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日本経済の競争力回復のために「労働時間規制」は強化するべき

2014年05月08日(木)11時28分
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 第一次安倍内閣の際に廃案になった「ホワイトカラー・エグゼンプション」が、今度は「残業手当ゼロ化」とでも言うべき拡大案として、再び検討されているようです。今回は、管理職一歩手前の年収1000万円超クラスに加えて、労使協定を行えば全社員にも適用可(その場合は時間の上限規制はあり)というものです。

 この法案に関しては、過労死推進であるとか、日本経済の総ブラック化といった言い方で批判がされているようですが、私はそのような批判では足りないと思います。現在の日本社会で労働時間規制を緩和するということは論外であり、反対に徹底的に強化するべきです。そうではないと、日本経済の衰退を加速する、そのぐらいの問題であると思います。

 中には、当面は「高すぎる人件費の削減」の一環として「残業手当の廃止」を行うのは「企業の生産性向上と国際競争力回復」のためには仕方がない、それが日本経済を延命させる唯一の現実的判断だ、と真剣に考えている経営者もいるかもしれません。少なくとも安倍政権はそう考えているようです。

 甘いと思います。

 どうして日本の労働時間が長いのか? どうして日本の多くの産業で国際競争力が落ちたのか?

 それは日本の「仕事のやり方」にあると考えられます。「家族より仕事が大切」とか「企業が共同体として精神的な帰属の対象になっている」といった印象論ではなく、もっと具体的な「仕事のやり方」の問題です。

 今が、この「仕事のやり方」を変革するラストチャンスであると思います。そのためには「労働時間規制」を厳しくすることで、今までのような「仕事のやり方」を根絶することが必要ではないでしょうか? 何が問題なのでしょう。列挙してみます。

(1)「合議制が極端」
 意思決定を少数で迅速に下す組織になっていません。責任を分散するための「ヨコの合議」と同時に、最先端の知識と情報が現場にしかないので「現場とのタテの合議」が必要です。また企画開発機能と生産機能、販売機能が横並びなので、「機能同士の合議」も、そして外注先も系列化されているので「社外との合議」も必要です。その結果として、会議、そのための検討資料作成などに膨大な労力が必要になるわけです。

(2)「儀式的なイベント」
 合議の場ですらない、儀式的なイベントが多すぎます。朝礼の訓示がどうとか、創立記念行事がどうとか、経営方針発表会議がどうとか、そうした場に「実務クラス」も巻き込む中で、労働効率は悪化します。忘年会や歓送迎会なども、「上が下を慰労する」インセンティブではなく、あくまで上下関係の中での「関係性確認の場」であるために、参加者の多くにはストレス解消になりません。

(3)「決定儀式と非公式な討議の二重構造」
 多くの組織で公式の会議は儀式化しており、本質的な問題点の検討や事実上の意思決定は非公式な討議で決定される二重構造になっています。では、公的な会議の方は形式だけなのかというと、そこで使われるパワポとか配布資料などには膨大な時間と手間がかかるわけで、要するに大変に非効率なわけです。

(4)「対面型コミュニケーション」
 合議の際の「重要な局面」、「下から上への報告」、「問題が発生した際」には対面型コミュニケーションが原則になっています。また "B to B" のビジネスはそのほとんどが今でも対面型の販売が原則になっています。そのために「報告のための本社出張」であるとか「お得意先回り」といった活動に物凄い時間と労力がかかっています。

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冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。主な著書に『チェンジはどこへ消えたか オーラをなくしたオバマの試練』(阪急コミュニケーションズ)、『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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