2ちゃんねるの広告代理・まとめブログのあっせんなどを行い、西村博之氏が取締役をつとめる未来検索ブラジル社(深水英一郎社長)が、書き込みの削除業務についても一翼を担っていたと思われることが、同社などが警視庁と大阪府警の捜査が違法・違憲だとして起こした損害賠償請求事件の資料を本紙が東京地裁で確認したところ、わかった。
この訴訟は、ブラジル社と、ネットメディア「ガジェット通信」を運営する東京産業新聞社(いずれも東京都渋谷区代々木二丁目16番1号宮坂甲斐街ビル)の入居フロア及び、西村博之氏の住民票上の住所および、第三者名義で契約された彼の住居とされる東京都渋谷区代々木に対していわゆる麻薬特例法違反などの容疑により行なわれた捜査が、憲法13条の保障するプライバシーの利益を具体化した刑事訴訟法の定めに反する等として、光伸法律事務所(こうしんほうりつじむしょ)の山下幸信弁護士を原告側代理人として、平成25年2月20日に提起された(訴状全文はこのガジェット通信のリンクのとおり)。
(警察の捜査に関して、日本のジャーナリズムがいかに公平性を失しているかについて論説する東京産業新聞社(深水英一郎社長)の記事例)
この中で同社らは、2ちゃんねるの運営と自社は無関係であり、自社らの被った憲法の保障するプライバシーの利益や、刑事訴訟法の手続きを満たさない違法な捜索差押によって損害を被ったと主張。また2ちゃんねるに関する広告代理店業務をしているが、運営を実質的に行なう等はしていないとしている。
これに対して、被告である警察(警視庁及び大阪府警の属する東京都及び大阪府から選任)の指定代理人らは、2ちゃんねるに書き込みをする際のモリタポの会員リストが、被疑事実の捜査に必要であったため必要性や相当性は認められたと反論。この訴訟で、具体的な捜索差押の態様について警察側が主張し、原告のブラジル社側も概ね認めたところによると、平成23年11月24日に、ブラジル社入居するビル6階の事務所へ対して、捜査の一部が開始された。
その中では、これまで多くの点が謎であったブラジル社員の担当業務が明らかになった。まず、経理担当が大輪郁氏で、経理補助業務にあたっていたのが河野久美子氏。その机上からはペーパーカンパニーではないかと国税当局から認定されたパケットモンスター社への海外送金に関する書類や、請求書などが押収された。さらにブラジル社の広告担当は宍戸恵美氏、宮原俊介氏および長田恒司氏で、彼らの証言を元に広告関係の物件を押収。
さらに、社員から「p2」及び「モリタポ」の関係書類等の所在を聴取した上で、鬼丸美穂氏の机上下からPCを差押えた。
それから、モリタポ関係のデータベースメンテナンス等を行なっている武松史智氏の机上から、PCを押収。更に「2ちゃんねるの削除ツール開発者で削除人統括をしている「削ジェンヌ」と削除ツールの修理の上でやり取りをしていたコンテンツ制作部の責任者上坂哲氏の机上からPCとハードディスク3セットずつそれに、サーバ構成資料1束」を差押た等とある。
2ちゃんねるで何が削除されるかの権限を握る「削除人」である「削ジェンヌ」については未だに不明な点が多いところ、裁判資料を見る限りは、削除ツールの開発も行なっていたことと、そのことについてブラジル社も同意していたこと、単なる広告代理店と主張していたブラジル社も削除と何らかの連絡を持っていたことが分かる。
加えて、同社の入居するビルの5階には同社の経理用コンピュータサーバとともに、ニコニコ生放送(同社が株式の19.9%を保有するニワンゴ社が親会社のドワンゴ社(東証一部上場)とともに運営)のスタジオがあったことも判明。5階に対しても警察官が立ち入りコンピュータが捜索差押を受けた。
加えて今までかなりの部分が不明確であった未来検索ブラジル社における、業務担当者とその職務内容が判明したのは、今後の貴重な情報源となる。(これはプライバシー侵害等を理由に損害賠償請求の裁判をブラジル社がしかけて、証拠の提出等をしてくれたおかげである。)
(マスコミによる情報の一方的なコントロールに対して苦言を述べるガジェット通信の記事より)
ただ裁判資料において、他の関係者については全て実名で語られているにもかかわらず「削ジェンヌ」についてのみは警察も「削ジェンヌ」としか記載できておらず、現在のところ表向きには、未だにその正体と削除人の仕組みが分かっていない。(しかし上坂氏と業務上の連絡を取っていることが判明したのは一つの前進かもしれない)またホットリンク社の行なう、有償の書き込み削除「風評被害バスターズ」と何らかの関係があるかどうかは、まだ完全には不明である。だが削除システムとその運用についてもブラジル社が関係していた場合には、2ちゃんねるで適切に削除がされなかった結果として損害を負った人の損害賠償請求を、ブラジル社も受ける可能性が今後ある。
しかしながら、ニコニコ動画のホームページを通じて30%の広告収入コミッションと引き換えに2chのまとめブログ(しばしばプライバシー侵害的な書き込みが拡散する)の運営を統括している同社の社員らは、プライバシーの利益について裁判で主張していくのならネット上での他人のプライバシーについても今までもう少しは気にしてくれてよかったのではないか。