100分de名著・選 万葉集 第1回「言霊の宿る歌」 2014.05.04

日本最古の歌集「万葉集」。
天皇から役人名も無き民までさまざまな立場の人々が詠んだ歌は1,400年たった今も親しまれています。
なぜ古代人は歌を詠んだのでしょうか。
そこには言葉に宿ると信じられた不思議な力がありました。
日本人の感性の原点とも言える「万葉集」。
その魅力を4週にわたってひもときます。

(テーマ音楽)「100分de名著」司会の…さあ今回からお送りしますのはこちら「万葉集」でございます。
僕ついこの間出ましたクイズ番組で「『万葉集』は実際に1万の歌が入ってる。
イエスかノーか?」というのが出まして迷いに迷ってノーが正解だった。
これで僕の知識は終わりです。
このレベルの者がスタジオにおります。
よろしくお願いいたします。
この「万葉集」私1冊しか持ってませんが実はこんなにたくさんあるんです!雅な御本が並んでますでしょ。
「百人一首」よりは多いですよね。
それでは指南役の先生をご紹介いたしましょう。
歌人の佐佐木幸綱さんです。
どうぞよろしくお願いいたします。
どうもこんにちは。
「知ってはいるけれど」という方も多いと思うんですけれど。
魅力ってどこですかね?古代史を知ってけば知ってくほど「万葉集」は味わい深くなる。
そういう時代との関係で見るのが一番楽しいんじゃないですかね。
よろしくお願いいたします。
佐佐木さんの祖父は明治・大正時代の「万葉集」研究に大きな足跡を残した佐佐木信綱です。
佐佐木さんも歌を作るかたわら「万葉集」研究を続けています。
「万葉集」の基本情報を押さえたいと思います。
もともとは巻物だったらしいんですけどね。
いろんな太い巻物とか細い巻物があったりしたみたいですけどね。
それが20本あったと。
このほかにもまだ旅の歌とかこれ以外のもありますけれど主なのはこの3つという事ですね。
既にちょっと面白いのは宮廷の公式行事に関する歌と男女の恋の歌が同居してるっていう。
どっちか片方だとその時代が立体的にならなくて単なる記録だったりとか単なるその人の思いだけなんだけど両方入ってくれる事で「こういう時代なんだ」みたいな事がちょっと分かるかなと。
男女の恋とか人が亡くなるみたいな事がストレートに響いてくるなら1,000年超えても我々の気持ちには何か通じるものがあるみたいなのが何か入ってきそうですね。
それは十分通じますね。
言葉が違う部分があるからちょっと分かりにくいけどね内容というか言ってる事は非常に我々と近いですよね。
今日は先生が貴重な御本をお持ち下さいました。
見せて頂けますでしょうか。
原本はもちろん「万葉集」残っていなくてこういうものがいくつか残っています。
中はこういうものですね。
全部漢字で書かれてあります。
全て漢字ですね。
そうかそうかまだ平仮名は無い時に出来上がってると。
漢字をね中国から借りてきてね大和言葉ですかねそういうものがやっと表現されかかっているそういう時代なんですね。
その例を先生が挙げて下さいました。
もう漢方薬の説明書きですね。
14しかないの漢字がね。
これで31拍五七五七七にどうやって読むか。
クイズみたい。
どこで切っていいか分からない。
なるほど。
これどういうふうに例えば読むかといいますとこの漢字ばっかりのが…。
そうやって読んでるんですね。
あづま野という所で煙立ってるとこ見てたらどんどん夜になってくなみたいな事では通じる気がしますけど。
なるほど!これでもね違う読み方もあるんだそうですよ。
これご存じでしょ。
こっちは知ってます。
江戸時代まではこういうふうにみんな読んでたの。
それが江戸時代になって賀茂真淵という人が出てきてこの部分はこれだけで「東の」これで5読んじゃう。
「野にかきろひの」これで7読んで「立つ見えて」とこれで5読むというふうに読みかえた。
これがどうもいいんじゃないかと。
このパズルは難しいですね。
要するに読み方発音のしかたもいっぱいあるし。
解釈も変わってくるんですか?ええ。
こちら「けぶり」と読んでたんで多分たき火だろうと思ってたわけですけどそうではなくて「かきろひ」というふうになってますね。
これは陽炎だけども山があってその向こうから朝日が昇るとモヤモヤモヤッと明るくなる。
それの事だろうという。
全く違うじゃないですか。
だって時間が変わっちゃうじゃないですか。
意味も変わっちゃう。
うわうわうわすごいな。
当時の文化みたいなものも知らないと。
我々と変わってない部分と変わってる部分があるからねそこが難しいところですよね。
逆にそこが一番面白いとこなんでしょうね。
「万葉集」は歌が詠まれた時期によって大きく4つに分けられます。
今回は第一期。
舒明天皇の即位から壬申の乱までのおよそ40年間です。
この時期の歌にはどんな特徴があるのでしょうか。
これはね一応こういうふうな事を考えてみました。
「言霊の宿る歌」と。
いい言葉ですね言霊。
それではまず「万葉集」の一番最初の歌雄略天皇の歌を聴いてみたいと思います。
朗読は檀ふみさんです。
「籠よよき籠を持ち掘串よよき掘串を持ってこの丘に菜を摘む娘よ家と名前を申せ。
この大和の国は全てこのわれが治めているのだ。
全体的にわれが支配しているのだ。
まずはわれこそ家も名も教えてやろう」。
通りすがりにその女の子に「俺ってすごいんだぜ」って言ってるような。
「どこ住んでるの?」っていう。
「先に俺言っとくけど相当偉いよ」という感じ。
「ここの国を治めてんだよ」っていう。
ただそこにいる女の子もねただの女の子じゃなくて敬語を使ってあるのでね神様に仕えるようなやっぱりちょっと選ばれた女の人だろうと思いますけどね。
でも全体の流れはそういう事。
全体の流れは今ので合ってますか。
これは名前ですね。
ニックネームで通称で暮らしていた。
なぜですか?言霊という言葉が出ましたけど…だから勝手に名前をけなされちゃうとね本人がけなされたと同じになりますから危なくてふだんは使えない。
僕何かでそれ聞いた事あります。
名前をドーンと呼ぶ事は呪いをかけるのに近いようなそういう事だから。
だから「万葉集」にも「お母さんだけが知っている名前をあんたに教えたりはできないよ」。
ナンパされそうになって「あんたの名前何て言うの」と聞かれて「お母さんしか知らない名前あんたに教えられるわけがないじゃないの」そんな歌があったりも。
じゃあ名前を聞くという事は非常に大事な事。
はい。
「俺のものになれ」と言ってるのとほとんど同じ。
基本的な意味は「結婚しよう」。
結婚というのは子供をつくる事ですからそれは豊作を意味する。
そういう春の儀式の歌という事ではないかと解釈してるんですね。
縁起のいい事を言うと縁起のいい事がやって来る悪い事を言っちゃうと悪い事実がやって来る。
言葉の力だと。
子供に縁起のいい名前をできるだけ付けたいでしょ。
それは子供が幸せであってほしいからね。
受験生の前で「滑る」「落ちる」と言っちゃいけないとかね。
試合に「勝つ」から「カツ」食べようみたいなちょっとしただじゃれだけどあれはやっぱり言葉には力があるんだっていう。
悪口言ったりなんかをするとほんとに引き寄せられちゃうよというのは僕らにちょっとあるでしょまだ。
ありますね。
言葉っていうのは単なる記号じゃなくてある力を持っているものだというそういう考え方ですよね。
歌という形にするというのはまた一つ意味があるんですか?短歌がなぜこんなに…1,400年もつながってるわけですよね。
世界で珍しいんですよ。
それはやっぱりもともと…日常の言葉よりは短歌で言う方がより発揮されるというそういう考え方があるからずっと引き継がれてきたんだと考えていますけどね。
俺ドキドキしてきちゃった。
自分の今使う言葉の無駄さに。
今ね言葉が割と信用されない時代になってるでしょ。
言葉じゃ信用できないからはんこを押せとかそういうふうな時代の中でやっぱり言葉が大事なんだというのを僕らはどこかでもってもう一回考え直すというかね。
古代の歌っていうのは言葉の大事なものを大事にしているというそういう感じしますね。
続く第二首は7世紀前半舒明天皇の歌。
「大和には多くの山々があるがとりわけて立派な天香具山に登って国見をすると国土には生活の煙がしきりに立ち水上にはかもめが飛び立っている。
美しい国よ大和の国は」。
国見という地名が今でもたくさん残ってますよね。
その国見です。
各地で行われていた花見と同じような春の行事だろうと考えられてます。
すてきですね我が国を見るという。
高い所に立って。
このように栄えたなとか。
「これから栄えてほしい」ですね。
煙が立つとかかもめが立つとかいうのは…例えば「海原はかまめ立ち立つ」というのもね奈良県では海見えないですよ。
全然俺うっとりしちゃってて…そうですね言われてみれば。
私「あの辺海あったかしら」って。
やっぱり幻想でいいと思うんですよね。
もう上に乗ってる人は実際に見るんだけれどもここは奈良県の大和の国なんですよね。
「うまし国そあきづ島大和の国は」とこれはどうもイメージとしてはもっと広いね全部という。
意識だけは上に上がって宇宙から見たような絵になってそうなとてもダイナミックな感じしますね。
日常の言葉と歌との違いなんですよきっとね。
「万葉集」第一期の7世紀半ばは激動の時代でした。
その主役は中大兄皇子。
権勢を誇っていた豪族蘇我氏をクーデターで排除。
「大化の改新」と呼ばれた政治改革を行い天皇に権力を集中させる国づくりを強力に推し進めました。
その中では皇位継承争いに巻き込まれた有間皇子が死に追いやられる悲劇も起こります。
また国際的な緊張も生じていました。
朝鮮半島で勃発した唐・新羅と百済の戦争。
倭国は百済を救援するため大軍を挙げて朝鮮半島に出兵しました。
その時「万葉集」を代表する歌人額田王によって詠まれた歌があります。
「熟田津で出港の時を待っていると見事な月が出て潮の流れも良くなってきた。
さあ今こそこぎ出そう」。
額田王という人が出てきました。
この人はね文学史的に言うと斉明天皇という女性の天皇がおられるんですけどその方のそばにいたこの時期の大事な歌人の一人ですね。
額田王が詠んだ歌がこちらでございます。
松山の近くだって言われてますけどねトップにいるのが斉明天皇という女の天皇なんです。
女の天皇を中心にして北九州に軍勢を集めてるわけです。
大軍団のトップの女性が「月もいいぞ潮の状態もいいぞ大丈夫行こう」というそういうニュアンスの歌なんですね。
作った段階では潮も月も確認できてるわけじゃないですよね。
ええ。
でもこうなるんだっていうまさに言霊で要はこう言えばこうなるはずだっていう。
やっぱりね言う方も確信を持って言わないと駄目なんだろうと。
「多分」じゃ駄目なんでね。
でもうちでもね子供がケガした時転んだ時に「痛いの痛いの飛んでけ!」って言うとほんとに飛んでいくのよ。
やっぱりそれは子供がお母さんが言う事が絶対だって信じてる事とかねそれからお母さんがほんとに痛がってほしくないと思ってる時の効力なわけで。
そうですね。
共有してないとなかなか効かないのかもしれないね。
だから結婚式の時に「わかれる」という事は言わない方がいいよっていうじゃない?いやそれは逆に言うとそんな言葉が一瞬も浮かばないぐらい祝おうと思ってるという状況の話で。
気迫というかねあるいは…ここがきれい事とやっぱりちょっと違うところでその言霊というものの信じる度合いというかただいい事言えよというのとは多分違うでしょうね。
この悲しい方も出てまいりました。
有間皇子。
中大兄が天智天皇になって政権をとってくるわけですけれどもその前段階でいろんな権力争いがあったわけですね。
これはその反対派の側の人で謀反の疑いありという事で逮捕されちゃうんですね。
そして今の白浜温泉にいる中大兄のところに連れていって裁判を受けるわけですけどねその途中で松の歌があるんですね。
歌を詠むんですね。
その歌がこちらでございます。
「まさきくあらば」というのは幸運だったらという意味ですよね。
松の枝に何かを結ぶんだろうと思います。
約束をする。
幸運で無事に帰ってくる事ができたらそれを見る事がもう一回できるだろう。
是非そうあってほしいという願いの歌。
白浜かみさんの実家なんで何度も行ってますけども。
この歌ご存じでしたか?いや知らなかったですね。
中大兄皇子からすればこの人の存在自体は歴史から消しちゃったっていいっていうか。
だけど歌がちゃんと残ってる。
残ってますね。
そして後の時代の人がまたこの歌を踏まえて歌を詠んでいるんです。
このような歌が。
これは後の時代の人がねその松を通った時に作った歌です。
「松はやっぱり解いてもらう事ができなかった。
そのように心も解けない。
古の事が思われる」。
「どうも心が晴れないで昔の事が思われるよ」とそういう歌ですね。
これ有間皇子の事をやっぱり詠んで…。
同情している。
こちらは「後で見ようと思って君が結んだ岩代の松その松をまた見ただろうか」。
見なかったんですけどね。
そういう意味の歌です。
松を見て有間皇子の事を思い出してそして歌を作ってあげる。
これが言霊思想によってね多分悔しい思いをして死んでいった魂は荒れてるわけですね。
「荒魂」というふうに言いますけど。
「和魂」という平和の「和」と書いて魂の「魂」と書いて平和な魂荒れてない魂にしてあげると。
僕は歴史が苦手だったせいもあって歴史を勉強する時にどうせ全部都合がいいように書き換えられていくんだろうって思ってたんです。
その時々の権力者によって都合のいいとこだけが残るんじゃないかっていうのを歴史を勉強しない言い訳にしてきたんですけど残るものは残るんだと。
しかもすばらしい歌だったから残るというのってとても救われるというかすごいなと思うんですよね。
あ〜!僕はその下の方をあまり知らなかった。
文学を皆殺しできないんだよね。
残っちゃうのがあるんだと思いますね。
しかもつながれちゃうっていう。
ちゃんとその事を思って本当に敗者を鎮魂しようという意識がちゃんとつながれるというのはとても救われる。
しかも先生に教わったおかげでそれがある意味1,000年以上歌がつながるという事だから。
それ歌を作っとかないと駄目だよ。
是非作って下さい。
歌心がないんだなこれが。
和魂覚えよう和魂。
はい荒魂から和魂。
1回目から私はつかまれてしまいました。
私もわくわくが止まらない感じでございます。
先生次回以降もどうぞよろしくお願いいたします。
ありがとうございました。
2014/05/04(日) 15:00〜15:24
NHKEテレ1大阪
100分de名著・選 万葉集 第1回「言霊の宿る歌」[解][字]

現存する日本最古の歌集「万葉集」。番組では、万葉集に収められている歌を、歌が作られた年代ごとに4期に分類、作風の変化を追う。第1回では、最も古い歌を紹介する。

詳細情報
番組内容
最も古い、万葉集第1期に作られた歌では、詠み手は天皇や皇族たちだ。野で女に語りかける雄略天皇、朝鮮半島に向かう兵を鼓舞した額田王の歌などが有名だ。実はこうした歌が作られた背景には、言霊の存在がある。言霊とは、言葉に宿られた不思議な力のこと。古代の日本の人々は、言葉に対して特別な感情を抱いていたのだ。第1回では、万葉集の全体像についておさえるとともに、古代の人々が歌にこめた思いを明らかにする。
出演者
【ゲスト】歌人/早稲田大学名誉教授…佐佐木幸綱,【司会】伊集院光,武内陶子,【朗読】檀ふみ,【語り】徳山靖彦

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
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