南シナ海は、中国(台湾も)、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイが領有権権を主張し合う複雑な海です(過去記事)。スプラトリー(南沙)諸島とパラセル(西沙)諸島といった小島や環礁をめぐって、各国の主張は入り乱れています。

特に、この中で大きなアクターであるのは、中国、ベトナム、フィリピンです。
ここ数日、中国がベトナムとフィリピンを相手に小競り合いを起こし、事態がエスカレーションの危険性を帯びつつあります。ベトナムとは中国が西沙諸島で始めた石油掘削を巡って、フィリピンとは南沙諸島でウミガメ漁をしていた中国漁船をフィリピンが拿捕したことを巡って衝突していますね。
中国 vs ベトナム
ベトナムは沿岸警備隊(軍艦も?)を出動させているようですが、中国はすでに海警局など法執行機関だけでなく7隻の海軍艦艇が派遣され、計80隻余りの船が当該海域に展開しているとの現地報道もあります。
中国の海事局も5月3日にオイルリグ「海洋石油981(Haiyang Shiyou-981)」への出港許可を発行していることから、「中国領」である西沙諸島における石油採掘は国内法にのっとったものだ、といういつもの論法で押し通すと思われます。
ベトナムは当然これに反発しています。中国の石油採掘活動地点は、ベトナムの排他的経済水域(EEZ)内であり、中国側の行為は国際法に違反した行為であると非難しています。
中国の海上法執行機関船艇によるベトナム沿岸警備隊船艇への体当たりで、ベトナム側は2隻が損傷を受け、6名のけが人も出ている模様です。
中国 vs フィリピン
こちらは歴史的経緯から見ていきたいと思います。
1991年、スービック海軍基地とクラーク空軍基地が返還され、米軍はフィリピンから撤退しました。1995 年、フィリピンが領有権を主張していたミスチーフ礁(中国名:美済礁)に中国が建造物を構築します。米軍撤退後のフィリピンには日本の海上保安庁のような強力な警察機構もなく、もちろん海上自衛隊のような能力をもつ組織はありませんでしたから、中国の行動を抑止することも対処する実力もありませんでした。中国はそのぽっかり空いた“力の真空”を衝き、今もミスチーフ礁において施設を拡充して軍隊を駐留させ、占領を続けています(過去記事)。
2012年4月からは、南シナ海・中沙諸島のスカボロー礁の領有権をめぐって、フィリピンは中国と小競り合いを続けていますね。すでに死者が出る事態にまで発展しています。現在、スカボロー礁では中国が駐屯施設の基礎工事を始めている模様ですので、すでにフィリピンの施政権が及ばなくなってしまっているとみられます。
つまり、米軍を追い出したフィリピンは抑止力を失い、中国の領土的野心を退けることができず、領土を奪われた歴史を持つのです。これは、日本にとっても他山の石とすべき出来事ではないでしょうか。
近年さらに海軍力を増強する中国の圧力を受け、フィリピンは再び米軍を呼び戻すことで対抗しようとします。中東からアジアへ回帰しようとする米軍の「リバランス」のタイミングということもあり、2012年にはパラワン島への米海兵隊のローテーション配備が決まりました(過去記事)。さらに米比両国は先月、ついにフィリピンへの米軍派遣拡大を図る新軍事協定に合意したのです(2014/4/28 時事通信)。フィリピンは最大で5か所の軍事基地へのアクセスを受け入れるという方針も明らかになっていますね。今月5日(16日まで)からは定例共同軍事演習「バリカタン」も開始しています(2014/5/6 米国防総省)。
アメリカの反応
今回の南シナ海の情勢に対し、アメリカは早速国務省が声明を発表しています。
アメリカは中国を非難する姿勢を示していますが、中国もこの程度の反発は想定した上で行動しているでしょう。一方、フィリピンなどはアメリカがどこまで実質的に対応するのかを推し測っている面もあります。中比越それぞれがアメリカの動きを試すためのリトマス試験紙的な位置づけで今回の一連の小競り合いを利用するかもしれませんね。
多国間解決を嫌う中国
先月22日、各国の海軍高官が集う西太平洋海軍シンポジウムが開催されました。参加国は、オーストラリア、ブルネイ、カンボジア、カナダ、チリ、フランス、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、ニュージーランド、パプアニューギニア、ペルー、フィリピン、ロシア、トンガ、タイ、シンガポール、アメリカ、ベトナム(オブザーバーとしてバングラデシュ、インド、メキシコ)、そして主催国である中国の21カ国。ここで行われるはずだった合同演習に海上自衛隊が招待されなかったことが取り沙汰されましたが、実はこのシンポジウムでは、海上で他国艦艇と予期せず遭遇した場合の行動を定めた「海上衝突回避規範(CUES)」を合意していたのです(西太平洋海軍シンポジウム2014)。
ところが、「中国海軍の海上安全政策研究室主任である任筱峰(Ren Xiaofeng)大佐は、行動基準がいつ、どこで履行されるかについては、中国と、他の諸国(米国を含む)が2国間ベースで話し合わねばならない」(2014/4/24 ウォール・ストリート・ジャーナル)と述べ、紛争は多国間ではなく二国間で協議すべきという原則を貫こうとしています。「中国は、一国主義的に思考し、二国間主義的に問題を追及し、多国間主義的に振る舞う」。これは、モントレー国際関係大学院(Monterey Institute of International Studies)のジン・ドン・ユアン教授が中国の外交原理の核心として言い表した言葉ですが、今回のベトナムとフィリピンの件においても、中国はあくまでも二国間問題として処理するつもりです。どこでアメリカが強く出るのか、という点を中国も見定めようとしているのでしょう。カギはおそらく、「航行の自由」です。
南シナ海が中国の内海にならないでいること、それでいて東シナ海に中国の矛先が集中しないように紛争含みであることが、日本にとってみればちょうどよい状態です(ベトナムやフィリピンには悪いですが)。フィリピンやベトナムと合従政策をとりつつも、うまくオフショア・バランシングできるといいのですが、まあ、そんなに都合良くはいかないでしょうね(^_^;)
特に、この中で大きなアクターであるのは、中国、ベトナム、フィリピンです。
ここ数日、中国がベトナムとフィリピンを相手に小競り合いを起こし、事態がエスカレーションの危険性を帯びつつあります。ベトナムとは中国が西沙諸島で始めた石油掘削を巡って、フィリピンとは南沙諸島でウミガメ漁をしていた中国漁船をフィリピンが拿捕したことを巡って衝突していますね。
中国 vs ベトナム
南シナ海で中越艦船が衝突 石油掘削めぐり、6人負傷(2014/5/7 産経新聞)
【北京=川越一】中国が石油掘削を始めた南シナ海のパラセル(中国名・西沙)諸島近くの海域で7日、掘削を阻止するために派遣されたベトナム艦船と中国艦船が衝突した。ベトナム当局者によると、ベトナム側の船員6人が負傷、数隻が損傷した。AP通信などが伝えた。
ベトナムは沿岸警備隊(軍艦も?)を出動させているようですが、中国はすでに海警局など法執行機関だけでなく7隻の海軍艦艇が派遣され、計80隻余りの船が当該海域に展開しているとの現地報道もあります。
中国の海事局も5月3日にオイルリグ「海洋石油981(Haiyang Shiyou-981)」への出港許可を発行していることから、「中国領」である西沙諸島における石油採掘は国内法にのっとったものだ、といういつもの論法で押し通すと思われます。
ベトナムは当然これに反発しています。中国の石油採掘活動地点は、ベトナムの排他的経済水域(EEZ)内であり、中国側の行為は国際法に違反した行為であると非難しています。
中国の海上法執行機関船艇によるベトナム沿岸警備隊船艇への体当たりで、ベトナム側は2隻が損傷を受け、6名のけが人も出ている模様です。
中国 vs フィリピン
比、中国漁船を拿捕…ウミガメ350匹積む(2014/5/7 読売新聞)
【北京=牧野田亨】中国外務省の華春瑩(フアチュンイン)副報道局長は7日の定例記者会見で、中国漁船1隻が南シナ海の南沙諸島でフィリピン側に拿捕(だほ)されたことを明らかにした。
中国とフィリピンは南沙諸島の領有権を巡って激しく対立している。華副局長は「フィリピン側に抗議し、船と乗員の返還を求めた」と説明した上で、「二度と挑発的行動を取らないよう、改めて警告する」と述べた。中国は「海警局」の公船を現場海域に派遣しており、緊張が高まる可能性もある。
ロイター通信によると、フィリピン海上警察の巡視船が6日朝、南沙諸島のハーフ・ムーン(中国名・半月)礁沖で中国漁船を発見。350匹のウミガメを積んでおり、違法操業の疑いがあるとして、船とともに中国人の乗員11人を連行した。
こちらは歴史的経緯から見ていきたいと思います。
1991年、スービック海軍基地とクラーク空軍基地が返還され、米軍はフィリピンから撤退しました。1995 年、フィリピンが領有権を主張していたミスチーフ礁(中国名:美済礁)に中国が建造物を構築します。米軍撤退後のフィリピンには日本の海上保安庁のような強力な警察機構もなく、もちろん海上自衛隊のような能力をもつ組織はありませんでしたから、中国の行動を抑止することも対処する実力もありませんでした。中国はそのぽっかり空いた“力の真空”を衝き、今もミスチーフ礁において施設を拡充して軍隊を駐留させ、占領を続けています(過去記事)。
2012年4月からは、南シナ海・中沙諸島のスカボロー礁の領有権をめぐって、フィリピンは中国と小競り合いを続けていますね。すでに死者が出る事態にまで発展しています。現在、スカボロー礁では中国が駐屯施設の基礎工事を始めている模様ですので、すでにフィリピンの施政権が及ばなくなってしまっているとみられます。
つまり、米軍を追い出したフィリピンは抑止力を失い、中国の領土的野心を退けることができず、領土を奪われた歴史を持つのです。これは、日本にとっても他山の石とすべき出来事ではないでしょうか。
近年さらに海軍力を増強する中国の圧力を受け、フィリピンは再び米軍を呼び戻すことで対抗しようとします。中東からアジアへ回帰しようとする米軍の「リバランス」のタイミングということもあり、2012年にはパラワン島への米海兵隊のローテーション配備が決まりました(過去記事)。さらに米比両国は先月、ついにフィリピンへの米軍派遣拡大を図る新軍事協定に合意したのです(2014/4/28 時事通信)。フィリピンは最大で5か所の軍事基地へのアクセスを受け入れるという方針も明らかになっていますね。今月5日(16日まで)からは定例共同軍事演習「バリカタン」も開始しています(2014/5/6 米国防総省)。
アメリカの反応
今回の南シナ海の情勢に対し、アメリカは早速国務省が声明を発表しています。
米 南シナ海掘削を巡り中国を批判(2014/5/7 NHK)
中国とベトナムが領有権を争う南シナ海の西沙諸島の周辺で、中国が一方的に海底の掘削を進めているとして、ベトナムが抗議している問題で、アメリカ国務省の報道官は「中国の行為は挑発的だ」と批判し、掘削を中断して、対話を通じて解決するよう求めました。
ベトナム政府は、中国国有の石油会社が、今月から中国とベトナムが領有権を争う南シナ海の西沙諸島の周辺で海底の掘削を進めていると指摘し、現場海域はベトナムの排他的経済水域だとして強く反発しています。
これについて、アメリカ国務省のサキ報道官は6日の記者会見で、「中国の行為は挑発的であり、地域の平和と安定に役立たない」と述べ、中国を批判しました。
アメリカは中国を非難する姿勢を示していますが、中国もこの程度の反発は想定した上で行動しているでしょう。一方、フィリピンなどはアメリカがどこまで実質的に対応するのかを推し測っている面もあります。中比越それぞれがアメリカの動きを試すためのリトマス試験紙的な位置づけで今回の一連の小競り合いを利用するかもしれませんね。
多国間解決を嫌う中国
先月22日、各国の海軍高官が集う西太平洋海軍シンポジウムが開催されました。参加国は、オーストラリア、ブルネイ、カンボジア、カナダ、チリ、フランス、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、ニュージーランド、パプアニューギニア、ペルー、フィリピン、ロシア、トンガ、タイ、シンガポール、アメリカ、ベトナム(オブザーバーとしてバングラデシュ、インド、メキシコ)、そして主催国である中国の21カ国。ここで行われるはずだった合同演習に海上自衛隊が招待されなかったことが取り沙汰されましたが、実はこのシンポジウムでは、海上で他国艦艇と予期せず遭遇した場合の行動を定めた「海上衝突回避規範(CUES)」を合意していたのです(西太平洋海軍シンポジウム2014)。
ところが、「中国海軍の海上安全政策研究室主任である任筱峰(Ren Xiaofeng)大佐は、行動基準がいつ、どこで履行されるかについては、中国と、他の諸国(米国を含む)が2国間ベースで話し合わねばならない」(2014/4/24 ウォール・ストリート・ジャーナル)と述べ、紛争は多国間ではなく二国間で協議すべきという原則を貫こうとしています。「中国は、一国主義的に思考し、二国間主義的に問題を追及し、多国間主義的に振る舞う」。これは、モントレー国際関係大学院(Monterey Institute of International Studies)のジン・ドン・ユアン教授が中国の外交原理の核心として言い表した言葉ですが、今回のベトナムとフィリピンの件においても、中国はあくまでも二国間問題として処理するつもりです。どこでアメリカが強く出るのか、という点を中国も見定めようとしているのでしょう。カギはおそらく、「航行の自由」です。
南シナ海が中国の内海にならないでいること、それでいて東シナ海に中国の矛先が集中しないように紛争含みであることが、日本にとってみればちょうどよい状態です(ベトナムやフィリピンには悪いですが)。フィリピンやベトナムと合従政策をとりつつも、うまくオフショア・バランシングできるといいのですが、まあ、そんなに都合良くはいかないでしょうね(^_^;)
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