2014年05月06日

電通や博報堂の中抜きについての議論をちょっと整理してみたくなった

なんか議論がかみ合ってない感があったので、ちょっと整理してみたい欲求に駆られました。長文なので興味がある方だけどうぞ。


はてな村定点観測所:電通と博報堂は丸投げで中抜きしかやらない
COPYWRITERSBLOG:本当に「電通と博報堂は丸投げで中抜きしかやらない」のか


先に、全然重要でないことから。私の認識では「中抜き」という言葉は「中間業者を排除して、消費者と生産者が直接取引すること」という意味だと思ってたんですが、お二人とも「消費者と生産者の間に複数業者が入って、生産者に渡る筈の収益を搾取すること」という意味で使われているように見受けられます。

辞書には前者しか載ってなかったり、後者も載ってたりって感じのようで、どうも日本語の変化による意味ぶれのように思います。簡単に検索してみると、最近は後者の意味の方が一般的になりつつあるんでしょうか。一応、この記事でも後者の意味で「中抜き」という言葉を使用することにします。


さて。まず、論点になりそうな部分を引用してみます。
では、電通や博報堂は何をしているのか。「丸投げ」と「中抜き」だ。時々、二次請けの会社に電通や博報堂の担当者が電話やメールで連絡を取って圧力を掛ける。あと、ナショナルクライアントから予算とスケジュールを取る最終決定を行う(その規模感は二次請けの会社が調整して提出する)。そしてプロジェクトを二次請け以降に丸投げして、予算を中抜きするのだ。
はてな村定点観測所:電通と博報堂は丸投げで中抜きしかやらない

俺の書き方の問題で、簡単そうに見えるかもしれません。実際にはかなり大変なことをやっています。大きなひとつのアイデアを決定するために何度打ち合わせするかわかりません。アイデアという正解のないものは、網羅的にべつの可能性を追求しないかぎり、確信をもった提案に昇華できないからです。
すべての進行管理だって、大変です。本当に。営業は、制作とクライアント、そして外注先の間を一日いったりきたり、月曜から金曜まで家に帰れないなんてことだってざらにあります。
COPYWRITERSBLOG:本当に「電通と博報堂は丸投げで中抜きしかやらない」のか

うん。

多分なのですが、前者のブログ様と後者のブログ様は、論点にしている部分、というか言いたいことが若干違うように思います。

はてな村定点観測所さんの論点は、乱暴に要約してしまうと以下のような形になるかと思います。

1.様々な大規模なプロジェクトが、博報堂や電通を一次請けとして発注されている。
2.だが、実際に制作の主体を担当しているのは二次請け・三次請けの業者であり、そこで一次請け業者である電通・博報堂による中間搾取が発生している。
3.その例として「チーム・マイナス6%」を提示、「チーム・マイナス6%」が失敗プロジェクトであることを示唆。
4.このような孫請け体制は間違っているのではないか、という結論。


大きく間違っていたらご指摘ください。

一方、COPYWRITERSBLOGさんは、これに対して

1.一次請けとなっている博報堂が、実際にはどんなタスクを受け持っているのかを、クールビズの普及といった成果も附記しつつ例示
2.博報堂のタスクも大変であり、「丸投げで中抜きしかやらない」という言葉は当たらない、と批判
3.具体的な業務のレベルにおける改善点の存在を示唆


といったテキストを書かれているように思います。

こうしてみると分かるのですが、恐らく、「はてな村定点観測所」さんが「一次請け・二次請けという体制自体の批判」を主眼にされているのに対して、「COPYWRITERSBLOG」さんは「丸投げという言葉に対する批判→一次請けも決して楽な仕事ではないということ」という論を展開されているように見えるのですね。

これ、言いたいことがすれ違ってるんじゃないかと。


一つ言えることは、「「一次請けが大変かどうか」という話と、「一次請け・二次請け・三次請けの公平性・中間搾取の構図の良し悪し」という話は全然別の話であっていっしょくたには議論出来ない」ということだと思うのです。


その上で個別の話をすると。

まず、「一次請け・上流工程が楽な訳ではない」というのは、一般論として正しいと思います。

勿論「プロジェクト全体の内、どこまでを投げるか」にもよるのですが、一般的に考えて、

・プロジェクト自体の方向性決定
・タスクの大枠決定
・二次請けに投げるとして、提案依頼書の作成と業者選定
・業者間にまたがる全体的なプロジェクトのディレクション
・プロジェクト全体のスケジュール管理
・プロジェクトの成功に対して責任を負う主体


くらいは最低限一次請けの仕事になるでしょう。というか現実問題、この辺が出来ていないとそもそも二次請け業者が仕事を請けられません(まあ、世の中にはこういうことをしない一次請け業者もあるのかも知れず、はてな村定点観測所さんはそこまで含意されているのかも知れないですが)

で、COPYWRITERSBLOGさんのテキストを読むと、加えて

・スローガンやコピーの作成
・それに伴うマーケティング

といったこともやられている様です。

はてな村定点観測所さんが提示されていますが、博報堂作成の環境省向けの提案書、これだって結構凄いと思いますよ。データとって、論点整理して、スケジュール引いて、全部で243ページ書いてる。数日で鼻歌歌いながら出来る資料じゃないと思います。これだけの資料作れる人たちが、プロジェクトが始まった後マインスイーパーとソリティアしかしてない、という構図もちょっと想像しにくい。


そういう点では、「はてな村定点観測所」さんの「丸投げ」という言葉は、少なくとも「そのまま業務委託して実際のタスクは何もしない」という意味では当たらないと言っていいんじゃないかと思います。



で。恐らくなのですが、上記のような話は、「はてな村定点観測所」さんが主眼にしている点とはかみ合いません。「はてな村定点観測所」さんにしてみれば、「枝葉末節」と言いたい部分なのではないか、と邪推します。

何故かと言うと、結論の
私の会社では、このメディアレップの中抜きと丸投げの構造を破壊して、企業の資金や税金が適性に運用される世界を目指している。
などから読み取れる限り、「はてな村定点観測所」さんの論旨は、「現状の体制・構造自体が間違っている」という点だからです。博報堂がちゃんと仕事しているかどうかは、その材料でこそあれ、主要な論旨ではない。

一次請け業者と、二次請け・三次請け業者の不公平性や、実際のタスク配分についての議論というのは、頻繁に取沙汰される話です。実際に、得られる利益を考えれば、孫請け体制は不公平なのかも知れません。実際の制作をプロジェクトの中核と考えれば、一次請け業者は不当な利益を搾取しているのかも知れません。


ただ、それを汲んだ上でも、「はてな村定点観測所」さんの論旨には若干の無理が生じているようには思います。


結論として

・現在の一次請けから孫請けの体制は間違っている→一次請け業者がいなくなり、制作会社が直接利益を得られる体制が必要」

という内容を導くとすれば、その為には下記のような前提を敷くことが必要かと思われます。

・一次業者は不要であり、存在しなくても上手くいく・存在しない方が上手くいく、という根拠
・現在の三次請け業者が、上位の業者がいなくても単独でプロジェクトを回せる、という根拠


それに対して、「はてな村定点観測所」さんは、「チーム・マイナス6%」が失敗プロジェクトであることを大きな根拠にしているように見受けられます。

が、これが難しいところで。

「チーム・マイナス6%」をどう評価するかはまた別問題ですが、仮に「チーム・マイナス6%」が失敗プロジェクトだったとしても、それが「一次業者がいない方が上手くいく」根拠にはなりませんし、「三次請け業者だけでプロジェクトが達成できる」という根拠にもなりません。

プロジェクト単体を見れば失敗も成功もあります。ただ、一つの失敗が他の成功を0に戻す訳ではない道理で、「枠組みの良し悪し」を論じるなら、「じゃあその他の案件はどうなの?」ないし、「けど、こういうやり方してれば上手くいったよね?」という論が必要です。

仮に「時々、二次請けの会社に電通や博報堂の担当者が電話やメールで連絡を取って圧力を掛ける。」という記載が事実だったとして、「じゃあ、それはない方がいいの?」という話が論になっていないのです。


個人的には、COPYWRITERSBLOGさんの論を無しで考えたとしても、「電通や博報堂がいなくても/いない方が上手くいく」というテキストには首傾せざるを得ません。勿論、上手くいく案件も失敗する案件もあるのだろうし、優秀な人もそうでない人もいるのだろうとは思いますが、小規模な会社が大規模なプロジェクトを請け負う際のリスクや大変さは言うに及ばず、結局全体のディレクションをする主体は必要になるからです。クライアントがそれを行えないとすれば、一次請け業者がどうしても必要になってしまう道理です。いや、実際のところ、リスクとってプロジェクト全体の責任とってくれる業者って大事だと思いますよ。

上記のようなことをつらつら考えるに、私自身のスタンスは、「一般論としてはCOPYWRITERSBLOGさんに賛同」「体制について議論するなら、「はてな村定点観測所」さんの補足が欲しいなあ」というようなところに落ち着きそうです。


両ブログ様の今後の発展をお祈り申し上げます。


今日書きたいことはそれくらいです。
posted by しんざき at 16:49 | Comment(0) | TrackBack(0) | 雑文 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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