BORDERの作り方〜脚本・金城一紀WEBコメンタリー

第4回 爆破2014年5月1日

――第四話の肝といえる冒頭の爆破シーン。撮影時は金城さんも現場にいらしたそうですね。 波多野(貴文)監督には脚本の打ち合わせの段階でイメージは伝えていたので、あとは現場スタッフの方々にお任せで、自分は見学だけさせていただきました。実際に現場で見ると、本当にすごい迫力で、テレビドラマで出来るほぼ上限の爆破シーンになったんじゃないかと思います。役者の皆さんも、すごくびっくりしていました。これじゃあ、みんな殉職してしまうんじゃないかって(笑)。

(山田)今回の爆破シーンを作るにあたっては、いろいろな過去作品の断片みたいなものがイメージとしてあったんですけど、それを監督がオリジナルなものに昇華してくださいました。今、ドラマで爆破を撮るなら、こういうものじゃないかというシーン構築をかなり緻密にやってくださった。ありがちなスロー映像を使わなかったのもその現れで、一瞬で爆破を表現したリアルタイムの映像だからこそ、生々しい臨場感が生まれたんじゃないかと思います。
――単にリアルな爆破という以上に、意味のあるシーンになっていました。
監督をはじめスタッフの皆さんが頑張ってくださったおかげです。あの爆破シーンが成立しないと、比嘉の負傷に対する石川と立花の怒りも成立しないので、流れを作る上でも非常に重要なシーンでしたから。シリーズ全体の構成としては、前回の第三話までを「序破急(物語構成の三区分)」の「序」とするなら、この第四話からは「破」のパートになる。序破急の破は爆破の破でもありますから、そのオープニングが“爆破シーン”というのは、象徴でもあるんです。 ――あの凄まじい爆発の中、比嘉はなぜ生き残ることができたのか。 比嘉は爆発の瞬間、みんなのために、とっさに爆発を押さえようと死体を元に押し戻したんです。結果として、それが功を奏した。みんなを助けようとした献身の心が、彼女自身の命もギリギリで繋ぎ止めたんです。もうひとつ理由をあげるとすれば、石川の叫び声と目の前の状況を考え合わせて導き出した、瞬間的な判断力。その比嘉ならではの機転も彼女が助かった理由のひとつだと思います。 ――あのシーンからは、これまであまり垣間見ることができなかった比嘉の人間性もにじみ出ていました。 普段はつっけんどんとしている比嘉ですが、何だかんだいって仲間意識を持っているし、班の連中を好きになってきてもいる。石川たちも、比嘉のその思いを感じたから、絶対に犯人を捕まえるんだという気持ちになったんだと思います。 ――顔に重傷を負った比嘉の特殊メイクも衝撃的でした。 (山田)メイクチームも本当に素晴らしい仕事をしてくれました。いかにも…という作りものではなく、リアリティーをもったメイクをしてくれた。メイク担当の酒井(啓介)さんは、普通のメイクもやってくださっているんですけど、今回のような特殊メイクもできてしまう、すごい方なんです。 ――第四話では、爆破シーンのほか、石川のアクションも見どころに。 (山田)石川の立ち回りは今回、容疑者の木山と真犯人の八巻を取り押さえる2シーンあるんですけど、どちらも殺陣は金城さんに考案してもらい、実際に現場で動きをつけてもらいました。金城さんは日本で唯一…というか、もしかしたら世界でたった一人の“殺陣が付けられる作家”なんです(笑)。 ――金城さん自身、武術の心得が? ずっとカリ・シラット(ナイフなどの武器のほか、素手による打撃や関節技なども取り入れたフィリピン武術とインドネシア武術を融合した実践的な格闘技)を習っています。興味のある方は、マット・デイモンが『ボーン~』シリーズの劇中で駆使していますので、ご覧になってみてください。僕は元々アクション映画がやりたくて映像業界にかかわるようになったので、昔から古今東西のアクションシーンを研究してるんです。シーンに合ったアクションをつけるのもすごく好きで、今回はそれを小栗くんに実践してもらいました。いざやってもらうと、さすがは一流の役者さん。勘が良くて、すぐに体得してくれました。今後、第七話でまた石川のアクションが出てくるんですが、これまでのドラマではなかったような殺陣になると思うので、ぜひご期待ください! ――ストーリーについては今回再び、頭部に残った弾丸を摘出するか否かのくだりが出てきました。現時点で石川は、そのことをどう思っているんでしょう。
第一話で比嘉が推論を口にしていますが、石川は弾丸の影響で特殊な能力が発現し、そのおかげで死者の無念を晴らすことが出来ているのではと思っている。とはいえ、今は頭の中に時限爆弾を抱えているような状況ですから、当然死への恐怖もある。そのせめぎ合いの中にいるんじゃないかと思います。先ほども触れたように、この話は序破急の破にあたる回で、中盤戦の始まりですから、この問題は絶対にここで再び描いておきたかったんです。 ――いっぽう、サイくん&ガーくんは相変わらずのマイペース。今回はのんきに日焼けなんかして、ますます2人のキャラが掴めなくなってきたのですが。
一言で言えば、「型にハマりたくない」ってことですね。一般的なハッカーって、ジメジメした暗い場所で青白い顔してパソコンを叩いている…みたいなイメージがあるんじゃないですか。彼らは、それが嫌なんです。常に予想を裏切っていたい。だからわざと外で将棋していたり、意味なく日焼けをしていたりする。それは彼らなりの遊び心なんですけど、もしかしたら石川が来ると分かっている時だけわざとやってる…なんてこともあるかもしれないですね(笑)。 ――ガーくんの過去も一部明らかになりました。 ガーくんは思春期に、頭が良過ぎていろいろなことが見え過ぎてしまった。世の中の汚さとか人間の愚かさとか。それを壊してしまいたくなって爆弾作りに没頭していたんですが、裏サイト巡回中の覆面警察官に見つかって補導された。ただ、そのことで暗い衝動にブレーキがかかったし、サイくんと出会うこともできたわけですから、そういう意味ではラッキーだったのかもしれないですね。 ――ところで、あのシーンには、謎めいたハンドルネームも出てきました。あれにはどんな意味が? 「鳩のジェームズ」というハンドルネームは、爆弾処理がメインストーリーのある映画から取っています。色々と推理してみてください。ノーヒントでこの映画が思いついたという人がいたら、すごい映画マニアか、爆弾マニアですね(笑)。ちなみに、ガーくんの「AG180」というのは、“アート・ガーファンクル”のイニシャルA・Gと、“ガーくんのIQは180ある”ってところからきています(笑)。 ――壮絶なストーリーから一転。ラストシーンは、ほのぼのとした一幕に。 あのシーンを最後にもってきたのは、これからどんどんしんどくなっていく石川を、少しだけ安らかに眠らせてあげたかったからなんです。特にこの第四話は、比嘉も助かったし、犯人も捕まえることが出来て、石川、立花、比嘉という三人の心が通じた瞬間でもある。だからこそ、ここを最後のサンクチュアリ(神聖な場所)にしてあげたかったんです。裏を返すと、中盤の初めに“最後の憩いの場”があるということは、後半がいかに石川にとって苦しいものになっていくかということ。今後の石川に襲い掛かる苦悩と葛藤を、ぜひともご覧になっていただきたいですね。

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