機会があって、昨夜、例の『美味しんぼ』604話を読むことができました。一度通読しただけでいま手許にはないのですが、記憶のままになぞっておこうと思います。
まず、漫画の中では福島第一の現場がいつまた壊滅的になるかわからないほど危険な状況だ、と説明します。 汚染水タンクしかり、4号機の燃料プールしかり、メルトスルーした原子炉しかり、と言った具合です。
ここで登場人物に、「こんなひどい事故を起こしたのに自民党政権はまた再稼働すると言ってるじゃないか」という全く辻褄の合わないセリフを言わせています。
再稼働するのは事故を起こしてない発電所であり、事故を受けた安全性の見直しを済ませており、また、発電しなくても放射能漏れのおそれは消えない、という基本的な事実を踏まえていればこのセリフはおかしいとわかるのですが、読者を見くびっているのでしょう。
山岡が福島第一の現場を視察することになりますが、そこでは写真が自由に取れないなどの制約条件への不満が述べられます。視察後の会話でも、東電から渡されたカメラでたくさん撮影したのに写真は一度押収された上でたったの30枚しか持ち帰れなかった、と不満を噴出させています。
視察中も、現場の人をいたわったり励ましたり感心したりするシーンはひとつもなし。ただ恐ろしい物を眺めに来たという具合にしか感じられません。たしか、所長に会っても手土産一つなしでしたね。こんな態度でまともな取材ができるもんかと素人ながら感じました。
そして、山岡が「福島に行ってからひどい疲労に襲われる、普通の疲労感ではないんだ」と言い出す。そしてあの鼻血シーンです。
病院の診察では「鼻血と被曝を関連づける医学的知見はない」と医者に言われて「関連づけたら大変だよな」と山岡がひとりごちる。すでにこの時点で山岡は医師の所見がキレイ事で固めた嘘だと言いたい様子ですね。
その後、山岡は海原とともに井戸川元町長と科学者(放射線か医学の専門家という肩書がついてたと思う、名前失念したのでA氏とする) の二人に会う。山岡と海原は福島に行ってから鼻血が出だしたと言い、それを聞いたA氏は「やはり…」という。「やはり?」と聞き返す山岡。
これってつまり、A氏は専門家として「福島に行けば鼻血が出るのは想定できた」と言ってるんですよね。病院で診察する医師は鼻血と被曝の関連を公式に認めてはくれなかったけど、井戸川氏を交えてプライベートな席で出会った専門家はその関連を認めてる、という意味になります。
そうそう、その井戸川氏が登場する前に、彼が町長の座を降ろされたという説明がなされます。そしてそれには何らかの陰謀があるようだ、とほのめかしています。
ツイッターでも有名な「福島ではみんな鼻血を出してます。言わないだけです」というあの井戸川氏の発言と、「町長を降ろされたのには相当な事情がありそうだ」という紹介の仕方が、間を置かずにリンクしているんです。
これを読めば相当カンの悪い読者でも「福島で被曝すると鼻血が出るのは真実だが、本当のことを言うと粛清されてしまうから誰も言えないんだ」という作者のメッセージが理解できるはずです。
そして、「医学的知見はない」と言ってる医師も、職業柄そう言わざるをえないだけで非公式に個人的意見を求められたら認めるかもしれないーー私にはそう読めました。
話はここで終わっているので次号がどうなるのだとか、いやまだ鼻血の原因が原発のせいだなんて言ってないとか、誰もが予断せずに優等生発言をしていますが、あの漫画を読んでいれば「作者は福島の被曝で健康被害があるなんて言ってない」だの「被曝で鼻血が出るとは結論づけてない」だの「あれはフィクションだから風評が起きるというのはおかしい」だの「鼻血が出たという個人的体験を書いたに過ぎない」だのというのはすごく不思議です。
「事故の周囲何十キロはいつまでたっても人が住めるレベルではない」とか「被曝で鼻血が出るかもしれないし何が起きるかわからない」と思ってる人は、美味しんぼを読んだら「漫画に書いてあるとおり、鼻血や倦怠感の描写は真実だから、風評被害などという人のほうが嘘つきだ」と言うはずです。
それなのに、私が目にするツイッター上の反原発有名人の多くが「美味しんぼが鼻血と被曝を関連付けているかのような誤読をしてはいけない」「別に福島全体について美味しんぼが差別を誘発することを書いてるわけではない」といった反応を見せています。
つまり、「美味しんぼは批判者が言うような乱暴な表現はしていない」という意味で美味しんぼを擁護してる人たちって、本当は読んでいない(つまり買ってあげていない)か、読んでも全く理解できない読解力だということです。
これを知ったら作者は泣くかもしれんなぁと思いつつも、反原発の人たちでさえついに「鼻血と被曝は関係ない」ことと「福島だけでなく東日本全体が放射能で駄目になるというのは間違ってた」ことは認めたのだということで、今回は納得することにしますw
記事
- 2014年05月08日 21:27
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