(cache) 自由主義史観研究会の「朝日新聞に見る靖国問題」が朝日新聞をちゃんと読んでいない件

2014-05-07

■[歴史][メディア][デマ]自由主義史観研究会の「朝日新聞に見る靖国問題」が朝日新聞をちゃんと読んでいない件

とりあえず宿題の処理をしておきたい。以前、自由主義史観研究会の朝日新聞に見る靖国問題の問題点を指摘すると言っていたのだが、突っ込みどころが多すぎて手を付けられずにいた上に、靖国神社参拝が「問題」化した経緯と、アメリカのアーリントン墓地との違い。付：靖国参拝での各国反応のような良いまとめがあったので書く気をなくしていたのだが一応、一点指摘しておきたい。

「朝日新聞に見る靖国問題」に次のような記述がある。

前回は、昭和五〇年八月から昭和五六年四月までの朝日新聞の記事をチェックしました。この期間に、首相の靖国神社参拝に対する朝日新聞の論調は転換したようです。　

国民も戦後三十年経って徐々に戦争の記憶も薄れてきたり、戦没者の親などの高齢化が影響してきたと思われます。昭和五十三年八月以降、朝日新聞は、公人か私人かという法律問題の形で首相の靖国参拝を批判していくようになったのです。なぜ昭和五三年に三木首相が「私的」参拝などと言い出して批判のきっかけをつくったのかは不明ですが、その原因の一つに、玉串料として公費を支出してはならないという津地鎮祭違憲訴訟（昭和四十年～五十二年）や内閣法制局の見解も関係しているかもしれません。しかし、内閣法制局は一行政機関にすぎないのであり、最近の集団自衛権の問題もそうですが、それが独自の立場で憲法の解釈をするのは混乱のもとです。　　　　　　　　

新憲法になってから約三十年間、首相の靖国神社参拝に際して、公人か私人かが大きな問題になったことはありませんでした。それが急に問題になったのは、憲法が変わったからではありません。靖国神社参拝を批判するために、朝日新聞などの考え方が変わったからです。首相の靖国神社参拝に対する政教分離問題は、純粋な法律問題ではありません。例えば、公式参拝批判が定着した昭和五十三年八月以降の朝日新聞が、首相の伊勢神宮参拝についてどう報道しているかみてみます。昭和五四年一月四日の記事は『伊勢神宮を参拝』という見出しで、『沿道の拍手に手を振って答えていた』という記事で政教分離とか公人か私人かの問題は出ていまぜん。
※太字による強調は筆者による。
http://www.jiyuushikan.org/rekishi/rekishi126.html

まず、昭和五十三年とは何だ。三木武夫首相の首相在任期間は昭和四十九年から昭和五十一年なので、いきなり間違っているのだがこれはまあタイポだろう。しかし1975年（昭和五十年）８月15日近辺の朝日新聞の記事を読むと、三木武夫首相の私的参拝の経緯はちゃんと報道されている。朝日の記事を二つ紹介しておく。

まず、1975年８月12日朝日新聞夕刊１面「『靖国参拝」を決定　首相、自民総裁の資格で』

　政府首脳は十二日朝、三木首相が終戦記念日の十五日に自民党総裁として靖国神社に参拝することを明らかにした。十二日昼の政府・与党連絡会議で正式決定した。
　終戦記念日の首相参拝は初めてのことだが、すでに野党側からは「憲法違反の靖国神社の国営化につながる」(沖本公明党法務部長)などと反発が出ている。これに対し、同首脳は「自民党からの強い要望があった」と述べ、さらに「自民党三役と一緒に行くことになっている」として、あくまで総裁の資格で参拝することを強調した。野党の反発にもかかわらず、あえて参拝に踏み切ったのは、これまで「靖国神社法案」を熱心に推進していた自民党内の靖国関係議員の要望にこたえることによって、臨時国会の乗り切りに必要な党内結束を図るとの配慮が働いたとみられている。
※太字による強調は筆者による。

次に、1975年８月15日朝日新聞朝刊１面『首相参拝「私人」の形』

　終戦記念日の十五日、三木首相は自民党総裁の資格で参拝することにしていたが首相は十四日、「自民党総裁」の肩書きをとりはずし「私人」の形で参拝することにした。同日午後、首相が官邸で井出官房長官、吉国内閣法制局長官らと法律的な問題点などを検討して決めたもの。
　これについて井出官房長官は同日夕の記者会見で「自民党総裁の資格でも憲法上問題ないが、靖国神社の春、秋の例祭への首相の参拝は“私人”として行われており、今度もそういう形を取るのが穏当だと判断した」と語った。
　しかし、この日の検討で①自民党総裁の資格で法律的に問題はないものの、総裁が首相となる実態のもとでは疑惑を招きやすい②さきの稲葉法相の改憲集会出席問題の際、首相自身が国会で「個人と閣僚の使い分けは事実上難しい」と答弁してきた、などの事情を考えて、野党、宗教団体からの靖国参拝問題への反発をやわらげるためとみられる。
　これに対し中曽根幹事長は十四日夜、「党総裁として参拝してほしい」と説得したが、首相は臨時国会を控え野党を刺激したくない、との考えが強く、「私人」として参拝することに落ち着いた。
※太字による強調は筆者による。

これらの記事によると当時、与党・自民党内から首相の靖国参拝を求める声があり、秋の臨時国会を控えた三木首相にはこのような声に応えることで党内の支持を得る必要があった。しかし、政教分離の観点から首相の資格での靖国神社参拝には違憲の疑いがあると考えられていた。そこで妥協策として考え出されたのが「自民党総裁としての参拝」、「私人としての参拝」だったと言える。また８月15日の記事中の井出官房長官の「自民党総裁の資格でも憲法上問題ないが、靖国神社の春、秋の例祭への首相の参拝は“私人”として行われており」という発言から、自由主義史観研究会の「新憲法になってから約三十年間、首相の靖国神社参拝に際して、公人か私人かが大きな問題になったことはありませんでした。」という主張も正しくないことが分かる。それまではずっと「私人」としての参拝だと見なされてきていたのだから、問題視される理由がなかっただけの話だ。

自由主義史観研究会は会のホームページで