「ゆがんだプラスチック」の時代がやってきた!
■ゆがんだプラスチック=「ポカスチック」
昨年の夏、明和電機も3Dプリンターを導入しました。それまでは、 「モノづくりは自分の手を動かすことが大事や!ヤスリでガシガシ削るから素材の心がわかるんや!それがフェティシズムや!3Dプリンターとかいう、手を動かさずに寝とる間にモノをこさえる道具なんて、女に触れずに女を語るようなもんや!」 と、「3Dプリンター、いらんわー派」として、いきり立っておりましたが、いざ工場に導入してみると、もーこれが便利。なんてったって、寝とる間にモノをこさえてくれますから。 * 1869年にアメリカで最初のプラスチック「セルロイド」が発明され、徐々に庶民に普及し始めたのは1900年代前半。それまで高価な鼈甲や象牙の変わりの調度品として、また家庭内では割れやすい陶器の変わりとして、そして戦後はさまざまな工業製品の素材として普及していきました。 当たりまえですが、こうしたプラスチック製品はすべて「工場」で大量生産されています。金型と呼ばれる削り出した金属の「メス型」に、溶けたプラスチックを押し込んでカタチを作る。ひとつのプラスチック製品ができるには、「プロフェッショナル」な金型職人や、「プロフェッショナル」な工業デザイナーや、「プロフェッショナル」な産業機械が関わります。 そのため、生まれるプラスチック製品はすべて「プロフェッショナル」。抜け勾配を計算した流れるような曲線。つるっつるの表面処理。洗練された機能美の形。ばっちり完成度のある製品になります。人々は、ここ100年間ぐらい、プラスチックはそれが当たりまえと思ってきました。 と、こ、ろ、がです。現在の3Dプリンターは、まだまだ開発途中の「アマチュア」な装置です。たとえば「小人の靴屋」のように、「3Dプリンター様、どうか夜中じゅうがんばって働いて、朝にはすてきな部品を出力しててください!」と拝んで工場から帰っても、翌朝、ぐちゃぐちゃに出力された絶望的な部品を目撃し、アゴが床に突き刺さることがよくあります。 そうした機械をさらに「アマチュアな人々」が操作するわけなので、とうぜん出力を失敗したり、造形がゆるーい「ゆがんだプラスチック」がどんどん世界中で生まれます。これから3Dプリンターが家庭にどんどん普及し、お正月にお父さんが「どれ、年賀状を印刷したから、つぎは玄関の干支でも、3Dプリンターでつくるかな」という状況になればなるほど、「ゆがんだプラスチック」は巷にあふれることになります。 つまり、21世紀になってはじめて人類は、大量の「ゆがんだプラスチック」たちに直面することになったわけです。これらを「失敗=ポカ」で生まれたプラスチックですから、「ポカスチック」と呼ぶことにしましょう。
■茶の湯とポカスチック
明和電機のアトリエでも、製品開発のためにガンガン3Dプリンターを使っていますが、ひとつの部品を作るのに、試作や失敗などの大量「ポカスチック」が生まれます。あるとき、射出に失敗して、絡まった糸のようになったポカスチックをごみ箱に捨てていたら、たまたま遊びにきていた絵描きの友人がそれを見つけ、「こ、こ、これはおもしろいテクスチャーだ!絵に貼り付けたいからもらってもいいすか?」と目を輝かせました。これには驚きました。 「・・・僕がゴミだと思っていたポカスチックに、彼は美的な価値を見出している。これは、かつてゴミとして捨てられ、地面に埋まっていた陶器に“侘び寂び”の美を見出した、茶の湯と同じではないか!まさに“見立て”の世界だ!」 このことに気づいた瞬間、その友人が「千利休」に見えましたね。 それまで僕は、巷に「ポカスチック」があふれることを嘆いていました。しかし、見方を変えれば、これまで100年以上プロフェッショナルで「完璧」だった工業製品のプラスチックに「ゆがみ」が生まれたことで、その中に美を感じるあたらしい「モノの見方」が生まれるかもしれないわけです。 * おそらく現在の3Dプリンターは、今後は技術が進歩していき、「失敗せず、高精度な」なものへと進化していくでしょう。つまり「ゆがみ」は消えていくわけです。とすれば、30年後にはもしかすると「2010年代の3Dプリンターが出す、ガタガタの表面はよかった、今のマシンじゃ出せない味わいだ」と、”ビンテージ3Dプリンター”を愛でるおじいちゃんみたいな人が出てくるんだじゃないでしょうか。まるでムアナログシンセのように。いやいやそうに決まってます。技術の進歩とは“変化”であって、その時代ごとのテクノロジーは、その時代では完璧であり、ノスタルジーはファンタジーと隣アワセなのだから・・・ と、こんなことを想像していると、ごみ箱の中の「ポカスチック」たち、がなんだか宝物のように思えてきて、とりあえず「ポカスチック箱」と書いた段ボール箱を作り、保存しておくことにしました。本当にゴミになるかもしれませんが。 * さて、そんな明和電機の3Dプリンターも駆使した展覧会が、現在開催中です。 「明和電機 EDELWEISS展」 4月19日(土)〜6月1日(日) 9:30〜16:30(入館は16:00まで) 休館日/月曜日 ※月曜日休館(ただし、5月5日(祝・月)は開館) 市川市芳澤ガーデンギャラリー 千葉県市川市真間5-1-18