(テーマ音楽)
(出囃子)
(拍手)
(拍手)
(三遊亭圓輔)ご来場で御礼を申し上げます。
私事で恐縮ですが若い時分はよく顔にニキビなんてのができましたな。
目にはものもらいなんてのがよく出たもんですけれども近頃年とると出来もんもできなくなってきますね。
ところが久しぶりにこの間おできができました。
できた場所が顔ってんじゃありませんでねこのお尻ってぇ所へ出ましてねどうもこのお尻ってぇものは自分の目で確かめるってぇ訳にはいかない場所ですな。
昔から「明日の天気をお尻に問えば私ゃ空見た事がない」って場所ですからね。
まぁしかたがありませんから鏡に映してみようと思いましたな。
誰もいなくなってから鏡台をパッとまくって自分のほうもクルッとまくりましてこういう具合に出して見た。
するともう真っ赤に腫れてる。
真ん中はポツンと黄色くなっちゃってる。
「あっこれはいけない」と思いましてね吸い出し膏というのがあったんでこれを鏡と相談しながらうまい具合にペタ〜ンと貼っといた。
で「これで安心だ」なんて思ってましたらそこへ家内が帰ってきまして「あんたじゃないの?鏡台に膏薬おっ貼ったのは」。
なんて。
(笑い)我ながらあきれ返ったような次第でありますけれども。
しかしこれで話は変わりますが近頃は由緒ある町名を勝手に変えちゃうなんていう風潮がありますな。
昔は下谷稲荷町なんてぇまして地下鉄の駅には稲荷町てぇのはございますけれども今はもうあの辺りをですな東上野って言うんですね。
ですから昔は稲荷町には我々の大先輩で林家彦六という師匠がいらっしゃいましたがね舞台にこう出て参りますと「待ってました稲荷町」なんてんでええ粋が良かったんですな。
ええ。
ところが今だったらそうはいきませんな。
「待ってました東上野三丁目」なんてんじゃねどうも気合いが入りませんけれども。
それと同じようでありまして雷門から北へ向かいまして南千住へ参りますちょっと手前に昔は新町と書いて新町という場所がございました。
この新町には大変どうも太鼓屋さんが多かったんだそうですな。
で太鼓というのはどなたもご案内のとおりあれはみんな馬の革でこしらえますよね太鼓は馬の革。
それから「たいこ」と言いますと我々のほうでは幇間たいこもちの皆さん方を一口に「幇間」とこう申します。
でどうしてこんな事を言うかってぇとこれからやる落語にはですね落ちがついてますけれどもでもいきなり落ちを聞いても分からない場合がありますのでね。
今日お集まりのお客様はみんなご通家ですからそんな事はございませんがこれがどうも先行ってねテレビでもって流された時にはですな初めて聞くお客さんが多い訳ですからちょっと申し上げますけれどもこの新町という町名とそれから「太鼓は馬の革でこしらえる」という事それと「たいこ」は幇間というこの3つをですねちょっとお耳に入れといて頂きまして今日はさげまでおつきあいを願っておきますが。
(戸を叩く音のまね)「先生〜開けてくれ〜開けてくれ開けてくれ」。
「はいはい。
どなたじゃな?お声の様子ではご隣家の八っつぁんか?」。
「ご隣家の八っつぁん今お目覚めの八っつぁんだい。
開けてくれ開けてくれ」。
「はいはい。
そうむやみに叩いたでは戸が弱だから壊れてしまう。
今開けてやるというのにそうむやみに叩いたでは…。
痛いな」。
「何だお前はんの頭かい?こっちがドンドン叩いてるところをいきなりス〜ッと開けるからはずみでスポッといっちまったんだよ。
どうも戸にしちゃ軟らけえと思った」。
「戸と私の頭を一緒にする人がありますか。
早朝から何事じゃな?」。
「ケヘッ早朝もまな板もないよ本当に。
いいから先生私に黙って1円おくれ」。
「いや。
謂われの無い金は1円はおろか1銭たりとも出す訳にはいかん」。
「何を。
『謂われの無え金は1円はおろか1銭たりとも出す訳にはいかねえ』?ヘ〜ンどこを押しゃそんな音が出るんだよ。
お前はんは私に昨日何つったい?『八公や。
今日は向島で魚釣ってくるから晩飯食わずに待ってろ』つったね。
私は待ってたよ待てど暮らせど帰ってきやしねえじゃねえか。
それからこっちは待ちくたびれちまったんで寝酒飲んでゴロッと横になる。
夜中寒いんでフッと目を覚ましてみるとこの長屋でもって男と女の話し声。
『はてね?この長屋はみんな独り者女の声はする訳はないがな』と耳をそば立ててみるってぇとこれがお前はん所だよ。
それから私はね商売物の鑿でもって壁に穴開けて…」。
「お前さんかい?あんな大きな穴開けちゃったのは」。
「お前さんかじゃないよ覗いてみるてぇとこれが御前別嬪いい女だったね〜。
そうだね色の白いところをとおり超えてちょいとこうなんだね〜青みがかってたけれどもね年の頃ならあれで16〜18かな」。
「何だ?」。
「年の頃なら16〜18」。
「そりゃお前さん数とりが言いにくくないかい?それを言うなら17〜18だ。
7が抜けてるよ」。
「エヘッ。
7
(質)は先月流れた」。
「何を言っている」。
「どこからあんないい女引っ張り込むんだよ。
お前はんふだんからそう言ってるじゃねえか。
『私ゃ聖人じゃよ。
世を去っている。
婦人は近づけぬ』かなんか言ってるくせにどうもああいう女を引きずり込んでるとは思わなかったなどうも本当に。
この先生てぇ者は憎いね。
私ゃつねるよ殴るよひっかく…」。
「おいおい。
何をする。
いや昨晩のあれの一件をご覧かい?」。
「いや。
ご覧かいも博覧会もないよこっちはご覧過ぎちゃってんだから。
隣の部屋には独り者が鎮座ましましてんだもっとお手柔らかに願いてぇねお手柔らかに」。
「いやご覧になったとあれば話をしてあげよう。
しかしな昨晩のあの一件を話すとなるとこりゃちょいと話が陰気になるがな」。
「陰気になるってなんですかい?れきでも出そうてんですかい?ひとつなるべくこう陽気に願います」。
「まぁ実は八っつぁん昨晩のあの女というのはだねまぁこういう訳だよ」。
「あっそういう訳」。
「まだ何も言ってねえだろ」。
「どうも聞こえねえと思いましたがねどういう訳なんです?」。
「お前さんも知ってのとおりこの私は釣り好きだ」。
「そうなんだよお前はんが釣り好きだってぇ事は近所で評判。
お前はんは私をひごい
(緋鯉)目に遭わせたな?」。
「魚尽くしできたな。
まぁ昨日も昨日とて釣り竿を肩に向島の土手まで出てみたらな間日とでも言おうか雑魚の子一匹掛からない。
このような日は天が『殺生してはいかん』という戒めでもあろうかと日も西山に傾いたで釣り竿に糸を巻きつけているとな金龍山浅草寺で打ち出す暮れ六ツの鐘が陰に籠もってものすごくゴ〜ンと鳴ったな」。
「へえ。
ここで鐘が鳴るんで?」。
「うん。
四方の山々雪解けかけて水嵩勝る大川の上げ潮水波ザブ〜リザブリと岸辺を洗う波の音ものすごいな」。
「へえ。
すごうかすね」。
「するとな後ろに生い茂っている葭が風もないのにガサガサガサガサ…」。
「ちょいと待ってよ先生。
嫌だなどうも。
下手な講釈じゃねえんですからね変に話を陰気に締めねえでひとつ陽気に願いますよ。
私はどうも見た目は意気地が無えように見えるでしょ?これがいざとなるてぇとこれが案外意気地が無えんです」。
「同じだ」。
「そうなんですよ。
ですからねひとつ陽気に願います」。
「こんな気味の悪い事はないな。
人間であるか犬であるかただガサガサガサガサ。
するとね葭の間からヒュ〜ッと出た」。
「おやっ」。
「エヘヘえ〜出ましたか?」。
「何だい?お前さん。
そこでやけに跳んだな?」。
「跳ぶんだよ私は。
もう怖いなと思うとヒョイと跳ぶの。
オホホ。
跳ぶのが一番」。
「何を言っている。
どうでもいいが私の紙入れ置いといたの知らないか?」。
「エエ〜ッ?」。
「いや紙入れを知らないかよ?」。
「アハハ見つかったか」。
「見つかったじゃない。
こっちへ出しなさい」。
「いやどうもね私は怖えなと思うとヒョイッと跳んだあとね何か拾って懐に入れねえてぇと気持ちが落ち着かねえんだよ。
エヘヘウウ〜ッ」。
「落ち着かないったってお前さんねやたらに物を拾われちゃたまらないよ。
お前さんだろ?この間柱に時計が落っこってましたなんて嫌だよ本当に」。
「アハハ悔しいけどそっちへ返そう」。
「何が悔しい」。
「何が出ました?」。
「つまらん物だなカラスが1羽出た」。
「嫌だよ先生はカラス1羽出すのに何も変にそのね鐘なんぞを鳴らしなさんな。
あ〜驚いた。
こっちは急所が上がったり下がったりしちゃった。
それからどうした?」。
「そんな話の乱暴な。
塒に帰るカラスにしてはちと刻限が早すぎると私ももの好き。
葭をかき分けて中へ入ってみるとなそこに生々とした髑髏があったな」。
「ええ〜知ってますなんでしょ?唐傘の壊れたやつ」。
「それは轆轤だよ。
屍だ」。
「あっ鹿鍋かい?」。
「分からない人だね人骨野ざらしがあった」。
「何です?」。
「人骨野ざらしだよ」。
「あ〜あ〜人骨野ざらしね。
な〜んだそうか。
何があったかと思えばつまらねえ物がありやがったね。
人骨野ざらしかな〜んだそうか。
で人骨野ざらしってぇのは何です?」。
「分からないで相づちを打っていちゃ困るぞ。
水死仏があった。
いずくの方か知らぬが斯く屍をさらしているのは不憫と思いそこで私は回向をしてやったな」。
「あっ猫がどうかなった?」。
「いや。
猫じゃないよ。
手向けたんだ」。
「あっ狸がどうかしたの?」。
「分からない人だねこの人は。
うまくはないが手向けの句『野を肥やす骨に形見の薄かな』。
『生者必滅会者定離頓証菩提南無阿弥陀仏南無弥陀仏』と三遍の回向。
腰に残っている瓢の酒を骨にかけてやるとな気のせいか骨にポ〜ッと赤みがさしたで『あ〜これはいい功徳をした』と思い家へ帰って寝酒を飲む。
真夜中するとねまたまた金龍山浅草寺が打ち出す鐘。
陰に籠もって…」。
「ちょいと待ったちょいと」。
「何だ?」。
「何だじゃないよ先生は。
そこでもってお前はんなんだろ?籠もるんだろ?」。
「はばかりさま」。
「そうだよ。
お前はんがそこで『陰に』ってぇとそのあと必ず籠もるからもうそろそろ籠もるんじゃねえかと思ってこっちは口開いて待ってたんだチクショウメ。
こっちが籠もっちまって籠もり損なったろうざまぁみろ」。
「何がざまぁみろ」。
「じゃあそこのところをね私にやらせて下さいな。
もっと陽気にやりますから。
ね?金龍山浅草寺の鐘がゴ〜ンと鳴ったんでしょう?ね〜?上野の鐘は金が入っているから音がいいよ。
コ〜ウォ〜ンと響くね。
芝増上寺の鐘は音を半分海に取られちまうから音が悪いね。
グワ〜ンワ〜ンワ〜ンときますね。
ニコライの鐘がキンコンカン。
馬車がガランガランガラ〜ン。
号外屋がチリンチリンチリ〜ンと」。
・「へ〜えぇ鐘をゴンゴンカンカン叩いて仏になるならば」・「時計屋の周りは軒並み仏にぃ〜」・「なるであろチャカランチャンスチャラカチャンと」・「チャカランチャンスッチャンチャンと」「どこか行こうか?」。
「何だい?どうも騒々しい男だねこの男は」。
「それからどうしました?」。
「トントントンと雨戸を叩く音だ。
『どなたでござる?』と聞くと『向島から参りました』という婦人の声。
『はてね?向島に親戚知人は無しさては昼間回向してやったるがかえって害となり狐狸妖怪の類でもたぶらかしに参ったか』とそこは私も年はとっても尾形清十郎も武士の端くれ」。
「そうだってねお前はんなんだってね元ぶしだったんだってね?」。
「そうだよ」。
「ぶしでしょ?」。
「そうさ」。
「浪花節?」。
「浪花節ってぇ奴があるかい。
それを言うなら私は元族の出だ」。
「それだよ。
長屋の連中みんなそう言ってるよ。
『あの尾形のね旦那ってぇのは今ではああやって尾羽打ち枯らしちゃってるけれどあれでも元はぞくだった』なんてお前はんぞくだったんだってね?」。
「また変な言い方するなぁ。
何だ?その『ぞくだったんだってね』ってのは」。
「いやだからさぁ山賊だろう?」。
「山賊って奴があるかい。
それを言うなら私は元士族だ」。
「あっ『しぞく』ですか。
あっなんだ。
じゃあ1足多いんだ」。
「何を言っている」。
「それからどうしました?」。
「お前さんね私はね民謡やってんじゃないよ。
さっきから『どうした?それからどうした?それからどうした?』って。
ええ?」。
「だからさぁそれからどうしたんですよ?」。
「ウ〜ン。
長押に掛かった槍を小脇にかい込むてぇと…」。
「ちょいと待ってよ先生。
何ですよ?長押に槍ったってお前はん所に長押なんざ無えでしょ?」。
「うん。
無いよ。
無いから昨晩はな箒を小脇だ」。
「箒かい」。
「うん。
これを小脇にツカツカツカ」。
「また言う事は大仰だよ本当に。
お前はん所はそのツカツカツカってほど広くはないよ。
ツカってぇと表へ飛び出しちゃうんだから。
ツカツカってぇば溝へ落っこちっちゃう」。
「またそういう事を言う。
ガラリ戸を開けて身構える。
乱菊や狐にもせよこの姿見ぬようにして目につく緋縮緬頭はてぇと文金の高島田に裾模様。
白魚を5本並べたような手をついて『私は昼間向島から参りました者。
あなた様の功徳により浮かぶ事ができました。
お礼に参じました』と言われたがねもうこの私も68だ。
身に色気はありませんがね言われるままに足腰をさすってもらい四方山の話。
実は八っあんあの昨晩の女というのはだねこの世の者ではないんだよ」。
「ヘエ〜ッするてぇとあの世の者?」。
「あの世の者てぇのもおかしいがな霊魂だな」。
「ヘエ〜ッ。
でもなんだね〜ええ?幽霊にしてもお化けにしても私はああいう別嬪なら怖くねえね。
お前はんふだんからどうも向島へ行ってハゼを釣るの鮒釣るなんつってるけれどもああいう別嬪を一人で釣ってるとは思わなかったなどうも。
よ〜し私もね今日から釣りやろう」。
「釣りやろうってお前さんは釣りはお嫌い」。
「お嫌いもこきらいもないよ。
じゃあほらさっきの狸の句ってぇの教えて下さいな」。
「狸じゃないよ手向けの句。
これはまぁ胆から出た事でないてぇといけないがな。
『野を肥やす骨に形見の薄かな』。
『生者必滅会者定離頓証菩提南無阿弥陀仏南無弥陀仏』」。
「それそれ。
『その事袷と単衣物。
浴衣の古いの糠袋』ときやがらぁ。
じゃあ先生この竿借りてくよ」。
「おいちょいとお待ちよ。
それは私がな大事に使ってる竿だ。
狂わされると困るんでな」。
「てやんだい。
折ったら買って返すよ。
けちけちするない借りてくよ」なんてんでのんきな人があるもんでね。
話半分に聞きますと途中馬道へ寄りましていくらかの酒を腰にぶら下げるてぇと向島の土手へやって参りましたがもう釣りのお好きなご連中土手下ではズラ〜ッと太公望を決めておりまして。
「おや?何だい?おい俺が早いと思ったらまだ早い奴ら来てるんだね。
こいつらみんな骨釣りに来やがったんだな油断も隙もならねえねどうも。
ウワ〜イそこじゃ何釣ってんだ?何を。
新造か?年増か〜?乳母さんか?子守りっ子か?泡くっておかまなんぞを釣るな。
ウワ〜イ」。
「土手に変な人が来ましたよ。
何だか目が血走ってますがね。
『新造か?年増か?乳母さんか?子守りっ子か?泡くっておかまなんぞを釣るな』なんつってますがあなたあちら…?いえ。
私知りませんがな。
あの〜ハゼをやってますがな」。
「何を?」。
「いえハゼを釣ってます」。
「何を言ってやんでぇ。
図々しい事を言うなよ。
お前なんざハゼなんぞを釣る柄じゃねえぞチクショウメ。
首でも吊りやがれ本当に。
じゃあそこん所を割り込むぞ。
ほら」。
・「チャカランチャンスチャラカチャンと」・「チャカランチャンスッチャンチャンと」「ウワ〜イ」。
「下りてきましたよ。
えらい人と口きいちゃったなどうも。
あなたもう少しそっちへ寄って」。
「退いてくれ退いてくれ退いてくれ本当に。
な〜。
お前たちばかりの川じゃねえや。
みんなの川じゃねえか本当に。
な?こっちは後から来て先に釣っちまうから悪く思うなよ。
『隅田川さえ棹差しゃ届く』ってね」。
・「え〜なぜに〜届かぬ」我が思い」「ときやがった本当に。
フウ〜ッ。
何だい?おい随分長え糸だなこりゃどうも。
さぁいらっしゃい。
さぁおいでなさいよ。
お待ちかねですからね。
ウ〜ンウ〜ンウ〜ンウ〜ン」。
「ハハッ唸ってますよあちらてぇ者は。
釣りをしてるようじゃありませんなええ。
もう湯に入ってるようだ。
それはいいですけれどもね針に餌付けないで放り込んじゃいましたがね。
もしあなた。
いや拝見してましたら針に餌がなかったようですがな」。
「何を?」。
「いえあの〜ここは引っ掛け釣りじゃありませんから餌がないってぇと釣れっこありませんよ」。
「何を言ってやんでぇ素人。
釣れっこもままっこもあるかってんだい。
こっちは鐘がゴ〜ンとくるのを待ってんだい。
な〜」。
・「鐘がゴ〜ンと鳴りゃさてんだ」・「上げ潮水波さ」・「カラスがパッと出りゃコラサノサ〜エ」・「骨があるサイサイサイと」・「ハッスチャラカチャンときたスチャラカチャン」「おい。
駄目だよあなた。
そうねむやみにその…。
第一お騒ぎになると今魚が寄ってるとこなんですから魚が逃げちゃうんですがな」。
「何を?魚が逃げます?何を言ってやんだい。
陸で喋ってる人間の言葉が水の中の魚に聞こえるかよ?『聞こえます』?そりゃ初耳。
じゃあ見せろぃその魚の耳を。
何を言ってやんだい。
人間の言葉が魚に分かってたまるかてんだよ本当に。
な〜」。
・「そのまた骨にとさ酒をばかけりゃさ」・「骨がべべ着てコリャサノサ」・「礼に来るサイサイサイと」・「ハッスチャラカチャンときたスチャラカチャン」「駄目だよあなたそうむやみにかき回しちゃ」。
「うるせえねこいつは。
さっきからつべこべつべこべ。
誰がかき回したよ?お前の国じゃこういうのをかき回すってぇのか?これは叩くってんだこれは。
な〜?突っつくってぇのはこうやるの。
かき回すってぇのはこう持ってこうやるの」。
「あらっ本当にかき回しちゃったよ」。
「何でもいいから早いところ出てきておくれよ。
昨日先生の所へ来たのはちょっと年が若すぎるよな。
やっぱりこっちは27〜28から30凸凹。
ちょいとおつなね年増の骨に来てもらいたいね。
どんなのが出てくるんだろうな?ええ?粋な駒下駄を素足で履いてカラコンカラコンカラコンカラコンなんてやって来るだろうね。
こんな所から声出して『こんばんは』」。
(笑い)「『おこんばんは』」。
「何だい?今度は声色が始まりましたよ。
こりゃ釣りをしてるよりあちら見てた方が面白そうですな」。
「『誰だ?』。
『向島から来たの』。
『じゃあ待ってたんだよ。
こっち上がっとくれ』。
『でも私が上がると他に角を出す女の人でもいるんじゃなくって?』。
『そんな者はいるもんかい。
こっちは独り者だい。
いいからこっちへお入りよ』。
『まあ〜うれしいわ〜』なんてやってね骨がツ〜ッと座敷へ上がってきて俺の傍へペタッと座るね」。
「あっとうとう水っ溜まりへ座っちゃいましたよ。
よほどここがいかれてるようですな」。
「『でもさお前さんも様子がいいから随分なんでしょ?他の女の人が騒ぐでしょ?本当に』。
『冗談言うなよ。
俺はお前てぇ者ができたら他に女はいねえもんだと思う』。
『そんなうまい事言ってその口でもって随分女の人に罪作ってんでしょ?憎い口だよこの口は。
もうお仕置きをしてやろうかしら。
お仕置き』」。
「痛い痛い痛い痛い。
痛えな本当にまあ〜。
何だって他人の頬っぺたつねるんだよ?」。
「何言ってやんでぇ。
そんな所へ顔置いとくから悪いんだよ。
こっちは今夫婦喧嘩になるかならねえの境じゃねえか。
本当に。
な〜。
『でお前さんてさ男だから月のうち一晩二晩家空けるのは構わないけれども我慢してやるけど毎晩毎晩空けたら私ゃ承知しないよ。
そんな事したら私ゃくすぐるから』なんてやったの。
くすぐるってな困るよな。
防ぎようが無えからね。
『コチョコチョコチョット』。
『くすぐったい』。
『コチョコチョコチョッ』。
『駄目だよそんな所やって』。
『コチョコチョコチョッ』。
『くすぐったいくすぐった〜い』」。
「踊りだしちゃいましたよあちらは」。
「『でもさそんな事を考えると私はどうしてお前さんみたいのに惚れちゃったんだろう?もううれしいんだか悲しいんだか我が身で我が身が分からないよ。
痛えっ』」。
(笑い)「何だってこんな所へ針が引っ掛かちゃうだよ?ゲラゲラ笑ってやがんな。
取ってくれたって…。
ウ〜ン頼まねえや〜いチクショウメ。
ヤ〜イッ。
おお〜痛え。
あっ何だ血が出てきやがったね。
骨を釣るのに針は邪魔だな。
こんな物要るもんかい。
さあ〜来い」。
「あの人針なしで釣っている」。
「あっおかわが流れてきやがったな」。
・「おかわ引き寄〜せさと」「今度おまるを引き寄せてますよ」。
・「中の水コラサノヤ〜ット」「アハハおかわの水かぶって逃げだしやがったエヘヘ。
なまじね『世に連れは邪魔』てぇけど本当だよな。
オオ〜ッ慌ててまあ〜弁当箱忘れていきやがったな。
何が入ってるか見てやれ。
おやっ。
これはなんだよねええ?焼き豆腐の煮つけにこっちは何だ?あっ油揚げだ。
このおかずからするてえとあいつはあんまり近所の奴じゃないね豆腐
(遠く)の奴だな。
油揚げ
(危なげ)のねえうちに帰りやがったんだい。
こうなるとてぇとちょいとねゴチになりたくなるねエヘヘ。
どういう焼き豆腐だかひとつ頂こうじゃねえかアハハ。
うん」。
「こらぁなかなかうめえやアハハ。
こうなるてぇとね骨が釣れて顎は向こう持ちってんだからな毎日来てもいいねどうも。
アハハ。
うん。
うん?アア〜ットあれ飛び出しやがったよ。
飛び出したはいいけれどもカラスじゃなく椋鳥が飛び出しやがったね。
あっそうか今日はねカラスが何かでね急用ができてそれともね風邪かなんかひきやがったんだ。
『私ちょっと今日具合が悪いの。
椋ちゃんお前さん代わりに行ってくれないか?』。
『心得たわ〜』なんてんで椋鳥が来やがったんだね。
出りゃいいよ何だってな〜。
出てくりゃこっちのもんだよ。
さぁいきますよほ〜ら」。
・「葭をかき分けさ〜と」・「お骨はどこにさと」「こりゃまたどうでもいいけどドッサリまあ〜骨がありやがんね。
またこっちに大きな骨がありやがる。
どれが年増の骨だか分からねえな。
まぁいいや。
な?とにかく酒をかけますよいいですか?断っとくけれどもね昨日先生のあれは飲み余り。
そんな俺のはしみったれじゃないよ。
こっちは江戸っ子だい。
な〜みんなかけちゃいますからね。
こういう具合にね?こうやってさぁ…」。
「断っとくけれどもね俺は飲んでいませんよね〜。
でもね酔っ払って来られないなんざいけませんよ。
なるべくだったらねほろ酔い機嫌で来てもらいてぇね本当に。
エヘッ頼むよ。
それからね来るまじないがあったよな何だっけな?そう『野をおやす』。
ね?『野をおやす骨を叩いてお伊勢さん神楽がお好きでトッピキピノピ』ときやがった。
じゃあひとつ頼むよきっと来ておくれ。
俺の所はね浅草門跡様の裏八百屋の角を曲がるってぇと角から3軒目。
腰障子に丸に八の字が書いてあるからすぐに分かるよ。
きっと来ておくれ頼んだよ」ってぇとそのままポイッと帰ってしまいましてね。
傍らに葭が茂っておりましてそこに屋根舟が一艘。
中でもって客待ちをしておりましたのが幇間たいこもち。
この耳へ入りましたからこりゃもう聞き逃しっこありませんな。
「おやおやおや仰ったねぬかしたね申し上げたね。
私がここでもってトロリとしてるのに気が付かず昼間っからご婦人とこの再会の約束は憎いね。
その場へ行って『ヨッお楽しみお結構』かなんか言やぁねそりゃまぁいくらかにはなるだろうけれどもな。
それじゃ芸人の風流を欠くからな。
え〜邪魔はしたくないといってなんとか言ってましたね。
『俺の所は浅草門跡様の裏八百屋の角を曲がるってぇと角から3軒目。
腰障子に丸に八の字が書いてあるからすぐに分かる』つったね。
先方が分かってんだから夜分になったら出かけましょう」なんてんでまぁひどい奴に聞かれたもんで。
「まったく何をしてやがんだろうね?もうさっきから鐘はゴ〜ンと鳴ってんだよ。
もうね湯はチンチン沸いちゃってるし酒の支度はもうできてるんだからな〜。
もうとっくに骨が入ってきて今時分はもう差し向けえでもってぺえいちやってなきゃいけねえだ。
どうしちゃった?何してんだろう?あっ家間違えてんじゃねえだろうね。
先生〜。
先生のほうに骨行ってねえでしょうね?嫌だよ取っちゃっちゃ。
そっち行ったらこっち回して下さいよ。
こっちはいろいろ入費がかかってんだからね。
何をグズグズしてやがんだろうな?おっ足音がしてきましたよ。
ええ?あっ骨が来たかな?」。
「え〜こんばんは」。
「誰だ〜?」。
「向島から参りました」。
「ヨッ向島なら待ってました。
と言いてぇとこだけど随分声が太いねええ?『向島から参りました』。
分かったね?骨が財産か何か背負って来やがったんだよ。
エヘヘ持参金つきってやつだ。
な〜。
こっち入っとくれ待ってたんだから」。
「左様でございますか。
ではちょっと失礼をさせて頂きます。
へい。
え〜ごめん下さいまし。
へい。
どうも失礼を。
おやおやおや結構なお住まいでございますねハア〜ッ。
畳がボロボロでたたが無くてみばかりという。
またこっちのお障子がまた結構ですなええ。
『国破れて山河あり』なんてぇますけれどもオホッ。
障子破れて桟ばかしというウフフ。
またこっちの流しのほうが落っこちのなんですなやつときましたかねエヘヘ。
それにまた…ハア〜ッ。
あっまたあちらのご仏壇ね〜。
みかん箱のご仏壇てぇなぁ洒落てますな。
ハア〜ッサザエの壺のお線香立てに鮑っ貝のお灯明皿お宅のご仏壇はまるで江の島ですねどうもオホホ。
それからお天井お天井ね〜結構なお天井ですねうん。
『大雨に盥家中這い回り』なんてそんななまやましいもんじゃない。
降ってくるとどうします?『家の中へ入ってしゃがんで傘差してる』?アハハ表ですなまるで。
それにしても居ながらにしてお月見ができるなんざ風流なお宅でございますな。
『貧乏はしてもこの家に風情あり質の流れに借金の山』ときましたかな。
あっヨイヨイヨイと」。
・「人を助くる身を持ちながらあの坊さんは」・「なぜか夜明けの鐘をつく」・「おや鳥が鳴くあっチテトッツンシャン」・「あれまた木魚のポッポッポッ音がする」・「あっチンチチンチンチチンチンチチンチチンチチンチツテトッツンシャンと」「何だい?こいつは。
おつな年増の骨が入ってくるかと思えばまぁ随分騒々しい骨が入ってきやがってお前は一体何だ?」。
「え〜私げすか?私はあの〜新朝という幇間で」。
「何?新町の太鼓?あ〜いけねえ。
じゃあ昼間のは馬の骨だった」。
(拍手)
(打ち出し太鼓)2014/05/04(日) 14:00〜14:30
NHKEテレ1大阪
日本の話芸 落語「野ざらし」[解][字]
落語「野ざらし」▽三遊亭圓輔▽第656回東京落語会
詳細情報
番組内容
落語「野ざらし」▽三遊亭圓輔▽第656回東京落語会
出演者
【出演】三遊亭圓輔,金近こう,斎須祥子,古今亭半輔,瀧川鯉○,三遊亭遊松
ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
サンプリングレート : 48kHz
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