5月のニュースレター
5月のニュースレター
橋本徹大阪市長は、様々な議論を呼ぶ手法を政策に取り入れているかのようですが、もし再選となれば、日本最大のスラム街である釜ヶ崎の問題にも取り組む余裕が得られることを期待しています。釜ヶ崎には、65歳以上が4割を占める日雇い労働者や路上生活者2万5千人が暮らしているにもかかわらず、公式な地図に載っていないこともありあまり世に知られていません。地元の建築家の安藤忠雄であれば、地域の再生の助けとなることは間違いないでしょう。大阪市の中心地から25kmほど離れた郊外に位置する彼が設計した光の教会は、暗闇の構造的な用い方に関する真の論文のような建築です。東側の壁面にある十字架状の窓が唯一の装飾品であり、そこから差し込む二筋の自然光によって、教会が畏敬の念で満たされます。これが少々重々しいと感じたとしても、大阪は陽気さが欠けているということでは決してありません。それを如実に表しているのが、なんばグランド花月劇場です。そのどたばた喜劇調のパフォーマンスを楽しむのに、言葉の壁が立ちはだかることはありません。
高品質のステレオで合唱音楽に耳を傾け、生演奏を聴きにいき、その上でオタワにあるカナダ国立美術館に再び展示されている「40声のモテット」で、ジャネット・カーディフのインスタレーション・アートに身を浸してはいかがですか。彼女はこの作品で用いられる16世紀の作品を作曲したわけでも、歌ったわけでもありませんから、この芸術家がしたことといえば、単に技術的なことにすぎないと誤解されてしまうかもしれません。しかし、この曲を再生する手法に、この作品の芸術性があるのです。トーマス・タリスの11分の作品「我、汝の他に望みなし」(エリザベス1世の誕生日の贈り物として作られたと考えられている)が、大きく楕円形に設置された、それぞれ一声部ずつ割り当てられた40台のハイファイ・スピーカーから、繰り返し再生されます。ちょうど肩の高さに設置されたそれらのスピーカーの間を歩いてまわると、あたかもそれぞれの歌声が天から聞こえるかのように耳に届き、全く予期せぬ形で神秘的な体験に直面することでしょう。
ジャン・ポール・サルトルと毛沢東書記長の両方にインタビューする機会に恵まれた人はほとんどいませんが、「パリス・レビュー」誌で連載されたArt of Fictionによると、大江健三郎はその一人です。この四国出身の小説家は、インタビューされる側となれば、非常にざっくばらんな相手のようで、飲み屋でよく国粋主義の作家と喧嘩になることや、知的障害を持つ息子との日常生活の中に超越的なものを見出すこと、自分自身を退屈な話し相手だと思っていることなどを率直に語っています。最後の点については、インタビューの中で彼は執筆についての数多くの見識を提供しているのですから、それは全くの嘘と言っていいでしょう。彼独特の「差異を加えながら反復する」執筆の方法から、朝は水一杯だけ飲み、胃を空にしたまま昼まで執筆するという実践的なアドバイスにまで及んでいます。ただし彼が語った、毎晩ウィスキーをダブルで4杯とそれと同量のビールを寝酒として飲むという習慣は、あまりお勧めできるものではありません。
ロサンゼルスのニューアート劇場は現在、立派な4K対応のデジタル・プロジェクターを備えていますが、それ以外については、昔ながらのネオンサインに彩られた入口の中は、1929年の開館以来ほとんど変わっていません。典型的なアート系の単館映画館で、海外のドキュメンタリー作品から、表に出ることのない珍しい作品、更には「ロッキーホラーショー」の観客参加型のミッドナイト上映(注:登場人物になりきってくれる参加者歓迎)まで、複合映画館が見向きもしないような作品や監督に機会を提供しています。ここで映画が上映された数多くのインディペンデント系映画監督の一人、ジョン・ウォーターズがこの劇場のために、自ら監督・出演して、禁煙へのご協力をお願いするハチャメチャな公共広告を作っています。これは自称「悪趣味の見本」的作品「ピンク・フラミンゴ」(1972年)を上映してくれたお礼とのことですが、この作品の上映こそ、ニューアートの大胆不敵な上映作品の選定を端的に示したものと言えましょう。
建築
すべてのデザイン哲学について共通することですが、バウハウスのデザインは、写真を見て想像するよりも、直接肌身で感じることで最もその良さを体験できるでしょう。そしてそれは驚くほど手軽に実現できるのです。かつてのデッサウ校舎ではシングルの部屋が、一晩わずか35ユーロで宿泊することができます。この建物は建築後間もなく1932年に閉鎖され、ナチスによりその「退廃的」な住人も追い出されることになりましたが、近年になって美術館として修復されました。特に、バウハウスの創立者ヴァルター・グロピウスが設計したプレラーハウスはかつて、マルセル・ブロイヤーなどの優秀な学生が住み、きっと華々しい仮装パーティーやそこに住む若手教員との情事の舞台でもあったことでしょう。バウハウスを構成する家具が最低限備えられた機能的な部屋に滞在することで、バウハウスの試みの内側を垣間見ることができるでしょう。ただし、無秩序なお祭り騒ぎは体験できないでしょうけれど。
博学なドイツ愛好者でもなければ、新たに英訳された W・G・ゼーバルトのエッセイ集「A Place in the Country」で取り上げられている作家5人すべては分からないでしょうが、それでも誰もがページをめくるのをやめられない作品です。彼の小説(「散文詩」という呼び方を彼は好みますが)が、一見ノンフィクションの体裁を取るように、彼の文学批評もまた、その題材が何であれ、しなやかな文体の純度も賞賛すべきものです。このエッセイ集はふさわしくも、既に故人であるこの作家の友人(そして魅惑的なイラストレーターでもある)のヤン・ペーター・トリップの研究でその最後を飾っています。彼の絵画はまるで写真のようで、ゼーバルトの文章と同様、その緻密な本質は初めは捉えがたいほどです。このエッセイは、題材の作品の中に彼が見ているもの、現実の「表面的な幻想」の奥に潜む「恐るべき深淵」について語っているときのように時折、彼自信の文学的叙述を見て取ることができます。
マンハッタンのウエストビレッジにある、巧みな技で作るカクテルを提供するバー「Employees Only」は、段状になった照明、それに口ひげを蓄えたバーテンダーと、ジャズエイジの密造酒場を模した遊び心溢れるお店です。店の窓には真っ赤な「占い師」の看板がかかっており、実際に入り口には(FBIの取り締まりの目をくらますために)本当の占い師が立ってはいますが、出所のわからない密造ウィスキーではなく、上質なスピリッツに新鮮なハーブや果物を混ぜて提供してくれます。細心の注意を払って作られた素晴らしいカクテルは、熟練の腕にかかれば、何層にもなる感覚を体験できることを飲む者に気づかさせてくれます。細かく砕かれた氷、塩や砂糖で白く縁取りされたグラスの中を漂う色彩、濃厚な舌触りや炭酸が泡立つ感覚、また甘い後味や非常にドライな後味など、これらがあなたを新しい快感のステージへ誘ってくれることは間違いありません。
サンフランシスコのエクスプラトリアムは、2013年の再オープン記念の一環として、この会場のために毎年特別に作られる大規模なコンテンポラリーアート作品、「Over the Water」プロジェクトを開始しました。最初の作品は中谷芙二子による、高圧ノズルを800基用いてこの街の高い湿度に相応しい効果を作り出した「Fog Bridge」です。今年度のプロジェクトの全容は未だ伏せられたままですが、この作品によって高まった期待に応えられるものでなければならないでしょう。このようなプロジェクトは、芸術とは驚きと好奇心を呼び起こして、発見のための効果的な方法になりうることを明示しています。これこそエクスプラトリアムが育んだ、世界中の博物館の多くが真似できない手法です。湾岸地域に移転したこの博物館は、子供だけでなく、すべての自然を愛する人々、エマーソンの言葉を借りるなら「大人の年齢になっても幼児の魂」を保っている人々に、是非行っていただきたい場所です。
訪問
写真:「 Concrete, Water, Earth」(ダニエル・ブッシュアウェイによる「Control」シリーズより)
‘The art of mastering life is the prerequisite for all further forms of expression.’ Paul Klee
2014年4月の3週間、イソップはメルボルンで名高い百貨店、マイヤーバークストリートのショーウィンドウを全面使用した7つのユニークなインスタレーションを展開し.... 続きを読む
You have no items to compare.
No Videos yet...