日本経済新聞社は「電子版(Web刊)」の有料・無料読者の皆さんを対象とした週1回の意識調査を実施しています。第135回は、政府が7日に法案を閣議決定した国家安全保障会議(日本版NSC)設置について、皆さんのご意見をうかがいます。
中国の海洋進出もあり、日本の安全保障の先行きを心配する声が高まっています。防衛庁を省に格上げし、自衛隊の軸足を冷戦時代の北方重視から南西諸島重視に移すなどいろいろな対応をしてきましたが、まだまだ不十分でしょう。
そこで安倍内閣は外交・安保政策を総覧する国家安全保障会議を設置する方針を打ち出しました。米国ではホワイトハウスに大統領直属の国家安全保障会議(NSC)があり、そこで長期的な外交政策から国際テロリスト対策のような個別案件まで一手に引き受けて立案・指令しています。
安倍晋三首相の念頭にあるのもこうしたトップダウン型の組織のようです。第1次安倍内閣でも現在の安保会議を日本版NSCに改組する法案を国会に提出したことがあり、首相の長年の悲願ともいえます。秋に予定する臨時国会で法案を成立させ、早ければ2014年度に発足させたい考えです。
さて、重要なのは日本版NSCがどの程度の効力を発揮できるかです。
米国のNSCの現在の主な構成員は以下の通りです。
○行政担当者:オバマ大統領、バイデン副大統領、ケリー国務長官、ヘーゲル国防長官
○軍:デンプシー統合参謀本部議長
○情報機関:クラッパー国家情報長官
これに加えて事務局役を務め、かつ大統領に助言する国家安全保障担当大統領補佐官も参加します。調整役を担うこの人の役割が実は一番重要です。
英語ではセキュリティ・アドバイザーと呼ばれるこの職務の歴代リストをみると、キッシンジャー、ブレジンスキー、スコウクロフト、パウエルなど錚々(そうそう)たる名前が並びます。国際政治学者もしくは軍の幹部がなることが多いようです。
現職はドニロンという人ですが、ちょうど5日、ライス国連大使への交代が発表されました。
では日本版はどうなるのでしょうか。現在の安保会議が形骸化しているとの観点から首相、外相、防衛相、官房長官の4人だけの会議を設け、1カ月に2回程度開く方針です。人数が少ない方が機動的かつ濃密な話し合いができるからです。
状況に応じて総務相、財務相、経産相、国交相、国家公安委員長も加えた9人会合も開きます。安保には防衛費をどう賄うのかなどの課題もあるからです。米国のNSCにも財務長官が出席することがよくあります。順当な顔ぶれでしょう。
同時に米国のセキュリティ・アドバイザーに相当する首相補佐官も置く方針です。この役職は国民から選ばれた国会議員が務めた方がよいという意見と、国会議員は週末に選挙区に戻ったりするので職務に専念できる官僚が務めた方がよいという両論があります。
ここで「あれ?」と思われた読者もいるでしょう。自衛隊のトップである統幕議長は入らないのでしょうか。
現在の安保会議設置法では統幕議長は意見を聞くために呼んでもよいよ、という位置付けです。たいてい出席しているのですが、軍が幅をきかせた戦前の反省から構成員には含めていません。今回の法改正でもこの方針は踏襲されます。
ちなみに英国は一足早く2010年にNSCを創設しましたが、軍の参謀長は陪席にとどめられています。
米国とのもう1つの違いは日本は情報機関のトップがメンバーでないことです。というよりも情報機関の能力が大きく違うため、日本には米国の国家情報長官に相当する役職がそもそもありません。
大量破壊兵器があるというガセネタにおどらされてイラク戦争開戦を決めた米国のNSCをあまり過大評価するのはどうかと思いますが、基本的には情報があり、それを分析する能力があり、それらを踏まえて決断する政治リーダーがいるというのが米国型の考え方です。
日本版の4人会合という仕組みは政治主導向きではありますが、米国からのまた聞き情報しかないとか、軍事的な分析ができないとかでは機能しないでしょう。NSC設置という外形に満足せず、中身をどう充実させるかが課題です。
今回は11日(火)までを調査期間とし12日(水)に結果と解説を掲載します。アンケートには日経電子版のパソコン画面からログインして回答してください。ログインすると回答画面が現れます。電子版の携帯向けサービスからは回答いただけません。
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