再送-捜査協力やめれば「対価」 ユニバーサル弁護士が元社員に和解案
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[東京 8日 ロイター] - パチスロ機大手のユニバーサルエンターテインメント の代理人を務める弁護士が昨年7月、フィリピンでのカジノ計画をめぐる同社の贈賄疑惑を指摘している元社員に対し、そうした発言を撤回し、捜査当局への情報提供をやめれば「一定の対価」を支払う、などとする民事訴訟の和解案を示していたことがロイターの取材で明らかになった。
同社はカジノ計画に関連して2010年に4000万ドルをフィリピンのコンサルタントに支払っている。和解案が提示された時期には、その資金の使途について、すでに米連邦捜査局(FBI)やフィリピン政府が捜査に着手する一方、米ネバダ州ゲーム規制当局(NGCB)も調査に乗り出していた。元社員はFBIや東京地検特捜部の参考人聴取に応じ、当局の捜査に協力したことを認めていた。
米捜査当局は、ユニバーサル関連の民事訴訟の進行が捜査における証人の保全に影響を与えかねない、との懸念を示している。今回の和解案について元社員側は拒否したとしているが、捜査協力の中止に「対価」を払うという同社代理人からの提案は、そうした捜査当局の懸念を改めて浮き彫りにする形となった。
<代理人の弁護士が「私案」として提案>
ロイターの取材によると、和解案は2013年7月、ユニバーサルの代理人である荒井裕樹弁護士から、同社元社員である中野隆文氏の代理人、勝部環震弁護士に提示された。その中で、荒井弁護士は、中野氏が和解条件を受け入れれば、同氏に対する民事訴訟を取り下げるとともに、「一定の対価を中野氏に支払う」と明記している。「対価」について具体的な金額は示されていない。
同提案は、和解の条件として、同氏がこれまで面談、書面、電話、電子メールなどを通じてFBI,NGCB、ウィン・リゾーツ社関係者に提供した情報や資料および連絡内容のすべてを「当社の求めに応じて速やかに開示する」ことを要求。さらに、和解交渉の開始後は、「法人・個人を問わず、報道関係者や捜査機関に対する情報提供を一切行わない」ことを求めている。
荒井弁護士は提案の理由について、勝部弁護士との面談で、中野氏がユニバーサルとの早期和解を希望していると知ったため、としている。この提案はユニバーサルと中野氏の和解を行うための荒井氏の私案という形をとっているが、提案書の冒頭に記された荒井氏自身の肩書には、ユニバーサルの代理人弁護士とも明記されている。
ユニバーサルは12年11月、4000万ドルの資金問題に関連して、中野氏と同社元社員2人の計3人に対し、会社の正式な了承無しに1000万ドルを送金したとして訴えを起こした。このうちの1人には、これとは別の500万ドルの送金を不正に行ったとの訴訟も提起したが、中野氏も他の2人も、すべての送金は岡田和生・ユニバーサル会長の指示によって行ったと主張している。
中野氏は昨年3月、ユニバーサル、岡田会長、荒井弁護士を名誉棄損で逆に訴えた。訴状のなかで中野氏は、ユニバーサルによる送金はマニラで計画されていたカジノ計画のカギとなる経済特区の認定や大統領府の特別認可を得るためだったとし、「一連の送金については全て被告岡田が決定した」と主張している。ユニバーサルは中野氏の主張を否定している。
中野氏は11年にユニバーサルを退社。その後、同社との裁判のなかで、同社の送金問題をめぐる捜査について、FBIや東京地検に協力していることを明らかにした。
ロイターの取材によると、4000万ドルの送金先は、フィリピンでカジノ計画を進めるカギとなる人物で、比カジノ規制当局との関係が深いとされるコンサルタント、ロドルフォ・ソリアーノ氏の保有する2つの会社だった。
そのうちの1000万ドルについてユニバーサルは、昨年2月14日に提出した12年10─12月期の四半期報告書で、不適切な会計処理が行なわれた可能性が高いとの指摘を第三者委員会から受け、会計処理を訂正した。3000万ドルのうち2500万ドルについては昨年5月20日の決算短信で修正を行ったが、ソリアーノ氏に送金された3000万ドルの使途は明らかにされていない。
荒井弁護士は和解案の中で、中野氏に対し、ユニバーサルによる4000万ドルの送金の経緯やフィリピン当局などから便宜供与を受けていないとの点について「真実を述べた陳述書を公正証書形式で作成する」よう要求。そのうえで、「中野氏は当該陳述書に虚偽を記載する必要はない反面、当社が記載を望まない事項については記載することができないものとする」との条件も付加した。
さらに、ソリアーノ氏やその関係者に対して訴訟を起こす場合は、中野氏が全面的に協力することも要求。同時に、ユニバーサルと係争中の同社元社員2人について、中野氏がユニバーサル側の「訴訟追行を支援するために全面的に協力する」ことも条件にあげ、元社員2人と同様の立場にある中野氏に同社側への協力を求めている。
<元社員側は和解案拒否>
中野氏の代理人である勝部弁護士は、荒井弁護士から受け取った和解提案を拒否したことを明らかにした。勝部弁護士からはそれ以上のコメントはなく、中野氏もコメントを差し控えている。
米司法・検察当局もこの和解案にはコメントしていない。検察側は、同社が米大手カジノ運営会社、ウィン・リゾーツ と争っている民事訴訟の進行が刑事捜査の展開に障害となっているとの認識を示している。
実際に米司法当局は昨年、ユニバーサルの岡田会長がウィンおよび同社のスティーブ・ウィン会長と争っている民事訴訟について、これと同時進行している刑事事件の証人の身元情報などが公になり捜査の妨げになるという検察当局の懸念を認め、米ネバダ州裁判所は民事訴訟のプロセスを12カ月間、中断する決定を下した。
ネバダ州裁判所は今年5月2日、さらに6カ月間の延長を求めた検察当局の請求を却下したが、これは捜査当局には十分に時間を与えたという判断による決定。一方で、米政府に協力する証人に関する個人情報などは、漏えいから守らなければならないという条件は認めている。
一方、ネバダ州ゲーム規制当局(NGCB)のA.Gバーネット会長は、荒井弁護士から中野氏側への和解条件案の提示について、ロイターからの指摘があるまで認識していなかった、としたうえで、「われわれもその資料を入手し、この事件に関する全体の調査の一環として、内容を分析する」と述べた。
ロイターは今回、ユニバーサルと荒井弁護士に対し質問状を送付したものの、両者からの返信は得られていない。
ユニバーサルは4000万ドルの使途不明な資金送金について報道したロイターに対し12年12月、ロイターと同社記者、編集者に対する損害賠償請求を東京地裁に起こしている。ロイターは、会社として報道内容を支持するとコメントしている。
(ネイサン・レイン、翻訳編集:北松克朗、江本恵美)
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