日経サイエンス  2014年6月号

STAP細胞は存在したのか

詫摩雅子(科学ライター) 古田彩(編集部)

体の細胞を酸で刺激するだけで初期化し,あらゆる細胞になることができる新しい多能性幹細胞「STAP細胞」を作った——。理化学研究所がそう華々しく発表したのは1月末のことだ。生物学の常識を覆し,新たな研究分野が開けるとの期待が高まったが,わずか2カ月で暗転した。

 

論文にはまったく別の実験で得た画像を載せており,異なる測定で得たデータを張り合わせ1つの実験のように見せた画像もあった。理研の調査委員会は,不正が指摘された6項目について調査し,研究不正があったと判定した。

 

だが,最大の疑念には手つかずだ。果たして「STAP細胞」は存在したのだろうか? 小保方氏が作った細胞から,キメラマウスができたことは確認されている。マウスの体を作ることのできる,何らかの多能性細胞があったのは間違いない。だがそれは本当に,体の細胞が初期化されてできたSTAP細胞だったのか。体内にもともとある未知の多能性細胞や,別の実験に使われていたES細胞(胚性幹細胞)だった可能性すら指摘されている。

 

小保方氏のコンピューターに保存されているすべての実験データと実験ノートを照合し,残されたSTAP幹細胞やマウスの標本などを遺伝子解析すれば,手がかりが得られる可能性が高い。だが理研は,そうした調査には一貫して消極的だ。

 

真相はいまだ藪の中だが,関係者らは口を開き始めた。

 

著者

詫摩雅子(たくま・まさこ)/古田彩(ふるた・あや)

詫摩は日本経済新聞社科学技術部,日経サイエンス編集部を経て,2011年より日本科学未来館。古田は本誌編集部。

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