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9条が問う 心の統制 表現の自由であらがう 05月04日(日)

 太平洋戦争末期の1945年元日。こんなふうに日記に書き記した人がいた。

 〈日本で最大の不自由は、国際問題において、対手(あいて)の立場を説明することができない一事だ。日本には自分の立場しかない。この心的態度をかえる教育をしなければ、日本は断じて世界一等国となることはできぬ。総(す)べての問題はここから出発しなくてはならぬ〉

 今の安曇野市出身の外交評論家、清沢洌(きよし)だ。思想統制の中で戦後に発表するため、政府や軍部の批判をつづった。清沢は終戦を見ることなく病死し、日記は後に「暗黒日記」として出版された。

 「大東亜共栄圏の建設」をうたい、実は自国のための植民地支配をアジアで広げた日本。それが当

然視された時代に、清沢は他国の立場を理解する教育を求めた。

   <清沢洌の懸念が再び>

 それから69年。清沢が指摘した「自国の立場しかない」が再び教育の中に入り込んでいる。

 〈竹島は、日本固有の領土ですが韓国が不法に占拠しています〉

 来春から使用される小学校社会の検定教科書に、政府見解をなぞった「領土」の記述が出そろった。「相手の立場」はない。

 この流れは8年前にさかのぼる。第1次安倍晋三政権は、教育基本法を改正し、教育の目標に「わが国と郷土を愛する」ことを盛り込んだ。内心の自由を侵すという反対論を押し切った。

 再び首相になった安倍氏は、昨年4月の衆院予算委員会で教科書をやり玉に挙げた。「愛国心などを書き込んだ改正教育基本法の精神が生かされていない」

 ことし1月、教科書の検定基準に政府見解を尊重することが定められた。改正教基法に照らし重大な欠陥がある場合は不合格にすることも審査要項に規定された。

 教科書作成や教員の指導の指針になる中学、高校の学習指導要領解説書も改定された。尖閣諸島や竹島は「わが国固有の領土」と明記された。

 「愛国心」のように心の持ちようまで規定する考え方は、自民党が2年前に発表した憲法改正草案の随所に表れている。

 前文には「日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り…」。各条文にも「日本国民は、国旗及び国家を尊重しなければならない」「家族は、お互いに助け合わなければならない」「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない」…。

 来年度にも「道徳」を教科にするのは、こうした考え方を教育に反映させるためだ。子どもたちには心の成績が付けられる。

 防衛力の増強、武器輸出三原則の撤廃、集団的自衛権の行使容認。安倍政権下では、こうした安全保障政策と、愛国心の養成がセットになって進む。

   <安保とセットで>

 それを端的に示したのが、昨年12月、従来の「国防の基本方針」に代えて閣議決定した「国家安全保障戦略」だ。社会的基盤の強化と題して「わが国と郷土を愛する心を養う」ことを国民に求めた。

 心の統制は、「愛国」だけではない。

 「何かしゃべると、もしかしたら法に触れ、罰せられるのではないかと恐れる」(茅野市、60代女性)、「国民を疑心暗鬼にさせる」(上田市、50代女性)

 最近、出版された「安倍首相への手紙」。昨年12月に強行採決で成立した特定秘密保護法に対する長野県民300人の声が掲載されている。

 安保政策の一環で、ことし12月までに施行予定のこの法は、官僚が恣意(しい)的に秘密を指定できる。何が秘密なのかも知らされないのに取得すれば最高で懲役10年。共謀罪も盛り込まれ、非公表の情報の取得を話し合っただけでも処罰される場合がある。

 本を編集した信州ML管理人会の代表、毛利正道弁護士(岡谷市)は「いつ、誰が捜査対象になるか分からない。余計なことは聞かない、話さないという萎縮効果をもたらす」と訴える。

 国を愛する心を養わせ、対立国への理解を片隅に追いやる。相互監視の作用を高め、国を批判しにくい雰囲気をつくり出す。有事に備えた「心の整備」が進められているようだ。

   <支柱を太くする>

 国家は、それ自身の抜きがたい「本性」のゆえに、さまざまな理由をつけては個人の心に介入し、支配しようとする―。哲学者の高橋哲哉さんは著書「『心』と戦争」で指摘する。だから憲法でわざわざ思想、良心の自由(19条)や集会、結社、言論、出版その他の一切の表現の自由(21条)などを保障しているのだと。

 今、危機に立つ戦争放棄の9条は、19条や21条に支えられているともいえる。その支柱を太くして風圧に強い9条にしたい。私たち一人一人の力でできることだ。

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