100分de名著・選 万葉集 第2回「プロフェッショナルの登場」 2014.05.04

ありがとうございました。
古代の人々の心を映し出す「万葉集」。
天皇の権威が確立し国が安定し始めた時代。
宮廷にはあらゆる場面で歌を披露するプロの歌人が登場します。
中でも卓越した歌を詠んだのが柿本人麻呂です。
言葉の達人が生み出した歌の世界。
その魅力を堪能します。

(テーマ音楽)「100分de名著」司会の…前回に引き続き「万葉集」の世界をひもといていきたいと思います。
そして私はテレビの前の皆さんに幸せが訪れる言霊っていうのを。
言うとそれがそのとおりになるというね。
縁起のいい事を言っていこうと思います。
指南役は佐佐木幸綱先生でございます。
よろしくお願いいたします。
さあ「万葉集」が詠まれた時代はこちらの4つに大きく分けられるという事でございました。
今回取り上げられるのは第二期。
ここですね。
672年に壬申の乱が起きてから710年平城京に遷都するまでのおよそ40年なんですね。
先生この第二期というのはどういう時代だったんでしょうか。
ここまでがいわゆる動乱の時代だったわけですけどここでとにかく反対勢力を抑え込む。
中央集権制をどんどんどんどん強化していって経済とか労働力とかそういうものを中央に集中させていく。
そういう時代だとひと言では言えると思います。
歌の変遷という事でいえばこの時代はどんな感じになってくるのでしょうか?この時代にですね歌をもって宮中に仕えるという専門家宮廷歌人の登場「プロフェッショナルの登場」という事で一応考えてみました。
一体どんな歌が詠まれていたのかこちらをご覧頂きましょう。
天皇を中心とする国づくりを推し進めた天智天皇。
しかし天智天皇が崩御すると皇位継承をめぐる戦いが起こります。
天智天皇の子大友皇子と弟の大海人皇子との間で争われた壬申の乱です。
戦いに勝利した大海人皇子は天武天皇として即位。
都を建設するなど律令国家の推進に力を尽くします。
そうした背景の中で詠まれた歌が次の二首です。
「大君は神であられるので赤駒が腹までつかるような田を造成して都をつくり上げられた」。
「大君は神であられるので水鳥がたくさん集まる湿地帯を造成して都をつくり上げられた」。
都を建設した天武天皇の偉業を「神だからできたのだ」とたたえています。
更に天皇の権威を象徴的に詠った歌があります。
「我が大君は神でいらっしゃるので雷の上に庵していらっしゃる」。
丘の上に立った天皇を「天空の上に君臨している」という壮大なイメージで詠い上げています。
こうして「神としての天皇像」が繰り返し歌に表現されていったのです。
天皇をみんなで尊敬しようという歌ばかりでしたね。
そうですね。
壬申の乱で勝ち抜いた天武天皇が造っていくのが飛鳥浄御原宮というね具体的な名前を挙げるとそれを見事に造り上げた。
ちょっと普通の人ではできない。
神様でいらっしゃるからおできになったとそういう論理ですよね。
しかも頭が同じ言葉で始まるから何か覚えようというかみんなにしみこませようという感じもすごく伝わりますね。
その前は全然ないんですものこういう表現がね。
こちらはね都が出来た事をたたえるというかそういう事なんですけどこちらはそうじゃなくて今でも「雷丘」と呼ばれてる小さな丘みたいのがあるんですけどね。
実際はほんとに100mか…何十mですかねそういう小さな丘の上に簡単な庵を造ってそこにキャンプを張られたというそういう意味なんですけどねそれをこういうふうに壮大に詠って…やっぱり言霊の影響がまだある中でこれを言うという事はやっぱりすごいですね。
言葉に対するそういう考え方とそれからやっぱり時代の空気みたいなのがうまく合致しないといくら古代人でも空々しく感じるんじゃないですかね。
できるだけ立派な大きな儀式をする。
その中で…決まりを作っていくというかこの国はこういう決まりで動くんだっていう決まりをまさに作ってる感じですね。
ええそうですね。
宮廷ではさまざまな儀式が増えていきました。
その中であらゆる場面にふさわしい歌を詠む「歌の専門家」が活躍するようになります。
その代表が柿本人麻呂です。
時の天皇持統天皇が吉野へ出かけた時に人麻呂が詠んだ歌があります。
「神である大君が吉野に行幸なさると春そして秋山の神たちが天皇に忠誠をお誓いする。
吉野山に沿って流れている吉野川は天皇のお食事にお仕え申し上げるといって上流では鵜飼いをし下流の浅瀬には網をさし渡す。
山の神も川の神もお仕えするそういう神の時代なのだ」。
言葉を尽くして天皇の権威を賛美した人麻呂はまさにプロフェッショナルな歌人だったのです。
先生柿本人麻呂という人物は一体どういう人物だったんですか?まあねぇ…たくさんの歌を作ってますしこの時代の大事な歌を作ってるんですけどね人そのものはよく分からないんですね。
何年に生まれて何歳ぐらいでこれを書いて何年没みたいな事は分からない?全く分からないですね。
ただそれでもね芭蕉が俳句のトップで「俳聖」というふうに呼ばれますね。
短歌の方では「歌聖」というふうな言い方をされるのは人麻呂だけなんですね。
この人麻呂が…じゃあ儀式のためとかそういうために歌を作る?はい。
プライベートな事はほとんど詠わないと。
そして例えば天皇が旅行に行くとその旅行の歌を作る。
あるいは偉い人が亡くなるとその葬儀の歌を作ると。
まさにプロフェッショナルですね。
ある意味職人ですね。
ちょっとそのプロフェッショナルぶりをこの歌で見ていこうと思います。
吉野には離宮があったんです。
宮殿があったんですね。
そこに持統天皇何度も行かれてますけれどもそういう時に作られたものだろうと。
例えば「やすみしし」ってこれは人麻呂だけじゃありませんけど代表的な枕詞。
これはどういう意味か「8つの隅を知っている」。
例えば立方体の四角い部屋を思い浮かべる時こっち側に4つあるでしょ。
後ろに4つありますよね。
だから8つある。
8つの隅を知ってると…全体の情報を握ってご支配なさってる我が大君。
こういうのを非常に的確な所に使っているという事ですね。
それからあと擬人法というんでしょうかね。
川の神が天皇の食卓に差し上げようという事で上流には鵜飼いですね。
下の方では網を渡して鮎を捕ってそして差し上げてる。
川の近辺に住んでいる漁師さんが鵜飼いをやってるんだけどそういう事じゃなくて川が。
それすらも川の神様の意思によって鵜飼いが行われてる感じとかがすごいですね。
考え方としては「古事記」などと同じで「国つ神」というその土地の神様がいっぱいいて。
天皇はそうじゃなくてその一段上の天上の神なんですね。
川の神も山の神もよりて仕うる神の御代。
一段上においでになるというそういう意味なんですね。
それから対句も随分…。
何をしてるかというと山の神様がね春は花をかんざしにして秋になると紅葉をかんざしにしていると。
これも対句としてきちっと対句仕立てになっているわけです。
山の話川の話春の話秋の話。
これ上つ瀬下つ瀬。
上流…それから川下もほんとに上手にセットになってうまく入れてるんですよね。
だから柿本人麻呂は確実に書いて添削して「ここはこうした方がいいんじゃないか」って事をやったらしい。
歴史の中でも大きな役割を果たしたんじゃないかと考えますけどね。
柿本人麻呂は宮廷儀式の歌だけではなくこんな恋の歌も詠んでいます。
「笹の葉は山全体にさやさやとそよいでいるけれども私はただ一心一直線に妻を思う。
別れてきてしまったので」。
これはね「石見相聞歌」と呼ばれてるんですけどね今の島根県ですね。
石見に妻を残して都に帰っていく。
その男が主人公なんです。
笹の葉が山全体を騒がしてる。
ザワザワザワザワ。
そこを一人で馬に乗ってずっと都の方に行く。
「源氏物語」を女官たちがみんな楽しんだですよね。
そういうものがもうそろそろこの時期から出始めたんではないかと。
じゃあこれは体験じゃないって事ですか?フィクション?フィクションと言っていいんだろうと思いますね。
じゃあある意味お客様が「何か面白い話ありませんか?」と「聞かせて下さい」なんて言うと「じゃあこんな話はどうでしょう」という感じですか?まあ物語を作って提供するというかね。
しかし多才な人ですね。
いわゆる宮中の儀式みたいな事の公式なものもちゃんと作れるし。
やわらかいものも作れると。
創作であり一つの新しいこの時代のエンターテインメントというか。
これが物語になったりあるいは歌物語というのが出てきますよね。
「伊勢物語」をはじめとして。
そういうものにつながっていくんだろうと思いますけどね。
更にこんな歌も書いています。
心もしなえるほどにしょんぼりしてしまうように昔の事が思われるという意味ですね。
「淡海の海」というのは琵琶湖です。
モチーフは多分ね琵琶湖のほとりに近江の都というのがあってそれが壬申の乱でもって廃虚になっちゃうんですよね。
その廃虚の事を言っているのではないかと。
琵琶湖があってその手前に千鳥がいて琵琶湖の波がこういうふうに来ている。
それを「夕波千鳥」と言ってるんだろうと思います。
「夕波千鳥」と言ったりするのはきれいな表現ですね。
これはいわゆる「造語」と言われてますけどね。
それまで無かった言葉を造り出したと言えばいいですね。
そのまた言語感覚もすごいですね。
夕波千鳥っていうあたかも元からあるみたいにね。
これうろ覚えなんで間違ってたら申し訳ないけど井上陽水さんがね「夏が過ぎ風あざみ」。
「風あざみ」という言葉造ったみたいな。
結局何となく頭に浮かんじゃう自分たちがいるでしょ。
やっぱりセンスですよね。
パッと情景が思い浮かぶような言葉を選び出すセンスというのは人麻呂は優れていたんでしょうね。
ええ。
さあさまざまな歌が含まれている「万葉集」でございますけれども先生その中には「旅の歌」というのもあるそうですね。
ええ。
この時代に特に律令制度が軌道に乗ってくると旅人が増えてくるんです。
どうしてかというと中央政府と地方の各国府ですね。
ですからここでもってこういうふうな判決が裁判で判決が出たというそれ全部地方に回す。
地方でどういう経済の動きがあったってそれを全部中央にあげてまた回すというので旅人の数が増えてくるんです。
そうすると旅人は歌を作る。
そういう事で「万葉集」には圧倒的に旅の歌が増えてくるんですね。
中央と地方を行き来するようになった役人たち。
この時代の交通手段は馬です。
主要な道にはおよそ16kmごとに馬が待機している駅舎がありました。
役人たちはその馬を乗り継いで旅を続けたのです。
旅の途中彼らが歌に詠んだのは訪れた土地や故郷に残した妻や家族の事でした。
「淡路島野島が崎の浜風で都を出る時妻が結んでくれた服のひもが翻る」。
旅の無事を祈ってひもを結んでくれた妻。
遠く離れても心の中ではつながっていたい。
この時代旅はまだ命の危険を伴うものでした。
役人たちは安全を祈願し思いを歌に込めたのです。
これ先生旅の歌の特徴というと?大体馬に乗ったり船に乗ったりしてリレーみたいにして行きますからねかなり危険はあった。
この歌でも…。
地名が出てきますね。
淡路島の。
地名っていうのはね。
そういう考えが一つあると。
もう一つはふるさとの地名を言ったりあるいは奥さんの事を言ったり家の事を言ったりするんですね。
この歌でも…。
「妹」が出てきますね。
それはどういう事かというと出かけ先と向こうとが…これはロマンチックな話ですね。
「思う」という。
しかもその言葉の力を信じてる今以上に信じてる時代だからそこで思うという事の大切さですね。
この旅の歌の例として他には代表的な歌を作る人は?ちょうど人麻呂と同時代に一人高市黒人という人がいます。
この人はね十何首20首ぐらい残ってるんですけど全部旅の歌なんですね。
「旅先で山の上から何となくさびしい感じで海を見下ろしていると沖をこいでいる赤い船」。
「そほ船」というのは赤土で染めた赤い船という意味ですけれどそれが沖にず〜っと去っていっちゃうというそういう意味の歌。
何となくさびしいような感じ。
この人はねみんな向こうに行っちゃったりね島影に消えてっちゃったりそういう歌ばっかりなの。
人麻呂はそうじゃなくて向かっていくとか出会うとかそういう歌が多い。
勢いがいい。
この人はそうじゃなくてスッと向こうに行っちゃう消えてっちゃうという歌が多いんで何となくさびしいようなね。
わびさびの…。
大人の美学みたいなものがちょっとある。
メジャーコードとマイナーコードみたいな。
ちょっと対照的ですよね。
面白いな。
でもこれはこれで好きだな何か。
何かいいでしょ?さびしい感じがね。
それにしても面白いのは十何首全部旅でしかもどっちかというとマイナーコードというかさみしい歌という事は「黒人っぽい」という事ですよね。
これは意識して個性を作ってたのかねおのずから出ちゃったのか分かりませんけど。
まあ後者の方だと思いますけどおっしゃるとおりこれだけ輪郭のきっちりした個性を持ってるのは珍しいですね。
それも僕思うんですけどもともと重要な事を書いて記録する報告するというところからもう一つ進んだからだと思うんですよね。
自分の思った事を書いてるから個性になるんですよね。
なるほどね。
役に立つ事じゃないですもんね。
こんな事言ったって役には立たないんだから。
やっぱり「万葉集」の中でも一段階変わってますね。
進んでる。
どうその場面を切り取るかというのも…。
個性だよね。
全く違ってきますもんね。
さあ次回は第三期でございます。
時代は進み更に個性が花開いてまいります。
今日もどうもありがとうございました。
2014/05/04(日) 15:24〜15:48
NHKEテレ1大阪
100分de名著・選 万葉集 第2回「プロフェッショナルの登場」[解][字]

現存する日本最古の歌集「万葉集」。番組では万葉集に収められている歌を、歌の年代ごとに4期に分類、作風の変化を追う。第2回では柿本人麻呂が活躍した時代を描く。

詳細情報
番組内容
第2期では、第1期で詠み手となっていた皇族に代わって、柿本人麻呂などの宮廷歌人が活躍し始める。宮廷歌人とは、儀式などで歌を詠んだいわばプロの詠み手のことだ。彼らは天皇を神として賛美する歌を数多く残した。しかしなぜこの時代に、天皇が神としてたたえられたのだろうか?その背景には、国家の中央集権化という大きな時代の変化があった。第2回では、宮廷歌人たちの歌を通して、古代日本の歴史のうねりを描く。
出演者
【ゲスト】歌人/早稲田大学名誉教授…佐佐木幸綱,【司会】伊集院光,武内陶子,【朗読】檀ふみ,【語り】徳山靖彦

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
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日本語(解説)
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