(2014年5月8日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
行動ファイナンスは少なくとも10年以上、執拗に話題になってきた。プロの投資家の多く、もしかしたら大半は、人間の心理と認識の欠陥のために、市場はかつて思われていたほど効率的にはなり得ないという行動ファイナンスの中心的な洞察を受け入れている。だが、これまでは根強い不満が1つあった。行動ファイナンスは素晴らしい考えかもしれないが、それでカネを稼ぐことはできない、ということだ。
この通説が今、60代になってやっと職業として資産運用を手がけ始めたデンバー出身の学者によって、その他の通説とともに覆されている。アシーナインベスト(AthenaInvest)のトム・ハワード氏は金融学の教授で、以前は現代ポートフォリオ理論を受け入れていたが、行動科学主義に関する文献に大きな感銘を受け、独自にアクティブ型ファンドマネジャーの研究を始めた。
研究の結果、一般に認められている定説に反して、大半のアクティブ型ファンドマネジャーはうまく銘柄を選別しており、パフォーマンスの高いファンドを事前に特定できることが分かった。ハワード教授はファンドマネジャーの保有株に関するデータを使い、優れたマネジャーの間で最も人気の高い銘柄を見極め、好成績のポートフォリオに組み込むことができた。教授はまた、最も成績の悪いファンドマネジャーの最悪の銘柄選別も特定し、それらの株を空売りすることで利益を上げた。
教授自身のファンドは成功を収めてきた。だが、このファンドへの投資に興味がある人は、以下のことに注意する必要がある。同ファンドの構成銘柄は10銘柄のみで、ハワード教授は自分が保有している銘柄の名前を1つも知らない。そして、保有株をいくらで買ったのか知らないのだ。
集中的な賭け
どれも一見意味をなさないかもしれないが、じっくり検証すると筋が通ってくる。ハワード教授の分析では、ファンドマネジャーのすべての保有株を調べる。過去のパフォーマンスは将来の予測に役立つものではないが、過去の行動は重要性を持つ。
この分析では、3つの重要な特徴が明らかになった。第1に、ファンドマネジャーは規律ある戦略を持っていることを示さなければならない。第2に、その戦略は一貫して実践されなければならない。最後に、成功したファンドマネジャーは信念を持って自分の戦略に従う、ということだ。
こうした信念は、集中度の高いポートフォリオに現れる。1つのポートフォリオに10銘柄前後しか加えないところに多角化の要素はほとんどない。集中した賭けはアウトパフォームする確率が最も高い。こうしたポートフォリオは振れ幅が比較的大きいが、それはリスクが高いこととは異なる。
この説明が、「diversification(多角化)」のことを「di-worsification(多角化+悪化)」と呼ぶウォーレン・バフェット氏を適切に言い表していることに留意するといい。だが、ハワード教授はバフェット氏の戦略以外にもアウトパフォームできる戦略を見つけた。肝心なのは、一貫して、しかも信念を持って戦略を追求することだ。