2014/05/08(木)更新
久々の韓国モノですが、あまのじゃくなのでK-POPはやらず韓国のクラシックロック、アシッド・フォーク、サイケ、レアグルーヴ、ヘヴィメタルなどなどを紹介します!
韓国といえばダンサブルなK-POP。この国の音楽シーンというと、多くの人がそんな印象を持っているのではないかと思います。しかし、当然ながら様々なジャンルの音楽が生まれていますし、とくにロックに関しては徐々に海外での評価が高まってきています。
そんなちょっと気になる韓国ロックを知るために最適な書籍が出版されました。それが、『大韓ロック探訪記』(DU BOOKS)。著者の長谷川陽平氏は、日本でも人気を集めているロック・バンド「チャン・ギハと顔たち」のプロデューサー兼ギタリストであり、なんと20年も前から韓国のロック・シーンに入り込んでいた人物。また、有数のレア盤コレクターでもあります。そのため、本書には貴重なレコード・ジャケットも満載で、実体験したからこそのエピソードとともに、ひとりの日本人が俯瞰する大韓ロックの魅力がたっぷりと詰め込まれています。
ここでは、本書に掲載されたアーティストを中心に、70年代から80年代にかけての重要アーティストをピックアップしてみました。サイケなロックからアシッド・フォーク、ソウルやヘヴィ・メタル、そしてあのチョー・ヨンピルまで様々ですが、韓国語の響きとアジア的なメロディなどを聴いていると、日本の70年代ロックや歌謡曲にも通じる親しみやすさを感じられることでしょう。欧米からの音楽的影響だけでなく、政治的な抑圧や徴兵制度といった社会状況までを背景に感じられる大韓ロックの魅力を、ぜひお楽しみください。
なお、原則としてここでのアーティスト名は英語表記(文中ではカタカナ)、楽曲名はハングルに統一してあります。
「인트로덕션 뮤직」
60年代の韓国にも、いわゆるグループ・サウンズのようなバンドがたくさんあったようですが、そのなかでもカルトな人気を誇っているのがHE6。レコード・コレクターにとっては、韓国ガレージ・サウンドのレア盤ということでも知られている『Go Go Sound '71 第1集』に収められたこの曲を聴けばわかる通り、酩酊感に満ちあふれたサイケデリック・サウンドが特徴。ファズを効かせたギターやチープなオルガンが、超絶インプロヴィゼーションを繰り広げていきます。
「아름다운 강산」
“大韓ロックの父”といわれる存在が、シン・ジュンヒョン。50年代から活動を始めますが、とくに60年代のGS期からサイケやアシッド・フォーク全盛の70年代中盤までに、重要な作品を多数生み出しました。なかでも有名なのが、「美しき山河」と訳されるタイトルのこの曲。独裁政権で知られる朴正煕大統領からは大統領讃歌を書けといわれていたのに対し、朝鮮半島の美しさを描いて反発しました。その後1975年には大麻所持を含む容疑で逮捕され、一時は音楽シーンから姿を消すことになります。
「당신의 꿈」
キム・ジョンミは、ジェファーソン・エアプレインに影響を受けたというシンガー。名盤といわれる4作目の『Now』(1973年)に収録されたこの曲は、シン・ジュンヒョンとザ・メンが全面的にサポート。どこかジャニス・ジョプリンを思わせるビブラートを効果的に使ったブルージーな歌声と、時折発する「ヘイ!」というかけ声が印象的。スカスカのアレンジながら、ジャックスのような狂気を感じさせるバンドの演奏も聴きどころ。なお、このアルバムには「美しき山河」のカヴァーも収録。
「나 그대에게 모두 드리리」
口ひげがトレードマークのイ・ジャンヒも、キム・ジョンミと同様に韓国のサイケデリック・ロックやアシッド・フォークの文脈で捉えてもいいシンガー・ソングライターです。1974年に発表されたこの曲は、いまだカヴァーされることもある名曲。美しいメロディで展開されるスロー・ナンバーですが、トローンとしたサイケデリックかつダウナーな感覚が癖になります。なお、この映像は同年に公開された映画『星の故郷(The Stars)』のワンシーンから。
「사랑의 무지개」
『大韓ロック探訪記』のなかでも、著者の長谷川陽平と対談している重要人物のひとりが、デヴィルスのキム・ミョンギル。この曲は、本書にもジャケットが掲載されている3作目のアルバム『너만 알고있어 / 사랑의 무지개』(1977年)から。60年代のアトランティック・ソウルを彷彿とさせるリズム・セクションに乗せて、いかにもアジア歌謡的なメロディがコーラスで歌われます。テンプターズとクール・ファイブが合体したような、クロスオーヴァーな名曲。
「돌아와요 부산항에」
韓国の歌手といえば、誰もが知ってるチョー・ヨンピル。しかし、日本では演歌歌手としてのイメージが強すぎて、本来の彼のイメージが伝わっていないようです。この曲はかの有名な「釜山港へ帰れ」の1976年ヴァージョン(オリジナルは1972年)。メロディこそあのまんまですが、グルーヴィーなリズムや間奏のオルガンのソロなど、独特のサイケデリックな雰囲気が最高です。2013年発表のアルバム『Hello』でもモダンなポップ・ロックを披露し、音楽ファンの間で話題になりました。
「아마 늦은 여름이었을꺼야」
70年代後半に登場し、トップ・バンドに躍り出たのがキム三兄弟によるサヌリム。当初はサイケデリックなサウンドでしたが、徐々にフォークやハードロック、パンクといった時代に寄り添ったサウンドに変遷し、2008年まで活動しました。この曲は彼らのファースト・アルバムに収録されていたニュー・ロック的なナンバー。少しダークな雰囲気で始まりながら、いきなり爽やかなピアノのリフが挿入されたり、ファズの効いたギター・ソロが展開されるなど、6分強を飽きさせない構成力も見事。
「세상만사」
1979年にデビューしたソンゴルメも、韓国ロックの歴史では非常に重要なバンドです。デビュー当初はまだ70年代を引きずったサイケデリック・ブルース的な演奏も行っていたようですが、80年代に入ると様々な要素をブレンドして洗練された歌謡ロックを展開しています。この曲もどこか世良公則&ツイストやもんた&ブラザーズを思わせる、ディスコ風のビートを取り入れたポップなロックンロール。もっと硬派でアクの強い楽曲もありますが、彼らが持つメジャー感は他にはない味わいです。
「일곱 색깔 무지개」
韓国随一の天才ギタリストといわれていたのが、リトル・ビッグ・マンというバンドで活動していたキム・スチョル。このバンドは1978年に結成され、学生たちを中心に大きな支持を集めました。この曲はアイデンティティを確立したといわれる初期の名作『작은거인 2집』(1981年)に収められた代表曲。疾走感に満ちたファンキーなリズム・セクションとギターのカッティング、そしてキャッチーなメロディ・ラインが印象に残るライヴ・ヴァージョンです。
「새가되어가리」
シン・ジュンヒョンの長男であるシン・デチョルがリーダーとなって結成されたのがシナウィ。1986年にデビューし、韓国におけるハードロックやヘヴィメタル・ブームを巻き起こす存在となりました。この曲はセカンド・アルバム『Down And Up』(1987年)収録曲のライヴ・ヴァージョン。どこかラウドネスや44マグナムあたりのジャパメタにも通じるアジア的ポップ感が独特ですね。90年代以降も活動を続け、後続する多くのロック・バンドに大きな影響を与え続けています。
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