3Dプリンター界隈で残念な事件が起きました。
3Dプリンターで拳銃製造か 所持容疑で逮捕 NHKニュース
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140508/k10014286831000.html
3Dプリンターで作ったとみられる殺傷能力のある拳銃を所持していたとして、川崎市の大学職員の27歳の男が銃刀法違反の疑いで警察に逮捕されました。
アメリカではすでに起きていた話ですが、日本でもこういうのをやっちゃうバカがそれほど時差なく出てきたので、多少関心がある向きを中心に、それなりの話題になっているように思えます。
これに対して、早速こういう反応が見られました。
3Dプリンターを社会的脅威として心配する必要はみじんもない - Togetterまとめ
これは論理的思考が出来る人だけ読んで欲しいんですが(Twitterでか?笑) あのね、銃ごときが作れないようでクルマやヒコーキが作れるわけないでしょ?と。クルマやヒコーキが作れる私達の国には町工場どころか工業高校レベルだって銃が作れる道具は、どこにでもゴロゴロしてますから。
正直これを読んで、「あーあ、またこれか…」という残念な気分に、なりました。
思えばWinnyの時も似たようなアナロジーがまことしやかに流布していました。「Winnyの規制は、包丁は殺人の道具になるから規制しろというのと、同じだ」みたいな話です。
道具は悪くない、道具を使う人が悪い。一見すると、正しいロジックに見えます。というか、ロジックとしては大体正しいです。Winnyの時は、当初の開発の動機が若干不純なものも含まれていましたが、3Dプリンタに関してはそれさえも希薄でしょう。
でも、正しいロジックといったところで、それは数多あるロジックの一つであって、かつそれを選んでいるに過ぎない。ということは、3Dプリンタの存在を否定するロジックも、当然のように存在しえます。
前述のWinnyと包丁の話で考えてみましょう。包丁は殺人の道具になる。その通りで、だからこそ「理由なく刃物を外に持ち歩くなどして携帯する行為は、人の生命、身体に対する侵害を誘発するおそれが高い」と見なされ、銃刀法で禁じられているわけです。
刃物の話 :警視庁
そんな、数多あるロジックのうち、3Dプリンタを擁護する観点で選ばれたものが、社会における3Dプリンタの絶対的な正当性を、果たして証明してくれるのでしょうか。それによって、どれくらい社会的な共感を得られるのでしょうか。
それに、そもそもロジックだけでは、共感はおろか理解も得られないでしょう。3Dプリンタという、なんだかよく分からないものから、銃らしきものができちゃって、作った人は逮捕された、なんかコワーイ……これが、3Dプリンタに大して興味のない人の、ほとんどの反応でしょう。そこにはロジックもへったくれもありません。でもそれが現実です。
そういう現実に対して、ロジックの正しい話を投げつけたところで、「うまいこと言ったな」あるいは「だから何?」という程度の評価しか、得られないでしょう。そして、うまいこと(つまりうまいアナロジー)を言った程度で「なんかコワーイ」の本質が理解されるはずもなく、従って問題が解消されることもありません。そんなことで解決できるのであれば、いまごろ原発は日本中で唸りを上げて再稼働しまくってるはずです。
もちろん、そもそも悪いのは、銃というか、殺傷を目的としてその能力の高い器具を作ることです。それは3DプリンタだろうとNC旋盤だろうと、道具は何だって同じです。
しかしNC旋盤で銃を作るよりも簡単に、3Dプリンタでは銃らしきものが作れてしまう。これもまた現実です。そしてその現実に対して、「なんかコワーイ」という声が上がる以上、3Dプリンタのコワーイ部分をどのように社会で飼い慣らしていくのか、そういう議論を進めるべきです。そしてその時には「なんかコワーイ」という声の主にも、理解してもらえるような説明が必要です。
インターネットだってかつては「違法じゃねえの?」ってところからスタートして、幾多の難題を乗り越えてきました。3Dプリンタも、そういう苦労を経て、社会に普及・定着していくのでしょう。特に、実際のブツを作り出してしまうし、ブツの流通は消費者保護から国家安全保障まで、いろいろなレベルでの規制があるわけですから、インターネット以上の苦労が必要なのは、ほぼ間違いないですね。
そういうことを、もう少し考えていくべきなんだろうと、思っています。