久しぶりに劇場で観た映画ではありますけれど、幼なじみの関係をメインに据えた恋愛ものアニメ映画としてストレートに快作でした。
たまこの「もち蔵……大好き! どうぞ」の声がして、エンドロールが流れはじめた瞬間に「よくやった! よくやった!」と快哉をあげたくなってしまうような素晴らしい完成度。
この作品は『たまこまーけっと』というアニメ作品の続編的な映画ですが、前作の下地をこれでもかと上手く使って、その作品の雰囲気から乖離せずにしかしながら最大限の距離をとったラブストーリーをやってみせてくれています。
ひとによっては『たまこまーけっと』以上に好きと感じるひともいるでしょうし、自分もそのひとりです。このふたつの作品は完全な地続きのものでありつつも、描く中心に据えたものは全く別種のものになります。『たまこまーけっと』がたまこという人間を育んだ場所を描いたとすれば、『たまこラブストーリー』は、彼女が今まで立ったことのない場所を描いた物語で、彼女が初めて知る世界を彼女にとって勝手知ったる舞台の上に描く、そういうような作品です。だからこそ、『たまこまーけっと』未視聴のひとにでも受け入れられやすい間口を持ちつつも、知っているひとにとってはなお解像度の高い作品に感じられるものとなっていて、観ている側としてもとても面白かったです。
あと、アニメ作品としてカメラワークとかモチーフ遣いすごくこだわりを持ってつくられた作品だったなあというのをひとつ感じました。モチーフについてはメインテーマと絡む「バトンと糸電話」だったり「たまこともち蔵の立つ川」や「じんわりと降り始めて雨の染みを広げてゆく雨」など、モチーフひとつひとつを物語としての意味を持たせていること。
カメラワークも間違いなく意識的で、印象的なものがたまこともち蔵の立ち位置だったりするんですが、これって基本的にもち蔵が左側に立っていてたまこが右側っていうのが定位置なんですよね。両者はふたり揃っていなくても画面上でこの定位置に立っていることが多かったり、ちょうどこのふたりの気持ちの転換点にあたる「川」と「病院」と「駅」、この三箇所でとりわけ印象的にふたりの(画面上での)立ち位置が変わるんですね。川ではもち蔵が飛び石へと駆けて行って、それを追いかけるようにやってくるたまこはもち蔵の右と左を行ったり来たりして、病院では正面から見るといわゆる彼らの定位置で座っているのに、アップのカメラではわざとふたりを切り分けて画面上でたまこを左にもち蔵を右に置いたり、そのあとのカメラアングルは確かふたりの背後からで、これもやっぱり定位置を意識したものなのかなと。あとは走ったり叫んだりするときの向きも意識的だったんだろうなと思うけれど、そこまで深くは思い出せないです。
あと、立ち位置についての話としては、マーチングの大会でみどりちゃんとたまこがすれ違って、たぶんキメの立ち位置でみどりちゃんはたまこの右側に立っていたと思うので、別にみどりちゃんがかわいそうな物語でもないかなと思ったりしました。
あとあれじゃん、あのアニメの後半の視点人物ってたまこというよりみどりちゃんに寄ってるじゃん。視聴者がたまこともち蔵の関係を見守るときの角度ってもうほぼみどりちゃんの角度にならざるを得ないじゃん。その点でみどりちゃんはちょっと都合よく扱われたかなというのはありますが、たまこともち蔵が恋を結実させることでみどりちゃんに居場所のなくなる物語ではないでしょ、というのが俺の意見で(ちなみにたまこまーけっと観てた頃は「みどりちゃんがこっぴどく孤独になるの観たいわ~」とか言ってましたが)、どうせみどりちゃん性欲強いんだからもち蔵が東京の大学にいる間にたまこを寝取るじゃん。な?(Q.E.D)
閑話休題。
結局なにが良かったんだよって言われると、ほんとうにストレートで恋愛未満から恋愛以上の間で揺れる『大好き』の物語を高品質のアニメ―ションとしてで丁寧にきっちり描いてくれたことに尽きると思います。
気持ちを育んできたたまこともち蔵のふたり、その中で気持ちだけを育てて認識がどこか追いつかないままにいた殻の中にあるたまこの、ふとしたきっかけで気付かされる気持ちの認識への戸惑いや迷いを、たまこという女の子がこの物語の中心だからこそ表情豊かに描けていたこともとても良くて、というかそういう描写って(上手くやること前提なんですが)どうしようもないほどツボなんで、「ひどい……ひどいよこれは……」ってよく劇場の中で口にしなかったと思うくらいにやにやにやにやしておりました。
キスまでもいかない、抱きしめたりもしないラブストーリー。
それでもこの作品が完全無欠にラブストーリーなのは、大好きを互いに届けて「掴む」物語になっているからで、同時にラストシーンの「もち蔵……大好き! どうぞ」という言葉は、たまこもまたもち蔵にバトンを投げたのだということを示していて、そこでこの映画を綴じたことがたまらなく愛おしい。なんちゅーか、そういう気持ちになれるアニメ―ション映画を観ることができて、すごく嬉しかったです。
見に行ってない幼なじみ恋愛大好きキッズ(オッサンが多そう)は、今すぐにでも観に行こうな。お兄さんとの約束だぞ。