検察官控訴に対する弁護団コメント
本日2014年5月7日大阪地検は先日のNOON風営法裁判での無罪判決を不服として、大阪高裁へ控訴しました。
これからは闘いの舞台を高裁へと移し、裁判が争われることとなります。
これまで以上のご支援、ご協力を賜りますよう心よりお願い申し上げます。
なお検察官の控訴を受け、NOON訴訟弁護団が以下の通りコメントを発表しております。
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大阪市北区のクラブ「NOON」が,大阪府公安委員会の許可を得ずに風俗営業を行ったとは認められないとして,元経営者の金光正年氏に対し,無罪を言い渡した大阪地方裁判所の判決について,平成26年5月7日,検察官が大阪高等裁判所に控訴した。
私たち弁護団は,金光氏を罪に問う正当性を証明できなかったにもかかわらず,金光氏になお,被告人としての負担を押し付ける検察官の控訴に対し,強く抗議する。
私たち弁護団は,今後,大阪高等裁判所で行われる審理において,ダンスを指標として性風俗秩序を統制しようとする現行風営法の不合理性を改めて主張・立証し,再び無罪の判断を得るべく,最善を尽くすことを宣言する。
平成26年4月25日宣告の大阪地裁無罪判決(以下「本判決」という。)は,風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という。)2条1項3号のダンス営業規制(以下「ダンス営業規制」という。)の目的を,立法及びその後の改正経緯,類似業種に対する規制との比較等を踏まえた法令の合理的解釈に基づき,性に関わる歓楽的,享楽的雰囲気を過度に醸成するおそれのある営業の規制に限定すべきことを明言した。
さらに,本判決は,ダンス営業規制が,職業選択の自由(憲法22条1項)に対する制約だけでなく,表現の自由(憲法21条1項)に対する制約ともなり得ると述べた。クラブ経営者らの選曲やイベントの企画立案,クラブにおける客のダンスにも,表現の自由(憲法21条1項)の保障が及ぶ可能性に踏み込んで言及したのである。
そのうえで,これら憲法上の権利を不当に制約しないよう,規制目的に照らして必要かつ合理的な範囲に規制対象を限定すべきとして,都道府県公安委員会の許可を要する規制対象営業を「形式的に『ナイトクラブその他設備を設けて客にダンスをさせ,かつ,飲食をさせる営業』との文言に該当することはもちろん,その具体的な営業態様から,歓楽的,享楽的な雰囲気を過度に醸成し,わいせつな行為の発生を招くなどの性風俗秩序の乱れにつながるおそれが,単に抽象的なものにとどまらず,現実的に起こり得るものとして実質的に認められる営業」と定義した。
本判決は,限定解釈した規制対象営業の定義を前提に,NOONの営業は,性風俗秩序の乱れにつながるおそれが実質的に認められる営業と証拠上認められない,つまり,公安委員会の許可を要する風俗営業ではなかったとして,金光氏に無罪を言い渡したのである。
金光氏と私たち弁護団は,現行風営法のダンス営業規制が,表現の自由及び営業の自由を不当に侵害する違憲の規制であることを主張した。クラブやダンスを一律にいかがわしいものとみなす過度に広汎な規制,あるいは,規制対象行為の定義があいまい過ぎる不明確な規制として,憲法31条に反すると主張した。本判決の風営法ダンス営業規制の目的及び対象の限定解釈は,これらの私たちの主張に呼応したものである。
風営法自体の違憲性を問う法令違憲の主張は退けられた。しかしながら,憲法の趣旨に適合するよう,規制目的・対象を限定解釈した本判決は,実質的に,現行の風営法及び規制の実態が,憲法及び風営法の本来あるべき趣旨に抵触するおそれがあることを示唆している。私たちの主張の趣旨は,相当程度,判決に反映されたものと評価することができる。
本判決は,捜査機関がこれまで,現行風営法によるダンス営業規制の標的として強弁してきた各種の弊害,違法薬物の蔓延,騒音・振動による周辺環境の悪化や粗暴事案の発生は,いずれも規制の積極的な根拠とならないことを明言した。あいまいな法規定を逆手に取り,融通無碍に摘発を行ってきた捜査機関の拡大解釈を,明確に否定したのである。
本判決は,ダンス営業規制の対象営業に該当するか否かの判断は,客が行うダンスの態様,演出の内容,客の密集度,照明の暗さ,音量を含む音楽等から生じる雰囲気などの営業所内の様子,ダンスをさせる場所の広さなどの営業所内の構造設備の状況,酒類提供の有無,その他性風俗秩序の乱れにつながるような状況の有無など,諸般の事情を総合して判断すべきと述べた。捜査機関が今後もなお,現行風営法に基づくクラブ摘発を強行するのであれば,これらの事情に関する証拠を収集して,歓楽的,享楽的雰囲気を過度に醸成し,わいせつな行為の発生を招くなどの性風俗秩序の乱れにつながるおそれが,単に抽象的な可能性にとどまらず,現実的に起こり得るものとして実質的に認められる営業であることを証明する責任を負わなければならない。
本判決は,摘発当時のNOON店内を撮影した映像が,公判の始まる前に消去されたことを認定した。摘発にあたった警察官らが,デジタルカメラで撮影した証拠写真の原データを判決確定まで保管するよう求める警察庁の通達を無視し,証拠の管理責任を負うべき検察官も,適切な管理を怠ったためである。仮に映像が残っていれば,本判決が規制対象営業か否かを判断する際の考慮要素として挙げた諸事情に関する具体的事実が明らかとなったはずだ。最善の証拠を消失させておきながら,なおも無罪判決の破棄にこだわり,控訴した検察官の姿勢は,公益の代表者としての信義に悖るものである。
本判決は,この種の事案では極めて異例の18人もの証人尋問によって得られた証言に基づき,NOONが摘発された当時の客のダンスの様子,DJ及び経営者らによる演出を具体的に認定して,規制対象営業にあたらないと判示した。証人18人中,客4人,NOONスタッフ3人,警察官7人の計14人は,検察官が取調べを請求した証人である。検察官は,犯罪の成立を証明する目的で自ら呼び出した証人の証言が,無罪判断の積極的な根拠となった事実を直視し,重く受け止めるべきである。
大阪地裁無罪判決の意義を詳細に考察すれば,検察官が金光氏を起訴したこと自体,人を罪に問う正当性を有していなかったことは明らかである。にもかかわらず行われた検察官控訴は,憲法及び法令の趣旨を無視した不当なものとして非難されなければならない。
このような不当控訴の根本的な原因は,終戦直後の混乱期の価値観を引きずり,クラブやダンスを一律にいかがわしいものとみなして規制するダンス営業規制が,いまだ存続していることにある。
私たち弁護団は,ダンスを指標に性風俗秩序を統制しようとする時代遅れの現行風営法を改正し,ダンス営業規制を撤廃するよう,改めて強く求める。
平成26年5月7日
NOON訴訟弁護団
弁護団長 西 川 研 一