May 8, 2014
将来、大気中の二酸化炭素(CO2)濃度が上昇すると、作物の栄養価が大幅に低下する可能性があるという、新たな研究結果が発表された。大量のフィールド実験データに基づく今回の研究からは、新たな課題が見えてくる。それによると、我々の社会は、将来の二酸化炭素排出量の増加と栄養不足という2つの問題を抱えていることになる。
温暖化が進めば作物の生産量は減少する、というのが一般的な見方だ。ただし、大気中のCO2濃度の上昇そのものは生産量を増加させるとされている。光合成によって炭水化物を合成するのに必要な二酸化炭素を、作物が吸収しやすくなるためだ。
これに対して、気候変動が作物の栄養価に与える影響についてはまだはっきりとわかっていない。これまでの研究結果の内容もまちまちだ。
しかし、ハーバード大学のサミュエル・マイヤーズ(Samuel Myers)氏らのチームは、気候変動が作物の栄養価に与える影響を探る大規模な調査を行い、今世紀後半にCO2濃度が予想どおりの値に達した・・・
温暖化が進めば作物の生産量は減少する、というのが一般的な見方だ。ただし、大気中のCO2濃度の上昇そのものは生産量を増加させるとされている。光合成によって炭水化物を合成するのに必要な二酸化炭素を、作物が吸収しやすくなるためだ。
これに対して、気候変動が作物の栄養価に与える影響についてはまだはっきりとわかっていない。これまでの研究結果の内容もまちまちだ。
しかし、ハーバード大学のサミュエル・マイヤーズ(Samuel Myers)氏らのチームは、気候変動が作物の栄養価に与える影響を探る大規模な調査を行い、今世紀後半にCO2濃度が予想どおりの値に達した場合、小麦、米、エンドウ豆、大豆に含まれる亜鉛、鉄分、タンパク質の量が減少する可能性が高いとの結果を報告した。それによると、世界の複数の国における国民が亜鉛と鉄分の60%以上をこれらの作物から摂取しており、その数は20億人を超えるということだ。これらの栄養素の欠乏が原因で、すでに年間6300万年の生存年の損失が生じていると見られている。
◆C3作物への著しい影響
調査は、日本、オーストラリア、アメリカの耕作地で6生育年にわたって実施され、通常の生育環境で栽培された作物と、オープンエアの噴霧器によりCO2濃度を高めた近隣の実験区で栽培された作物との比較が行われた。現在の大気中のCO2濃度は400ppmだが、実験区では40~60年後に達すると予想される546~586ppmという高いCO2濃度がシミュレートされた。
小麦、米、エンドウ豆、大豆はいずれもC3型光合成を行い、C3植物と呼ばれる。今回は、これらのC3作物に加えて、光合成の速度がより速いC4型光合成を行うトウモロコシとモロコシについても調査した。その結果、C4作物ではCO2濃度の上昇による栄養価への影響が比較的少ないことがわかった。
これに対して、C3作物では亜鉛と鉄分の顕著な減少が見られ、最も多かったものとして小麦で亜鉛含有量が9.3%減少した。また、大豆を除く、小麦、米、エンドウ豆ではタンパク質の含有量の低下も確認された。
残念ながら、今回の研究は、大気中のCO2濃度が上昇することでなぜ植物の栄養価が減少するのか、その理由を明らかにするものではない。仮説の1つとして、大気中のCO2濃度が上昇すると植物が生成する炭水化物の量が増えすぎるため、その分、他の栄養素が減少するというものがある。
今回の調査結果を見る限り、この仮説は除外されることになりそうだ。CO2濃度が上昇すると、作物に含まれる炭水化物以外の全ての栄養素が一様に減少するのではなく、不均等に変化することが明らかになったからだ。
◆質と量
作物の生産量の変化と栄養価の変化のバランスを取る必要があり、このことが農業の未来を予測することをさらに困難にしている。そう語るのは、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の農学者、スティーブン・ロング(Stephen Long)氏だ。ロング氏は今回の研究には参加していない。
「地球上のCO2濃度が上昇すれば、生産量が増加し、作物による水消費量は減少する。このことは、大気変化のプラスの側面としてしばしば取り上げられる」とロング氏は話す。だが、今回「Nature」誌(オンライン版5月7日)に発表された“重要な”発見は、環境のCO2濃度が上昇すれば作物の栄養価が低下することを示している。つまり、“量の増加は質の犠牲の上に成り立つ”ということになる。
Photograph by David McNew / Getty