※第2回に続き、今回も山田兼司Pがちょっぴり参戦。金城さんと共に作品の裏側を案内してくれます!
――第三話で初登場した便利屋スズキ。そもそも、あのキャラクターはどうやって生まれてきたんでしょう。
元々は、興信所で探偵のような仕事をしていたんですけど、警察からも盗聴などの非合法な依頼を受けるようになって、ニーズに応じて警察御用達の便利屋になったという設定です。刑事という公職にある人間が、こういう裏社会の人脈を使って、証拠固めをしたり裏付けを取ったりするという矛盾が面白いんじゃないかと思ったのが発想のきっかけです。
――スズキ自身は、どんなモチベーションで仕事を?
この仕事が好きで、趣味的にやっているところがあるんだと思います。これまで様々な仕事を転々としてきた彼が、自分の能力を最大限に生かせる“便利屋”という天職を見つけた。それがたまたま裏世界の仕事だっただけのこと。悪いことをしているとも思っていないので、警察のほか、暴力団など犯罪組織の人間にも手を貸し、場合によっては、証拠の偽造まで請け負っている。もちろん、お金のためでもありますが、スリルを求めているというのも大きいでしょうね。
――石川の依頼を受けた理由は?
赤井やサイくん&ガーくんと同じく、石川に特別な“聖性”を感じたからじゃないでしょうか。それはきっと裏稼業にどっぷり浸かってしまったことで失ったものなので、石川と接することで自分も浄化されるんじゃないかと感じた。ずっと闇の世界にいる人間なので、石川が持つちょっとした光もまぶしく見えたんだと思います。いっぽう、石川にとってスズキは、絶対にかかわり合いにならないだろうと思っていたダークサイドの人間。しかし、正義を実践するために利用せざるを得なくなってしまったという葛藤は、やはりあるでしょうね。
――物語中盤、関係者の戸籍を調べるためにサイくん&ガーくんの事務所を訪れた石川。そこでガーくんが口にした「本物のヒーローは誰の命も奪わない」というセリフが印象的。
銃弾が頭に残ったままの石川は、自分がいつ死ぬか分からないという状況にあって、人の命を奪うという行為は、そこにどんな正義があっても許せないという思いが強い。その思いを、図らずもガーくんが裏付けてくれたというか、ある意味補強してくれた。それが、あの時に石川がふと見せた小さな微笑みに現れています。作者としては、ここで一度、本当の正義は何かという問題を提示しておきたかった。そのいっぽう、このセリフはクライマックスに向けた伏線にもなっていて、石川の微笑みにも深い意味がある。あのかすかな笑顔が、この先どんな意味を持っていくのか、想像しながらご覧いただけたらと思います。
――葛藤の中にある石川にとって、比嘉の存在も次第に大きなものに。
石川は比嘉に、「いろいろなものが見え過ぎて複雑になった」と心境を吐露しますが、それは死者が見えるようになって、正義と悪もまた見え過ぎるようになってしまったということ。そんな本音をぶちまけられるのは、同僚であり、客観的に物事を見られる科学者であり、ほのかな好意を持つ異性でもある比嘉だけ。今後、石川にとって比嘉は、ともすればダークサイドに落ちそうになる自分を、救ってくれる存在になっていくのかもしれません。
――いっぽう、「警察官と違う匂いがする人種だからこそ深くかかわる」と言っていた赤井。その本意は?
赤井は、これまで接してきた多くの警官とは違う匂いを石川に感じていて、彼がどんどん聖性を帯びていっているのが分かっている。そんな石川が警官としてどんな行く末を辿るのか情報屋としての好奇心をくすぐられている面もあるでしょうが、何より人として目が離せないんだと思います。なぜなら、石川は赤井がこれまでに見たことのない人種だからです。
――追いつめた犯人に向かって、「怒りや憎しみから遠く離れた場所で暮らすべきだった」と語った石川。これまで、自分の思いを犯人に語りかけることのなかった石川が、なぜこのときだけ本音をぶつけたのか。
石川は、今回の犯人の選択にも理があると思っているし、心情も理解できた。だからこそ、こんなことを起こしてほしくなかったという思いは、人一倍強かったと思います。この事件を解いていいものか、ずっと迷っていたし、解いた後もできれば自首してほしいと考えていた。しかし、いろいろなものが見えてしまったがゆえに、事件を解かざるをえなかった。その無念の思いが、思わず口から出てしまったんじゃないでしょうか。今の石川の何よりも優先すべき事柄は、「人の命を奪ってはいけない」ということ。それこそが絶対的な正義。人間の心情としては、見逃すという選択肢もあったはずですが、そうしなかったのは、「人の命を奪った人間は絶対に許さない」という信念があったから。改めてそう決意するという意味でも、この第三話は大きなターニングポイントになったと思います。
――分岐点という意味では、四話以降では服装にも変化が。
(山田)石川のスーツは、実は彼の心の変遷も表していて、ターニングポイントを迎えた四話以降で変わります。スーツの色が濃くなる…という微妙な変化ではあるんですが、そこにはちゃんと意味がある。最終回に向けて、服がどう変わっていくかにも注目してもらえたら、石川の心の一端を垣間見ることができると思います。
――変わり始めた石川のことを、上司であり、理解者でもある市倉は、どんな思いで見ている?
市倉は中間管理職という立場にありますし、成果主義という考え方も持っている男。ですので、石川がダーティな手段を使っても手柄を上げてくれれば、班の手柄にもなるので、ある意味ラッキーというスタンスでしょう。ただ、絶対に汚れるはずがないと思っていた石川が、境界線を超えているかもしれないという疑惑に対しては、少し悲しく思っているはずです。なぜなら、市倉にとって、銃撃を受けるまでにクリーンな石川は自分がなりたかった警察官の理想像だったからです。
――石川と犯人が対峙するラストの展開。小栗さんの深い演技も見どころでした。
(山田)小栗さんは、この第三話で相当難しい演技をやってくれました。特に、「殺していい人なんていない」というセリフについて、これってどういう感情なんだろう…と本人もずっと深く考えられていたと思いますが、この言葉は最後に捕まった犯人に言っているようで、自分自身に言い聞かせているということに気づかれたような気がします。俺自身、まだ本当にこれが正しいのかは分からないけど、今の俺はこの言葉を自分に言い聞かせているんだ。そんな石川の思いを込めたのが、あのセリフであり、複雑な表情を見せてくれた小栗さんの演技の真骨頂だったと思います。現場で目の当たりにしたときは、鳥肌が立ったほどです。改めてじっくり見てほしい場面です。
――作者として、あのラストシーンに込めた思いは?
「正義の多面性」というのが、第三話のテーマだったわけですが、石川にとっては、第一話で口にした「絶対に大切なものは人から奪ってはいけない」という思いを確認する回でもあった。しかし、それによって、“死”という人のボーダーを超えたら絶対に許さないということが、改めて石川のデフォルトになってしまった。その決断が今後、石川自身と彼がかかわる事件にどんな影響をもたらすのか、第四話から始まる新章の展開に注目してもらえたらと思います。