◆総理夫人までも…、あおるメディア
安倍晋三総理大臣の夫人・昭恵さんもホタル館を見学にきた際、元職員から「ナノ銀除染」の話を聞かされています。そのときのことは「サンデー毎日」誌が報道しています。
その方法は、自然界で採掘された銀をナノレベル(10億分の1)まで粉砕し、コラーゲン溶液に混ぜた液体を放射能で汚染された土壌などに噴霧するというもの。阿部氏は福島第1原発事故後、この2年間で718回に及ぶ除染実験を各地で重ねてきた。
アッキー(昭恵さん――引用者注)の滞在時間は約3時間半ーー。阿部氏から詳しく説明を受けたアッキーは帰り際、こう漏らした。
「必ず主人に伝えます!」
(『サンデー毎日』2013年3月31日号)
総理夫人や大臣まで、元職員のあやしげな「研究」を鵜呑みにしていることにも驚きですが、それを無批判に報じるメディアの姿勢も大問題です。
大物を次から次へと巻き込んでいく「ナノ銀除染」ですが、なかでも深くはまりこんだのが、小沢一郎氏(元民主党代表、 現・生活の党代表)とその側近の政治家たちです。
◆常識はずれのことだけど…
また元職員による勉強会・講演会なども開催しています。
2012年8月9日の「放射能浄化勉強会」 では、「除染効果はある」という大学教授も講演していますが、その科学的根拠はまったく説明できずに、「そういうもの(常識外れのこと)が出てきた時に、頭ごなしに拒否する。これは良くないだろうと思った訳です」などと言っています。
小沢氏が元職員から「ナノ銀除染」の話を聞いたときのことは、やはり「サンデー毎日」が好意的に記事にしています。
「やればいいじゃないか」
4月9日、永田町の議員会館で男性(元職員のこと――引用者)が放射能汚染の新しい除染方法について説明し終わると、民主党の小沢一郎元代表はそう語った。
(中略)
だが、「さまざまな関係機関に相談してもなぜか話が進展しない」と阿部氏は話す。そこで頼ったのが「原発問題を最優先に解決すべき」と持論を訴えていた小沢氏だった。「小沢先生はやってみる価値があるといってくれた」(阿部氏)
(小沢氏が進める「放射能浄化」計画の仕掛け人『サンデー毎日」2012年5月ゴールデンウィーク合併号)
◆国会での決着
小沢氏からの働きかけがあったかどうかは定かではありませんが、じっさいに小沢氏に近い森ゆうこ議員(当時)が国会本会議で「ナノ銀除染」を国としてとりくむことを求める質問を国会本会議で行っています。
森ゆうこ議員 放射能対策は最優先の課題です。原発サイトの汚染水問題や各地の放射性汚泥など、一時的な管理は限界に達しつつあります。新しい技術も活用し、これまでにない発想で早急に対応すべきです。あわせて、放射能で汚染されたものを拡散する政策は世界の常識に反するものであると考えますが、総理の御所見を伺います。
例えば、新しい技術の中に、下村文部科学大臣も御関心のあるナノ純銀によるセシウム低減技術があります。二月六日、放射線関係の研究会で、半減期を著しく短縮させる減弱効果があったとの検証測定結果が報告されました。まずは、しかるべき機関に実情を調査研究させるべきと考えますが、下村大臣、いかがですか。
下村博文文科大臣 森議員から、ナノ純銀によるセシウムの低減技術についてのお尋ねがございました。
除染技術については、これまでも様々な研究機関や団体等から新しい技術が提案され、日本原子力研究開発機構においては、様々な除染技術に対して実証試験等を行い、その効果を確認してまいりました。
さて、私も関心のあるナノ純銀によるセシウム低減技術でございますが、日本原子力研究開発機構が関係の大学とともに二度にわたる試験を実施しましたが、残念ながら御指摘の効果は確認されなかったものと聞いております。しかし、除染技術として効果的なものを活用していくことは極めて重要であり、文部科学省としては、日本原子力研究開発機構に対し、今後とも各方面から御提案のある技術について、関係各省とも連携し、積極的にその技術的評価に取り組み、有望な技術の確認を行うよう要請してまいります。(拍手)
参院本会議 2013年3月6日
もとより、放射性崩壊強度を人工的に変化させることはごく一部の特殊例を除けば常識外れである。当効果(“阿部効果”と仮称)は、第二著者:阿部により、事故後(福島原発事故のこと――引用者)、ナノ銀担持濾材のホタル生態環境保全の高い能力から、もしやホタル館周辺の放射能低減もとの発想から11年6月頃線量軽減試行過程で偶然発見された。
(「ナノスケール純銀担持体の放射性セシウム減弱効果の検証測定」)
このレポートも、有効性を強調していますが、「なぜナノ銀が有効なのか」という肝心の疑問には答えていません。
しかも2011年6月に偶然発見したことになっていますが、前述のように元職員は同年3月14日には「ナノ銀は放射能を分解する」とツイートしており、発見の経緯にも矛盾があります。
もちろん、この「研究」に板橋区がかかわった事実はありません。ホタル飼育のためのボランティアスタッフが、放射能研究にかかわっていることにも「なぜ?」と疑問を感じます。
こんな不確かな「研究」を国会で取り上げること自体、いかがなものかと思いますが、かつての“信奉者”であった下村氏にまで、「効果」を国会の場で否定される結果となっています。
◆ナノ銀問題をあらためて考える
冷静に科学的な思考、論理的な思考を働かせれば「ナノ銀で除染」が、いかに科学的根拠にとぼしい「トンデモ科学」「インチキ」の類であることは理解することができます。
しかし、原発事故の経験はそうした冷静さを失わせる出来事でもありました。
そこに付け込んだカタチで、元職員は「ナノ銀除染」で国や自治体まで動かそうとしました。
ナノ銀について元職員は、福島原発事故の前まで、「除菌効果がある」「インフルエンザ予防に役立つ」などと「宣伝」していました。その「効果」が原発事故が起きたとたんに「放射能を分解できる」に変わりました。ここにも、元職員の「作為」を感じざるを得ません。
「ナノ銀で除染」を吹聴し、社会を惑わせたことは、懲戒理由にもなっていませんし、法で処罰できるようなことではないかもしれません。
しかし、私は、公務員としても、博士号をもつ「科学者」としても、一般社会人としても、きちんと反省し、謝罪すべきことだと思うのです。
そして、無批判に受け入れ、拡大させていった政治家やマスコミも反省が必要だと考えています。
(つづく)