(2014年5月8日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
タイのインラック・チナワット首相が7日、憲法裁判所によって職権乱用疑惑で失職させられた。ニワットタムロン・ブンソンパイサーン氏の首相就任でタイは6年間で6人目の首相を迎えることになった。ニワットタムロン氏は、6カ月前に反政府の抗議者たちが街頭でデモを繰り広げてからタイを支配している危機を受け継ぐことになる。
■では、タイの政治闘争は今回限りで落ち着くのだろうか?
5月7日、憲法裁判所から失職を言い渡された後、タイ・バンコク郊外で支持者に手を振るインラック・チナワット氏〔AFPBB News〕
とてもそうはいかない。インラック氏――およびインラック内閣の9人の閣僚――の追放は、インラック氏を支持する「赤シャツ」軍団が大挙して結集した場合、対立が激化する可能性を生み出している。
2010年に赤シャツ軍団が2カ月間バンコクの一部を占拠した事件は、これから起きるかもしれないことの一端を覗かせていた。当時は、抗議行動が軍によって鎮圧された時に大勢の人が亡くなった。
一方、野党も、憎いチナワット一族出身の人物が権力の座から追い落とされるのを見るという理屈抜きの興奮にもかかわらず、裁判所の判断に完全には満足しないだろう。タイ貢献党が主導する政府は、インラック氏の兄で、野党にとっては同氏より嫌われ者のタクシン・チナワット元首相に近い人物の指揮下で権力の座にとどまっている。
7日の出来事の1つの重要なメッセージは、双方とも譲歩しない決意をかつてないほど固めているように見える、というものだ。
■裁判所が即座に首相を失脚させられるというのは、立憲民主制の国において奇妙なことだが・・・
インラック内閣のほぼ3分の1が失脚させられるのは言うまでもない。読者は奇妙に思うかもしれないが、タイではそれが当たり前になりつつある。インラック氏は、2008年以降、裁判官によって降板させられた3人目の首相だ(他の首相のうちの1人は、首相に就任する前に出演したテレビの料理番組に対する支払いを受けたことで解任された)。
タクシン氏と連携する政党は解散させられ、それらの政党の幹部は何年もの間、政治活動を禁じられた。