷物からエールを取り出し一気に飲み始めた。

「獲物についても聞かなかったんですか?」

「道中に案内人から聞けという話だったんでな、成功報酬の素材については最低でも1体当たり300万SDスケーデンとなっている。どれだけ苦労するか分からなかったから、素材の買い取り価格最高値は確定させなかったんだよ」

 通貨の価値としては、平均的な平民の家庭で一食当たり300SD掛かるのが普通である。つまり、1万食分と考えればかなりの高額である。

「さすがお抱え冒険者、いい条件ですね。伝統漁法を知る爺はその十分の一の値段で卸していたはずです」

「これは買い取り価格は確定だな、最低価格で絶対買い叩かれるね」

 イアンのツッコミに思わずうなづく俺、そんな取引相手に得させない商売じゃ廃れて当然だ。商売は買う側売る側両方得して初めて成り立つものである。

「それでヌマヌッシーとはどんな魔物なのですか?」

 リオカさんの質問に俺は丁寧に答えることにした。簡単に説明すると下記の通りだ。


・沼1つにつき1匹が生息する
・その沼に入ってきた生物を攻撃し捕食する生態を持つ
・旬があり薬にするには雨季終了後一月以内でなければならない
・威嚇時に口を大きく開く
・弱点部位は口の中のど奥、人間で言えばのどちんこのように垂れ下がっている心臓
・攻撃手段は口周りのひげが触手のように伸びる、後は体当たりのみ
・陸上に引き上げられたときは、その沼に生息するすべての生物がヌマヌッシーの指揮下に入り、一斉攻撃される
・大きさにして直径1メートル、長さ5~10メートルの泥鰌どじょう
・陸上に上がると人間のような手足が生え、蟹股ながら直立歩行する
・再生能力が凄く、切っても焼いても弱点部位を切断しない限り、即座に回復
・回復不能になったら沼に逃げ込み手を出せなくなる


 イアンが呆れたような声を出す。実際呆れているんだろうな。

「なんだそりゃ、ドラゴン相手にするほうが簡単なんじゃないか?」

「我々は竜殺しの経験はないんだがな」

「沼を干上がらせてはどうでしょう?」

 イヴァーツが固まってしまったため。リオカさんが前向きに検討を始める。穏やかなその顔にも緊張感が漂っている。

「無理ですね。この時期の沼はひとつあたり直径100メートルはありますし、よしんば干上がらせることができるとして、直立歩行して逃げ出しますし、沼は近くに無数にあります」

「口の中に入って中から心臓を攻撃するのは?」

「口の中に何列も並んだ鋭い歯があります。ワニを頭から食べる魔物ですから、心臓までに到達するのに大きなワニでも死ぬんでしょうね」

「そんなの今までどうやって漁をしてたんだ?」

 次々に案を却下する俺に、呆れたようにイアンが口を挟んだ。

「魔法か毒か知りませんが、麻痺の類で眠らせるそうですよ。その間に開腹手術して肝臓なり腎臓なり必要な部位を回収するそうです。薬になる内臓全部とっても死なないそうです」

「その眠らせる方法は?」

「先ほども言いましたが、私は知りません。他所者よそものですから」

「餌に毒薬を仕込むのはどうでしょうか?」

「俺は知りませんが、強力な魔物が死ぬほどの毒を飲ませて、内臓は薬として使えるんでしょうかね?」

「解毒したとしても、薬として使えるかは疑問が残ってしまいますね」

 リオカさんは自分で答えを出したようだ。

「そのお爺さんに、眠らせる方法を聞きだすしかないようですね。町に戻ることになりますが」

「何年も修行して身につける方法だそうですよ、弟子入りなさるんですか?」

「都合のいい話ですが、方法だけ聞きだすのは無理なお話なんでしょうか?」

「よしんば知識さえあれば何とかなるとしても、爺に内緒で密猟しようとしていた連中の、片棒担いでいる限りは難しいでしょう、俺は報告しますし」

 乱獲されて絶滅されたらたまらないので、爺にはしっかり報告することにしよう。

「ここまで八方塞だと、どうしようもないな」

 イヴァーツの感想にリオカさんが答える。

「いえ、そんなことはないと思いますよ。口の中に槍を突き込むか、魔法を口の中に命中させるかですね」

「そうですね、弱点部位は柔らかいから、それで何とかなるんじゃないでしょうか」

「なるほど、それならドラゴンより強いということはなさそうだ」





 結論が出てようやく一段落したところで、完全に日も落ちてしまったために野営を始める。この時期は地面が湿っているため、地面に寝ることはできない。そのため屋根壁付のハンモックを吊るして寝ることになる。そのため天幕の設営は比較的簡単で助かった。

 さて、寝床ができれば次は飯である。この辺りはこの時期旬が来ている魚といえばヌマワタリである、手足もない魚のくせにこいつは陸上を移動する。沼から飛び出してビチビチと跳ねて、100メートルほど先の沼まで移動するのである。白身魚で沼にすんでいる割には、泥臭さがなく泥抜きせずに食べられる。大きさはフナと同じくらいで結構大きい。
 鍋の中にスモークチップを敷きその上に網を敷いて魚を置き蓋をする。鍋は鉄棺鍋とこの辺りで呼ばれる代物である。蓋も鍋も分厚い鉄でできた真っ黒い密閉式の鍋で、全体に熱が回るためオーブンとしても使える。難点としては重いのが弱点だが、こいつがあれば野外でパンが焼けるほど、料理に幅が出るため手放せない一品である。その鍋を火にくべると、20分ほどで高温で燻製にされた焼き魚の出来上がりである。スモークチップの香りがついて大変食欲をそそる。この辺りの燃料は薪ではなく泥炭であるため。魚を直接泥炭で焼くと泥炭独特の香りが付く、串焼きにした塩焼きを大口開けて食べエールで流し込む。これがまたいいんのだ。とはいえ、リオカさんにはそんな料理は勧められない。そこで俺は鉄棺鍋に入れて泥炭の香りを遮断し、さらに香り付けのスモークチップを足したわけである。

「さあどうぞ、今が旬のヌマワタリの熱燻ねっくんですよ」

 俺は魚料理を作るのも食うのも食わせるのも大好きである。特に美人には。そういうわけで満面の笑みを浮かべリオカさんに魚を勧める、低いテーブルに椅子までありテーブルの上には、金属食器の上に乗った魚料理にハーブを添えて、鉄棺鍋を使って焼いた出来立ての白パンまでつけてある。それをリオカさんが上品にナイフとフォークで、小口に切って少しずつ食べる様子は見とれるだけの価値がある。特に薄くほほを染めている当たりが、これまた良い。

「美味しいです。ヌマワタリは今までにも食べたことがありますけど、こんなに美味しいものは初めてです。熱燻といいましたか? あとで調理法を教えてください」

「ええ、是非にお教えいたしますとも」

 俺も向かいに座って同じ料理を食べる。俺としては上品な魚料理だけでは寂しいので、鉄棺鍋を暖める際にできた余熱で、魚を串に刺した塩焼きも作り一緒に食べている。鼻の下を伸ばしつつ魚料理の薀蓄を話す。俺の皿だけに乗っている魚の泥炭塩焼きを、勧めて親密度アップの作戦である。

「やっぱりこの時期この地域なら、ヌマワタリの泥炭塩焼きを、丸齧りもいいものですよ。男料理の代表のようなものですが、御一ついかがですか?」

「ええ、いただきます」

 そして目を輝かせながら穏やかに食べるリオカさんを眺めるのは、非常に癒される光景である。野外料理であることを忘れそうだ。ついでだからワインとワイングラスも出してしまおう。


「おい」


 そんな気分に水を差す奴がいる。イアンである。硬い黒パンとヌマワタリの泥炭塩焼き、エールで手がふさがったままの立ち食いで実に不満そうだ。

「なんでしょう?」

 男に話しかけられ途端に真顔に戻ってしまう。せっかくいい気分で話していたのに台無しである。

「いくらなんでも差をつけすぎだろう、しかも食器まで持ってくるなんて何考えているんだ」

 旅暮らしは冒険者も流れ者も一緒、当然荷物は軽くなるように勤めるのが普通、そうなると調理器具が食器をかねることが多く。皿なんて物は通常持ちえることはない。

「女性が同行するとの事でしたので、用意したのですが何か問題でも?」

「まあ、そこはいいとして、俺にもよこせよその魚料理」

「何言ってるんです? あなたも同じものを食べてるでしょう?」

「泥炭塩焼きは匂いがきつくて、食いづらいんだよ熱燻の方をよこせ」

「この地方の名物料理に不満があるとは! この地域の住民すべてに唾を吐くような行為! そんなにいやなら自分で作ってください!」

 この地方の人間でも泥炭焼きには抵抗があるというのは多いが、俺はそんなの認めない。ここで頼もしい援軍も現れた。

「そうですよ、お兄様泥炭塩焼きも十分美味しいじゃありませんか、独特の香りも癖になりそうです」

「ほら、この通り女性のリオカさんだって美味しく泥炭焼きを食しているのに、大の男が泥炭焼きが臭いだなんて、軟弱なこと!」

 リオカさんの言葉に100万の援軍を得たとばかりに、薀蓄を語りだす俺は実にいい気分で食事を終えた。泥炭塩焼きも美味しそうに食べるリオカさんは、魚料理に対する受け皿は広く深く、朝飯用に取っておいた魚もついつい調理してもう一品追加してしまった。その間に優しいリオカさんは、軟弱なことを言う兄にも自分の熱燻料理を分けていた。ちなみにイヴァーツはどうしていたかというと、魚の泥炭塩焼きがお気に召さないらしくイアンに渡して、硬そうな干し肉齧っていた。俺の相棒ロタはというと、塩抜き泥炭焼きを文句も言わずに10匹ほど食って満足したようだった、男なら泥炭塩焼きだろう!





 冒険を始めて2日目、不寝番の最後に順番が回ってきた俺は夜明け直前に、案内人のイペンサが起き出したのを感じた。

「やあ、おはよう、イアン」

 抜け抜けと言いやがる。昨日の晩飯における妹リオカに対する贔屓を忘れたかのようだった。俺は「おお」と適当に挨拶を返しておいた。冒険者は十人十色、荒くれ者もいれば軟派者もいるが、仕事中に女を口説く奴は俺は信用しないことに決めている。妹は言い寄る男の一人や二人いくらでもあしらえるだけの器量がある。俺が口出すと必ずこじれるからと、口出し厳禁をだいぶ前に約束させられた。もっともイペンサは釣り師と名乗り、昨日の晩飯の魚の調達は見事の一言だった。30分で30匹の魚を釣り上げ、血抜き処理までしやがった。隣で見ていた俺はそこまで入れ食いなら、面白そうだと同じポイントに同じ餌で糸をたらしたものの、奴が釣り終えるまでの10分の間に奴は10匹釣り上げたが、俺は0匹、何が違うのかまるで分からなかった。魚釣りの名人としてなら認められなくは無い。魔物釣りなんてのは眉唾物だが。

 そうして昨夜のことを思い出しているうちに、またしても奴は追加で20匹ほど釣り上げた。昨日のうちに仕込んだ魚とあわせて30匹ほどになるのだが、犬が1頭あたり魚を10匹食うのだ、恐ろしいほどの食欲と消費量だ。コカヌ犬が馬代わりと言われる理由が良く分かる、力も強いが餌の消費量も馬並みだ。奴は魚を釣り上げ終わると同時に、火をおこし火が見る見る大きくなるうちに、魚に杭といえるほどの長大な串を刺していく、火が燃え上がる頃には魚が20匹、ずらりと並んでいるのだ。釣り師の流れ者というだけあって魚の調理がやたらと早い、その上短い旅にもかかわらず、鉄棺鍋から折りたたみの燻製器や果ては皿まで持ってきている。長期の旅なら食事を美味くするのは生活の知恵だが、短期の旅なら荷物を減らしさっさと済ませるのが俺達の流儀だ。しかしコイツは違うらしく、魚を調理するための器具はちゃっかり持ってきたらしい。

 あっという間に日が昇り朝食の時間となった。昨日と違い今日の魚料理は美味そうな匂いをさせている。この地方で常用される泥炭は燃やすと特有の臭いがあって癖が強い、それで焼いた魚も当然癖が強く、匂いのおかげで何食っているのかわからなかった。妹に出された熱燻料理は美味く、貴族相手の食事会で出される美食に慣れた俺をうならせるほどであった。男にはわざとまずい料理を出したのか思い、腹立たしさを紛らわせるためエールをあおりながら、兄貴の分の泥炭塩焼きも食べる。そのうちに少しずつ味が分かるようになった。2匹目を食べることで酒のつまみにいい料理だ、ということがようやく分かった、が悔しいので奴には秘密だ。

 今朝の朝食は昨日から燻していた魚の燻製だ。燻製といっても日持ちするような加工はしていないので、今日明日にでも食ってしまわなければならないが、すぐに食えるのはありがたい。それに加えて魚の香草ムニエルは、昨日の魚料理を拒否した兄貴も今日の料理には目を輝かせている。俺以上に美食に慣れた兄貴には、昨日の料理はさぞかし食えたものではなかっただろう。冒険中の暖かい食事は何よりの贅沢だ。泥炭焼き以外なら何でも歓迎するだろう。

 そうして美味い朝食を終え、やる気を奮い起こして街道の移動を開始する。とにかく流木などのごみが邪魔で、倒木といっていいほど大きいものもある。イペンサも昨日に引き続き交代で道を空ける。仕事に関しては怠けもせずに公平にやる奴だ。それにしても暑い、のどが渇く、水代わりのエールの酒精が忌々しい。まるで塩水を飲むかのように、飲めば飲むほど体が火照り、更にのどが渇く。

 貴族のお抱え冒険者というのは、つまるところ何でも屋だ。騎士が出来ない事や行けない場所などに行って、仕事を片付けるのが日々の生活の糧だ。そして今回は数多の連絡ミス(ということにしておく)を抱えた仕事に回されたわけだが、年に1,2回あることで他所の貴族に貸し出されるのだ。今回珍しくも国を越えての要請でドラゴンでも暴れているのかと緊張したが、そうではなく素材調達であった。俺達は基本的に討伐任務を主体とした魔物の退治屋で専門が違う! と言っても通用しない、貴族にとっては俺達は便利屋、何でもやらされるのだ。そうして広大なワビ湖を渡った先で水になれる暇も無く、冒険に出されたのだ。

 何でエールの酒精が忌々しいから、こんな話になったんだ? ああそうだ、今回の冒険では生水は沸騰させても飲むことができないという話だ。あまりに急ぎの依頼でこちらの水が体に合うのか試している暇も無いのだ。水を試して体を壊せば依頼期日に間に合わないことになりかねない。冒険に出る前から冒険に失敗というのは、雇い主の顔に泥を塗る。そういうわけで、そうそうあたらないエールを飲料水代わりに、40リットル運んできたのだ。俺達の装備を除いた荷物の合計100キロのうちの、約四割が飲料水ということだ。本当に厄介な依頼だ。成功しても失敗しても依頼主とっちめてやる。本来付いてくることの無いはずだったらしい案内人がいなければ、飯も日持ちがする以外利点の無い、黒パン、干し肉、塩漬け肉、ザワークラウトの4種類しかなかった。絶対ぶっ殺してやる!


 そうして恨み辛みを呪文のごとく唱え続けているうちに、日は昇り昼も過ぎてしばらくたち、日差しが最も辛い時刻となってから、イペンサはこう言った。

「それでは本日の移動はこれまで、アレ、生け捕りにしてください」

 そうして指差す先にある獲物を見て俺達は絶句した。全長5メートルのヌマワニだ。

 ヌマワニとは完全な淡水に生息するワニで、最大全長8メートル重量1トンの大型になるワニだ。肉食性で魚や草食動物などを食べる、時には自分と同じサイズの魔物も食い尽くすと言われている。

「オイ、ふざけるなよ、殺すだけならともかく生け捕りにするなんて、どうやるんだよ? そもそも餌が本当に必要なんだろうな?」

「もちろん必要ですとも。ヌマヌッシーは沼の生物の脅威になりそうな外敵を食べるんですから、ワニが最適です。釣るのに餌なしでどうするんですか? 捕まえる道具は縄しか装備がないでしょう。眠りの魔法とか麻痺の魔法で眠らせている間に、あごひらけないように縛り付けてください」

「成功しても、運べないだろうが!」

「だから俺はあの木を切り倒して、もって来た車輪を取り付けて、ワニを縛り付けたまま移動できる台車を作りますよ」

 イペンサはそこそこの大木を指差して言ったが、俺はまだ納得しない。

「お前は参加しないのかよ?」

「俺は餌取りやらなくていいと契約書に明記してありますが見ます?」

「見せろ!」

 見せられた契約書は冒険者ギルドで使われる形式だ。これなら俺も見慣れている。依頼内容が簡潔だったため見間違えようも、解釈の入れようも無かった。依頼内容は唯一つヌマヌッシーを釣り上げる事。付帯事項としてその際に使われる餌である生きたヌマワニの提供は、協力者側の義務だとわざわざ明記されている。つまり奴の料理や道のゴミ掃除は、すべて仕事ではなく善意からのボランティアらしい。一方俺達の側の契約書を見直すと、目的を達成するために可能な限り全力を尽くすこととなっている。曖昧な表現ではあるが、雑多な冒険者の仕事上契約書にはよくある契約内容でもある。たまにこれに足元すくわれることがあるが、よくある文言のためにいちいち断りを入れると、雇い主の顔に泥を塗ることになる。重要な事でもなければ断ることが出来ない。

「贅沢な仕事しやがって!」

「いやいや、金額を見てくださいよ必要経費は自前ですし、成功報酬も5万SDですよ? ハッキリ言って赤字です。渡世の仁義上仕方なく受けた依頼ってことです」

 そういうことか、つまりコイツは失敗は拙いけど、それほどやる気も無いという心持でやっているわけか、俺の事情と似たようなもんじゃねえか、呪われてるのかこの仕事は!

「あんな大きなワニじゃなくてもいいだろ、もっと小さいのを選んでもかまわないだろうが!」

「小さいワニでもかまいませんが、小さなワニは奥地にいますよ、あの湿原にコカヌーで乗り入れるんですか? ワニがごろごろいるのに? 水面に浮いてるワニに気が付かずコカヌーで接近したら、転覆させられてワニの餌になりますけど」

 そう言われると反論できない。

「とにかく湿原の周辺部を探してみても無駄にはなるまい。命がけの作業の危険は減らせる限り減らしたい」

 兄貴が取り成してくれた。まったく持ってその通りだ。そもそも老人一人でできる作業ではないはずだが、今までどうやっていたのかはなはだ疑問だ。

 結局小一時間も歩き回ったが、どれも似たような大きさのワニばかり、小さいのがいても水の中にいて手を出せない。獲物の移動を考えると奴の築いた拠点に近いほど良く、仕方なく拠点に戻ってみると、枝を払った丸太に車輪を取り付けただけの台車が出来上がっていた。

「仕方が無い、適当に近くのワニを捕まえるしかないな」

 結局兄貴も奴と同じ結論を出すのであった。そうして新たに台車を引いてワニを探し、魔法で麻痺させている間に縛り上げる。700キロの巨体は持ち上げられないので、台車を横倒しにして縛り付けてから引き起こすということになる。その作業の間でも筋力強化の補助魔法を必要としたのに、こいつを引いて街道から外れることを考えると絶望的だ。そうして何とか日暮れ前に拠点に戻ってくると、先ほどとは別の意味で信じられないものを見た。


「フィーッシュ!」


 その能天気な掛け声とともに釣り上げられたのはヌマワニだ。それも俺達が捕獲してきたものと大して変わらないワニだった。そのワニが宙を浮いていた、それほど太くもない竿で、紐と言って良いような釣り糸でワニの一本釣りをしていた。ありえない光景だった。道具がもっても、通常の人間の筋力では不可能だ。それで初めて、奴が恐ろしいほどの魔法の使い手ではないかと気が付いた。ワニの一本釣りをするには最低でも筋力強化魔法、おそらく自重増加の魔法も使っているだろう。それだけ魔法が使えるだけで、騎士として採り立てられてもおかしくはない、ワニを振り回すほどとなるとかなり強力な魔法でなければならないからだ。700キロを振り回すほどの自重を支点に、それを振り回すほどの筋力でもって重い武器を振り回せば、もはや小型破城鎚だ。例え剣の腕が立たなくても騎士団で重宝されるだろう。


「なんて才能の無駄遣いだ!」


 奴は呆れる俺達を尻目に素早くひっくり返ったワニの首筋を切り裂いた。そしてワニを木に吊り下げ血抜きを開始しワニの解体を始める。今日の晩飯はワニのようだ。ワビ湖周辺ではワニは良く食べられるが割りと高級品に入る部類だ。魚というよりは動物肉に感じが近く、家畜に比べると希少だからだ。そもそも肉というのが高級品だ。今回のクソ仕事でいい事といったら、本当に食事くらいだ。とはいえ、言いたいことがある。

「オイ、ワニが釣れるなら、餌用のワニも釣ってくれればよかっただろう」

 俺のツッコミに奴は悪びれもせず答える。

「皆さんと同じような仕事をしなければ不公平感があるな、と思って釣ったのに酷い! よよよよよ」

 奴は殴られた女のように大地に身を投げ出し。わざとらしく泣きまねをする。

「ふざけんな」

「お兄様、せっかく美味しい料理をご用意していただけるのに、文句を言うものではありませんよ」

 妹がとりなすが釈然としない。

「それに俺はなるべく手を出すなといわれてますので」

 演技を止めた奴が平然とそう返してくる。

「なんだそりゃ? 仕事に協力するなってか?」

「雇い主が違うんだから、当然でしょう? 俺はあの商人ではなく伝統漁法を知る爺の依頼で動いてるんです。目的も違いますよ」

「その目的ってのはなんだ? 仕事の邪魔することか?」

 凄んでみるが、奴は相変わらず、下手に出つつも飄々とした態度だ。

「いえいえ、爺の意向としては、漁場を荒らさない、乱獲しないの2つの条件を満たすなら、好きにしていいということです。伝統漁法の後継者はいませんので」

「監視役ということか」

「まあ、それだけじゃ、あの商人に断られるので、少しは楽になるよう釣り上げますよと」

 気に入らねえ、気に入らねえが、楽になるのは確かだ。

「邪魔だけはするなよ」

「ええ、お約束しますよ。ところで本日の晩飯はどうしましょう? ステーキにします? 魚醤を塗ったスペアリブもいけますよ」

 晩飯はワニ尽くしで、相変わらず味が良かった。悔しいので顔には出さないことにする。





 冒険2日目の晩飯はワニ料理! 俺は水辺の生き物なら魚に限らず美味く調理できるつもりである。さすがに調味料は粉末状のものがメインで、少しの液状調味料があるくらいで、油を大量に使う揚げ物系ができないのが痛い。ワニ肉であれば唐揚げも十分美味しいのだが、今回は諦めるしかない。

「イペンサさん、美味しいです! 魚醤って癖が強くて苦手だったんですけど、こんなに美味しくなるなんて思いませんでした!」

 魚醤をメインに砂糖等等を混ぜた。秘伝のたれを塗ったスペアリブにリオカさんが舌鼓を打つ。昨晩も思ったが、リオカさんは食いしん坊キャラではないかと思う。まあそれで何か害があるわけではなく、美味しいものは美味しいと言ってくれる大変ありがたい存在である。

 さすがに700キロのワニは4人で食べるには量が多く、ワニの香草焼きステーキ、ワニのスペアリブ、ワニ鍋、終いにはワニの刺身まで作ったが食べ切れるわけがなかった。ちなみに肉の生食はゲテモノ食いに分類されてしまう。リオカさんとイアンは食べたがイヴァーツは食べなかった。ちゃんと処理しているので大丈夫なのだがなぁ。

 とにかく大量の肉が余るので、翌日の調理分をわけて、燻製器に入る限界まで燻製にして、いくらか塩漬けにしてくるむ。それでも余った分は犬の餌になった。比較的高級品のワニ肉が犬の餌になったため冒険者の3人は呆れるような、もったいないような顔をしていた。しかし、我が愛犬ロタは貴重な魔物肉なども食べているせいか、平均的なコカヌ犬の1.5倍の荷物を運ぶことができる。まだまだ成長期であるため、これ以上大きくなるとコカヌーに載らなくなるのではないかと心配だ。ちなみに今回のワニ肉のお味はロタにとっては、「まあまあでんな」というところだろう、食後に欠伸をしながら口元をなめている姿から、なんとなく伝わってくるのである。

 冒険3日目の朝ワニ尽くしの朝食を終えると、そこから北上を開始する。先刻まで街道の脇で野営していたのだが、ワニの生息する沼を右手に眺めながら、踏み固められた小道に入っていく。入り口は巧妙に隠してあるが、爺が何度も行き来するので道が出来上がっている。そのため台車を引いていくのも不可能ではない。俺とリオカさんで道を改めて切り開き、イアンとイヴァーツの二人が台車を引くのである。途中でワニに沼の水をぶっ掛けながらの移動はそこそこ面倒である。ちなみにこの間も魔物に襲われることはない、街道から一日くらいの場所に危険な魔物はうろつかない。危険な魔物がうろつく範囲に街道なんか作らないので当たり前である。そうして何とか日暮れ前に爺の立てた山小屋に到着する。素材の下処理などするための作業小屋である。このあたり一帯は水没するので木の上に作ってある。さすがに全員入るのは不可能で、精々二人雑魚寝すれば窮屈なくらいである。


「つ、疲れた。これを一人でやる爺さんはドンだけの怪物だよ」

 道中車輪が木の根に引っかかって通せないようなときは、筋力強化魔法で押し込んだりしているのでその疲れもひとしおだろう。イアンのぼやきにツッコミを入れる。

「もしかしたら、爺は餌使わないかもよ。これは一般人にできる方法であって、伝統漁法ではないだろうし」

「な! 爺さん一人でできるような簡単な方法があるのかよ? だったらそれをやればいいじゃねえか」

「何年も修行します?」

 その答えに、イアンは舌打ちするだけで答えない。いそいそと野営の準備に入った。本日の夕食は初日に作った魚の燻製に、塩漬けと燻製にしたワニである。帰りもワニ肉になるだろう。と、そういえば聞き忘れていた。

「皆さん帰りはどうなさるのですか? 素材採っても下処理もできませんよね?」

 夕食の支度をしながらの俺の質問に、イヴァーツがハンモックを木に結びつけながら答える。

「転移石で帰ることになっている。指摘どおり我々には処理の仕方が分からないからな。薬になるという重要な素材を持ってリオカが一足先に帰る。残る我々でコカヌーに満載した素材を持ち帰ることになるだろう」

「何かものすごく原価のかかる薬になりそうですね」

「一度漁の仕方を学んでしまえば、簡略化もできるし事前に準備もできるだろう」

「なるほど、なるほど」

 でもなあ、元を取るのにものすごく金がかかるだろう。乱獲の恐れがどんどん高まるな。一時の利益のために後先考えないタイプの商人連中だし。

「それで明日の予定ですが、夜明けとともに行動するとして、昼前には目的地に到着するでしょう。そうして俺が釣り上げたあとはお願いしますよ。ちなみに沼にすむ魔物たちは、ヌマガニやヌマイソギンチャック等の水生生物です。これらの対処は分かってますね?」

「ああ、ヌマヌッシーを除けば一般的な生物だ。この地域特有の種類や亜種はいないと聞いている。間違いないか?」

「ええ、その点は間違いありませんが、他の地域の同種より硬かったり、強かったり、強力なのが多いです」

「それは明日、ヌマガニを引き摺り出して戦って試すしかないだろうな」


 そうして話している間にできた夕食を突付つついている間に、リオカさんが話しかけてきた。

「イペンサさんの料理ってお抱え料理人並ですけど、普段何してるんですか?」

 俺に興味をもってくれるとは、脈ありかな? ふっふっふ

「基本的に放浪生活です。旬の魚や魔物を追いかけて、未知の魚が現れたと聞けば釣りに行き、失われた魚介類料理のレシピがあると聞けば探しに行く感じですかね」

「それって、生活費はどうなっているんですか?」

 おや? なんか引いてないかな? リオカさんの口調が固いよ?

「旅の途中に昨日のワニなんかみたいに、俺が旅すると食材が増えていくので、それを売り歩く感じですねぇ」

「ああ、だから流れ者とおっしゃっていたんですね。でも、これだけの腕があればお抱え料理人として十分やっていけると思いますけど、定住はなさらないんですか?」

「今のところ不自由したことありませんし、もうしばらくこのままで居たいなぁっと」

「ご無理だけはなさらないでくださいね。根無し草の流れ者が体を壊したりすると、あっという間に死んでしまうことになったりするものですから」

 おやおや、だんだんリオカさんの視線が冷めていくよ? もう今では息子の先行きを心配するお母さんのようだ。

「ああ、それはご心配なく、各地に拠点があり協力者がいましてね。魚醤を作る拠点では、その協力者が醸造がうまく行っているか管理してたりするんですよ。行商人みたいな感じでそういった拠点を1年かけて巡っているのです」

「ああ、それなら良かった。でも、お体には気をつけてくださいね?」

 拠点があるという一言に、リオカさんはホッとした様だった。本当に優しいなぁ。

「今回の依頼も縁故によるものと聞きましたが、依頼人のお爺さんも協力者のお一人ですか」

「いえ、爺とは若干対立している感じでしょうか、意見の食い違いがありましてね。今までこの辺の町には立ち入り許可が出なかったんですが、漁師ギルド経由で依頼が入ったしだいです。今後は立ち入り自由にはなるかな? まあ、食材さえあれば人里に近寄れなくてもかまいませんけど、ははは」

「本当にお体にはお気をつけくださいね」

 あ、また、お母さんみたいな目になってしまった。そうして夕食が終わると不寝番を立てて寝ることになる。リオカさんは山小屋で寝ることになり、他は今までと変わらずハンモックで夜を過ごすのだった。

 冒険4日目の早朝、昨晩のうちに相談して朝食前にヌマガニ一匹退治することになった。なぜ食事の前なのか? 当然ヌマガニを食べるためである。ワニばかりはいささか飽きてきたのだ。ロタもいい加減ワニ以外を食わせろと、餌にワニが出ると俺を悲しそうな目で見てから食べ始めるのだ。カニは腐りかけの死体なんかも普通に食べるので、塩漬け肉になったワニを塩を洗い落として餌とする。後は待つのみである。

「フィーッシュ!」

 俺の掛け声とともに、ヌマガニが釣りあがる。通常ヌマガニは足も入れて横幅1メートルくらいの大きさなのだが、このあたりのヌマガニは大きい。ヌマヌッシーの庇護を受け栄養面がよいらしく大きく育つのだ。そうして育った結果、横幅1.5メートル、本体である甲長が50センチ四方の大きなカニである。

「デカ!」

 本来の大きさの1.5倍の大きさにイアンが驚きの声を上げる。餌のワニ肉をハサミでつかんで釣り上げられたヌマガニが、餌を投げ捨て逃亡を始める。

「では、あとはお任せしますが、食べられるようにお願いします」

 釣り上げれば俺の仕事は終わりである。

「分かっている。任せておけ」

 イヴァーツが請け負ったが、武器で甲羅叩き割るつもりだな。足やハサミはともかく、本体の肉は食えないかも。イヴァーツが振り下ろした剣が、ハサミに弾かれる。

「なに! 予想以上に硬いぞ! 気をつけろ」

そこにリオカさんの声が響く

<アースバインド>

 地面から大地の気で出来た白い触手が伸びて、ヌマガニを絡めとる。そこにイアンのシールドバッシュが入り、盾でカニの頭を潰す。だが完全に潰れていなかったようだ。カニはさらに逃げようともがく、だがシールドバッシュで姿勢が仰向けに近くなったところへ、イヴァーツの剣がヌマガニの腹を切り上げる。それでも、まだ抵抗するカニに甲羅の上からイアンのとどめの一撃が振り下ろされた。一対のハサミをすり抜け片手剣にしては長い刃が頭部を真っ二つに切り裂く。ようやく沈黙したカニに一同警戒を緩めることなく観察する。そうしているうちにアースバインドの効果が切れヌマガニの体が崩れ落ちた。時間にして1分ほどの戦いに幕が下りた。

 戦闘を見る限り彼らはイヴァーツが攻撃型戦士、イアンが盾持ちの防御型戦士、リオカが攻撃と補助の魔法使いのようだ。治癒魔法は恐らく使えないだろう。人数が少ないための欠点であるが、家族で構成されているため結束は固い。回復が出来ない弱点もポーションで何とかするのだろう。

「はいはい、お疲れ様でした。それでは、本日の朝食は茹でガニです。楽しみにお待ちください」

 そうして俺が締めくくると、途端に空気が弛緩し始める。

「いってぇー、兄貴の警告で剣をしっかり握ってなかったら弾かれたかも」

イアンが剣を収めて右手の調子を測りだす。

「ヌマガニでこの程度となると、ヌマヌッシーの指揮の下に集団で攻められると厳しいな。事前準備はしっかりしておこう」

そう言ってイヴァーツは荷物をごそごそと漁り出した。そして、リオカさんはというと。

「カニステーキもお願いできますか?」

 肝が据わっていらっしゃる。俺に追加注文をしているのだった。



 ヌマガニは大きいので大変調理しやすい。足を広げると1メートルほどの小型のカニに比べると、このヌマガニは足を広げたとき2.5メートルほどになる。そのため、カニの身を穿り出す必要はなく、殻を割って肉を取り出してしまえばよい。むしろ大きすぎて鍋に入らないので、茹でるときは足をバキバキ折ってから放り込むことになる。ちなみに、ヌマガニも高級品の部類に入る、ワニと似たようなものである。採るのに軽く命がけになる生物は基本的にちょっとお高い。そんなカニ料理が並ぶとリオカさんの目がキラキラと光りだす。朝から美女の笑顔を眺めながらの食事はいいものですな。リオカさん達は生水を嫌うので、茹でガニは酒精を飛ばしたエールで煮ることになった。その茹でガニの隣にはカニステーキが並ぶ、これで冷たいエールが付けば文句なしなのだが、そうも行かない。今日が本番なのである。

 食事を楽しむ暇もなく準備して出発となった。ほとんどの荷物はこの小屋においていき、餌のワニを台車で引いてコカヌーは置いていく、貸し犬も運悪く魔物に食われても困るので、山小屋に匿って置く。ロタは相棒のため着いて来てもらうが、何の荷物も背負っておらず身軽そうに駆け回って、野兎などを自前で調達して食べている。今朝のカニは大きさがイマイチで、犬には十分な量が行き渡らなかったのである。ワニはまだ十分あったのだが、ロタはワニには飽きたそうだ。町に戻ったら野菜も食わせてやらねばな。

 そうして山小屋を出発して2時間もしないうちに目的地に着いた。

「この沼になりますが、そこそこの大きさはあるので他の生物もいるでしょうが、かまいませんか?」

「どうせ他の沼も似たようなもので、運搬が大変になるのだろう? それならここでかまわない」

「ご推察どおりです。では、ワニのパニク君の出番ですな」

 丸一日一緒にいる間になんとなく生け捕りにしたワニに命名してみた。短い付き合いだったなパニク君、来世では釣り餌以外の結末があることを祈ってるよ。そうして釣り糸(紐)の先に、鋼の棒の両端に糸が縛れるように輪がついた仕掛けを結ぶ。

「なんだそれ?」

 イアンが興味深そうに聞いてくる。好奇心はイヴァーツよりイアンのほうが強いらしい。

「サルカンです」

 次にその仕掛けにさらに釣り糸を縛り付けると特製の釣り針を結びつける。

「なんだその棒は?」

「釣り針です」

 そう言って釣り糸を強く引くと、瞬時にギミックが展開し外側にブレードの付いた逆棘が傘状に開く、釣り針はワニの肛門から刺し込み、ワニが食われた段階でギミックが発動しワニを内側から引き裂いて展開する。拷問具も真っ青な仕掛けとなっている。大きさも傘と同じくらいである。無骨な傘の骨組みと思ってもらえれば想像しやすい。

「エグい仕掛けだな」

 イアンは人間に仕掛けられたときのことを想像したのか、若干引いている。人間に仕掛けるとどうなるか? ワニのパニク君と同じ運命をたどることになりますとも。サルカンと針だけの単純な仕掛けが出来ると準備完了、パニク君に針という名の拷問具を刺し込むと若干暴れるが、未だ元気そうだ。


 準備が整った段階で言っておくことがある。

「さて、始める前に言っておきたいことがあります。もしあなた方がヌマヌッシーに負け、戦闘不能になった場合、または撤退した場合には、当然ながらヌマヌッシーの素材はあなた方のものではなくなります。もし俺に襲い掛かってきたりした場合は、仕留めなければならないかもしれません。そのときに素材の所有権を主張しても、当然ながら却下しますのでご了承ください」

「承知した。例え手傷を負わせたとしても、最終的に獲物を倒したものが所有権を得るのは、冒険者として当たり前のことだ。そのことで文句を言ったりする気はない。ただしこちらも言っておくが、横から手を出して横取りは許さないからな」

 イヴァーツが鋭い表情で確認するが、まったく問題はない。

「ええ、そのつもりはありませんし。そもそもヌマヌッシーは手傷なんてすぐに治ります。仕留めるか仕留めないか、そのどちらかしかありません。さて餌を投げ込むとすぐに釣れますけど準備は良いですか?」

「分かった少し時間をくれ」


 彼らが道具の確認をし、リオカさんが筋力強化などの補助魔法を掛けていく、特徴的なのが設置型魔法のアースパイクという呪文である。これは事前に唱えておく呪文で無数の槍が地面から空に向かって突き立つ、大型魔物を相手にするときに使う呪文だ。林立した大地の槍は硬く盾代わりにもなる、人間は通れるが大きな魔物が通れない程度の間隔で、設置することで大型魔物が立ち入れない空間を作るのだ。ただしこの中で戦うのは慣れが必要で、慣れない者がこの中で戦うと、振るった剣が槍に当たって攻撃が失敗したりする。ただし慣れた人には強力な味方となる。魔法としては下から槍で突き上げるといった攻撃には使えない。形成途中の槍は脆く人間すら殺せないのである。それはまた別の魔法である。玄人向けの魔法を使う辺り自信があるのだなぁ、っと感心している間に準備が整ったらしい。


「では、いきますよ~」

 パニク君を丸太ごと沼に放り込んで縄を切る。俺達とは逆の方向に逃げるかのように泳ぎ進んでいく、そうして10秒も経つとバシャっと水音が響いて、ワニが水面から消えた。水中に引きずり込まれて格闘しているのが糸を通して伝わる。そうして待つこと30秒、パニク君は頭から食われ始めたようだ。そうして頭から食われること1分、とうとう尻尾までヌマヌッシーの口の中に入ったことが分かる。そしてそのタイミングで仕掛けを展開させた。


「フィーッシュ!」


 アワセのタイミングと同時に、沼の水が揺れる。このタイミングを計るのが難しいのである。待ちすぎると歯で糸が噛み切られる。だが浅いと針が引っかからない。その絶妙な加減が難しい。ヌマヌッシーは食いつきはするが、餌をとられることの多い獲物である。今回はうまく行ったようでしっかりした手ごたえを感じる。そうして、リールで糸を巻き上げて引き寄せると、ヌマヌッシーが暴れ始めた。ヌマヌッシーの必殺技は噛み付きローリングである。これは対象に大きく噛み付いた後に、その巨体ごと横転することで相手の肉体を噛み裂くという恐ろしい技である。大抵の生物は丸呑みにされるので出番は少ないが、これをくらうほどの魔物は、肉体のどこかをこそぎ取られること間違いなしである。これが釣りの場合どうなるかというと糸が捻じ切られることになるのだが、そこでサルカンの出番である。サルカンを糸と糸の間に仕掛けると、いくら捻ろうがサルカンの中で金具が回転するだけで、糸に対して捩れは加わらない。そのため純粋に引く力がなければ糸が切れないのである。

 こうしてヌマヌッシーとの引き合いが始まる。しなる竿、高回転でうなるサルカン。自重増加魔法がなければとっくに沼に引きずり込まれ、筋力増加魔法がなければ竿を取られているだろう。それでもあまりの引きの強さに足が地面にめり込み始める。それに対抗してこちらは引きに強弱をつけながら水面から離れていく、そうして徐々に相手が疲れ始めた時点で突如として、水面みなもを破ってヌマヌッシーが陸上に飛び出した。この間3分ほどの激闘である。

 ヌマヌッシーが着地して俺が敵だと認識した瞬間に、糸を切って撤退を開始する。その間にヌマヌッシーがギーギーと鳴き声を上げる、えらをこすり合わせて音を出すのだ。その声にしたがって沼の中から、次々と魔物たちが陸上に上陸を開始する。

「後はお任せします。よろしく!」

「よし来た。任せておけ!」

 ようやく戦闘になったイアンが嬉々として請け負った。
 続きを読みたい方が肯定的な意見をくれると作者が調子に乗って、次回作が早く書きあがります

 ただし作品として完成した上での投稿が基本です。プロットごと修正することがあるので、短編として完結しないと投稿しませんので、書き溜め形の投稿形式だと、ご理解いただけますようよろしくお願いいたします。

投稿日:2013/07/24
第一回訂正:2013/07/25
 訂正事項がやたらたくさんあります。テキストエディタ形式からWeb小説形式にすることで、落ち着いて読み返せるようになりました。後1,2回の訂正はあると思います。

第二回訂正:2013/07/26
 何度も読み込んだ冒頭部の誤字脱字が酷かった。訂正があるとしたら後1回で済ませたいところです。

第三回訂正:2013/08/18
 細かな誤字脱字を修正
第四回訂正:2013/08/22
 句読点を修正
第五回訂正:2013/08/23
 誤字脱字を修正
第五回訂正:2013/08/25
 シーンのつながりを補足修正
+注意+
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